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肩越しの青空  作者: 蒲公英
距離はどれくらい?
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その6

「あ、もう10時だから、帰る」

「たまには、泊まってけよ」

「明日また、会うじゃない」

土曜の晩だから、泊まっていこうと思えば無理じゃない。

だけど、昭文のアパートで、眠ったことはない。

実は、横に人がいると、眠れない。


今まで付き合った男たちと泊まった時も、細切れの眠りが辛かった。

学生時代の旅行もそうだったし、時々友人と行く旅行でも、眠りが浅くてとても消耗する。

神経質な性質ではない筈だけど、浅い眠りの後の浮腫んだ顔っていうのは、あんまり見せたいものじゃない。

気軽に行き来できるので、昭文のアパートにあたしの荷物が増えることもない。

誰が撮ってくれたのか、お祭の時のあたしの写真が一枚、コルクボードに張ってある。


あたしの仕事は流通事務で、注文を受けたものを仕入れて、配達するための手続きをするってだけなんだけど、時々すっごい我儘なお客さんがいて、毒劇物にも拘わらず、発注時間を過ぎてから電話してきて翌日に持って来いとか言う。

そういう人って大抵大きな研究所だったりするので、とっても偉そうだ。

メーカーさんに無理言って、当日便に乗せてもらって、営業が直接届けたりして。

そんな薬品を間違って発注したりすると、後が大変。

で、ここ2回、あたしは立て続けにそれをやった。


イイワケは山ほどあるし、実は向こうの言い間違いで、電話を受けた時のメモも残ってるんだけど、FAXじゃないので、あたしの書き間違いだと言われれば、言い返せない。

なんせ大きな研究所のエラソウな人なので、聞き方が悪いとか平気で言うし。

営業さんにも流通の責任者にも苦情が来て、返品のできない品物だから重要管理物品の在庫が増えて、商品管理からも大文句を言われて、すっかりへこんだ。

諸先輩方は、あんまり庇ってくれたりしないから(当たり前だ、本人たちもそれを乗り越えているんだから)自分で自分を立て直すしかない。


スポーツクラブでボクササイズのレッスンを受けても気分はすっきりせず、ついでにマシントレーニングもしてやろうとジムに入ると、腹筋に勤しむ熊。

「どうした?迎えに来たのか?」

「あたしも、サーキット一周する」

不審な顔をしている熊の横を通り抜け、ウエイトの調整をする。

あたしがマシン2台目に移ったところで、昭文はサーキットを終えたらしい。

ランニングマシンで足を動かしながら、こっちを見てる。

やりにくいったら。


一周したら、お風呂に入るのに慌てる時間になった。

「あたし、これからお風呂だから、先に帰っていいよ」

そう言ったのに、待っていると言う。

「待ってたって、あたし、今日は不機嫌だよ」

「わかってるから、待ってるって言ってんだ」

ああもう、他人の顔を見るのが習慣になってるヤツって、本当にやりにくい!


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