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肩越しの青空  作者: 蒲公英
曇天に舞う青空
42/73

その5

不機嫌な顔を見ながら、手近な喫茶店で向かい合わせに座る。

あ、あたし、まだ背中に大きくリボン結びだ。

慌てて外して、向かい側の表情を伺いながら畳む。

「怒って・・・る?」

「怒ってねえよ」

ほら、怒ってるじゃない。


おまえの鳴子、と鳴子を差し出されて、バッグにしまう。

お店の人がオーダーを聞きに来たので、アイスコーヒーを頼もうとすると、レモネードに変更された。

「あと、できれば水を、ピッチャーで置いていってください。その分払いますから」

「いえ、結構ですよ。踊り子さんは水分補給しないと」

先輩は頭を下げた後に、やっとあたしの顔を見た。

「飲め。そして、冷やせ」


エアコンの効いた店内で、身体が回復してくると、やっとあたしも頭が働く。

子供たちを驚かせちゃった。

助っ人じゃなくて、迷惑を掛けちゃった。

こんな天気の日は、熱中症になりやすいと知っていたのに。

「・・・ごめんなさい」

「謝るのは、こっちだ。自分はちゃんと給水したのに、おまえにまで気が回らなかった。踊り慣れてるんだから、当然できるだろうと思ってた」

そうなのだ。踊り子が自分の脱水を気にかけるのは、鉄板の約束事で、できない方が間違ってる。

保育士さんは、あの混沌の中で、自分のことをちゃんとできてるのか。

「大人が倒れたら、子供たちの世話ができなくなるだろ?だから一番に、自分の手当てをする習慣がついてんだ。おまえは素人だから、そんなことできないっての忘れてた」


申し訳なくて、もう一度頭を下げる。

「ごめんね」

先輩の顔が柔らかくなる。この人はいつも、すごく良いタイミングで、こんな顔をする。

「腹を立てたのは、自分に対してだ。静音は悪くない。軽くて良かった」

お水ばっかり何杯も飲み、先輩がポケットから出した塩分補給のタブレットを齧ったら、眠くなってきた。

「慌てて、強く言い過ぎた。悪かった」

先輩の声が、少し遠い。


「だるくて、眠い」

「ああ、もうちょっと休憩したら、送ってってやる。歩いて来たのか?」

「自転車」

「じゃ、2ケツだな」

道路交通法違反です、あきふみせんせい。

5分くらいウトウトしたみたいで、気がついたら先輩はレジを済ませていた。

「回復するまで、フォローできなかった侘びもしないとな」

ううん、それは違う。

公務じゃなくても、先輩は園児たちの先生なのだ。

先生が子供たちを放って自分の気になることを優先したら、あたしは先輩に失望していた。


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