その4
携帯で翌日の天気を確認しながら、買い物籠の中身を見て悩む。
雨50%って、微妙なところだよなあ。
台風さん、進路を変えないでくださいませね。
だって明日は、お弁当作るって宣言しちゃったんだもん。
熊の部屋でそれを開けるより、外で見せたほうがボロが出ない・・・気がする。
鶏肉OKアスパラOKベーコンOK、シメジOKししとうOKプチトマトOK!!!
夕食が済んでからおもむろにキッチンに立ち、ヤングコーンに豚バラスライスを巻き始めたあたしを見て、母が驚く。
「明日、何かあるの?」
「出かけるのに、お弁当作るのよ」
「静音がお弁当?間違いなく台風の進路がこっちに向くわ」
どういう意味よ。
「いいところを見せたい相手なの?どんな人?」
「そういうわけじゃないのっ!しかるべき時には紹介するから、気にしないで!」
意味ありげに母が笑う。
あたしよりマメで料理のできる男に対抗してるんだとは、言いたくない。
しかも、あんな厚い掌で、太い指で!
で、母の不気味な予言どおり、台風はこちらに進路を決めたらしい。
何が悲しくて、日曜日の朝7時にどんより曇った空を見上げなくてはならないのだ。
お弁当を作るために起きたのよ、あたしは!
空に喧嘩売っても、仕方がないんだけど。
下拵えしてしまったものを、そのままにしておくわけにもいかない。
朝からせっせと鶏の照り焼きを焼き、野菜を茹で、おにぎりを握る。
お弁当っていうのは、外で食べれば2割増で美味しいのだ。
雨でも遊べる場所はないのかとか思いながら、容器を総動員して詰めていると、母が「何人前?」と訊く。
「2人分だよ」
「・・・カバとでも、一緒に出かけるの?」
熊だってば。
あたしより更に小さい母は、自分を基準にモノを考えるから、バケモノのような大男を連想したかも。
今から車で家を出ると連絡が来て外に出ようとするあたしに、くっついて出て来そうになったので、振り切るのに骨が折れた。
だから、しかるべき時には紹介しますからっ!