その2
お祭りへの参加は土曜日だけ、保育園チームだから、長いコースを踊ることはない。
衣装はTシャツと短いスパッツだけだから、化粧や髪に時間を掛けることもないし、コンテストにもエントリーしてないから、気楽と言えば気楽だ。
土曜日の昼過ぎに、ポニーテールを逆毛にして鳴子入りのウエストバッグをつけたあたしを見て、母は「お祭り?」と聞いた。
「うん、ちょっと助っ人を頼まれたから、一日保育士」
「どうせなら、笑夢で踊ればいいのに」
「踊りたい気はあるんだけどさ、練習にフルで出られないし」
練習のために週に何度も拘束されるのは、社会人にはちょっと辛い。
どんよりしたお天気で、降らないといいななんて思いながら歩く。
集合場所で先輩が持っていたふらふは、綺麗な空色だ。
ところどころに白い布が見えるのは、雲なのかな。
多分、中央には保育園の名前が入っているんだと思う。
「いいだろ。旗が空で、子供たちが太陽だって園長が考えたんだ」
ああそうか、それで朱赤のシャツなのか。今日は、お日様がいっぱいだね。
本当に、お天気がもつといいなあ。
「あきふみせんせー!」
子供たちが何人も走って来る。
よじ登ろうとする子、体当たりをする子、旗を持ってみたいと言う子。
「あきふみせんせい、人気だね」
ぼちぼち集まって来はじめた他の保育士さんたちと、挨拶を交わす。
園長先生に丁寧に挨拶されて、恐縮してしまった。
「原口先生のお友達ですって?良い踊り子さんなんですってねえ」
「そんなことはないです。踊るのが久しぶりなので、今日は楽しませていただきます」
「はーい、みんな集まってー。今日は、このお姉さんが一番前で上手に踊ってくれるので、みんなも負けないくらいかっこ良く踊りましょう」
園長先生がメガホンで子供たちに話すのを、保育士さんたちと並んで聞く。
ちょっとくすぐったい。
子供たちの後ろに、竹竿を立てて仁王立ちの熊。
視線が油断なく子供たちの頭の上を、行き来している。
今日は「原口先輩」じゃなくて「あきふみせんせい」なんだな。
一人だけ朱赤じゃなくて、青いシャツ。サイズがなかったんだろうなあ。
あきふみせんせい、お仕事を拝見させていただきます。
カオスな子供たちを並ばせ、小さい子供の横にはお母さんたち。
虹色のオーガンジーのリボンを襷掛けにして、背中に大きく蝶々結び。
進行係さんに先導されて、道路に出るとワクワクする。
さあ、子供たち、踊るよ!
あたしの後ろには保育士さんが二人、つまり三角形のトップ。
最後尾の先輩が、ふらふを大きく振って準備完了の合図をする。
空はどんより曇っているのに、先輩の上にだけ青空が広がる。
「子供たち、元気はいいか!」
「おー!」
「二歳児から六歳児までが、可愛く元気に踊ります。沿道の皆々様には手拍子の応援をお願いします。では、まいります!いよぉーっ!よっちょれっ!」
声だし役の若いお父さんのアオリで、音楽が始まる。
子供の歩幅に気をつけながら、あたしは踊り進めた。