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肩越しの青空  作者: 蒲公英
ピンクのエプロン
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その1

10月に入り、昭文は忙しくなった。

スポーツクラブにもあまり顔を出さないで、帰宅した後にも何か工作をしているらしい。

工作っていうのは文字通り工作で、折り紙で飾り物を作ったり、飴玉をいくつか仕込んだ首飾りを作ったり。

つまり、運動会で使うものらしい。

「あきふみ先生は、お遊戯教えたりするの?」

「するよ。子供は音楽に合わせて身体を動かすの、好きだもん」

シシャモの中の鯖が、「大きな栗の木の下で」を踊る。

可愛らしいといえば、可愛らしい・・・のか?

「だから、自分で話を振って笑うな!」


「保育園に鳴子があるから、締めに『正調』踊るぞ。年少児は眠くなって帰っちゃうから、5・6歳児だけだけどな。踊りのお姉さん、来るんだろ?」

そう言えば、見に行くと言った気はする。

「そうだね。園長先生にも、ちゃんとお礼言ってなかった」

お祭から1ヶ月以上経っている。


高くなってきた空を見上げて、昭文の勤め先の保育園まで自転車を走らせた。

まだ気温は高い。

せっかくの運動会、晴れて良かったね。

別に身内じゃないから、お弁当を持っていくわけじゃない。

ちょびっと運動会を見るだけの予定。

あ、正調を踊るって言ってたっけ。じゃあ、午後もちょっと見ていこうかな。


狭い園庭の中に小さいトラックが作られていて、そのまわりにはぎっしりとビニールシート。

幼稚園と違って、歩くのに精一杯の子供が「かけっこ」の意味さえわからないで、親と手をつないで歩く。

昭文が支えてる玉入れのバスケットは、多分あたしの頭よりも低い位置にある。

薄緑のポロシャツにジャージと、ピンクのエプロン。

どう見てもかっこいい筈なんかない、そのいでたち。

あたしに気がついた昭文は、小さく手を振って合図してみせた。

手なんか振らなくても、どこにいるのか一目でわかるっての。


昭文担当の「うめ組さん」は4歳児で、話が通じてるんだか通じてないんだかわからない大きさだ。

「うめ組さんの、ふうせんリレーです」

アナウンスが入って、5メートル刻みのリレーがはじまる。

バトン代わりの風船を次の子に渡すだけなのに、5メートルのコースを外れる子、転ぶ子、待ってられなくて自分から受け取りに行く子・・・やっぱりカオスだ。

それでも競技が終わった順に、昭文はせっせと飴玉を仕込んだ首飾りを掛けてやってる。

膝をついた上に腰を屈めて、満面の笑み。

良い、顔じゃないの。すごく、良い顔。


全員に首飾りを掛けて立ち上がった昭文の横に、子供たちが並んで頭を下げる。

退場させて子供たちを席に座らせた後、昭文は何気ない風にあたしの立つ場所に来た。

「これが、俺の仕事。悪くないだろ?」

「うん。子供たちが昭文のことを、好きなんだって伝わってくる」

逆光で機嫌良く笑う昭文の肩越しには、秋の始まりの青空。

かっこいい筈なんかない仕事着に、やけにときめいちゃったのは、絶対に言わない。

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