その3
朝早くからバーベキューの支度して、車の運転もして、重い荷物も全部持って、しかも今はコンロの前。
「先輩、疲れないの?」
「早番の時は七時出勤だからな、朝早いのは慣れてるんだ。今日は神経使ってないし」
食材は粗方お腹の中におさまり、先輩もビールなんか持ち出してる。
「飲酒運転にならないように、一本だけな。水遊びしてれば、醒めちゃうだろ」
うん、川の冷たい水は気持ち良い。
先輩のハーフパンツから出てる足は、やっぱり筋肉質。
意外に肌理の細かい肌が日焼けして、肩の辺りが赤くなってる。
「それ以上焼けると、服が着られなくなっちゃうよ」
「うん、もうヒリヒリしてる。ちょっと、これ塗ってくれる?」
アロエのジェルを受け取り、肩から背中に伸ばす。
ずいぶん広い背中だなあ。あたしの倍くらいあるかも。
ついでにあたしも日焼け止め追加。
先輩は川にざぶざぶ入って行っちゃって、ちょっと深みになっている場所で泳いでみたりしてる。
気持ち良さそうだな、うずうずする。
「静音も泳いじゃえば?外遊びに来て、日焼け気にしたって仕方ないだろ。色白なんだから、多少は」
「シミになるもん」
「大丈夫だ、シミになったって静音は静音なんだから」
って、横抱えしないで!園児じゃないんだから!
足のつかない場所まで連れて行かれて、先輩の肩に掴まる。
敵は足がついているのか。
川の流れを身体に感じたら、本当に日焼けを気にするのが、バカバカしくなってきた。
子供みたいに遊んでしまって、ビニールシートにごろんと横たわったら、疲れていない筈の先輩が、先に寝息をたて始めた。
こういうの、いいね。
でもね先輩、あたし、さっき気がついたの。
先輩のバーベキューセット、ふたり用なんだね。
あたしの前につきあった子と、やっぱりこういう遊び方をしてたんでしょう?
もちろん、それが良いとか悪いとかじゃなくて、ただそれが、料理を教えたって人と同一人物なのかなーなんて思うだけなんだけど。
隣の気持ち良さそうな寝息に誘われて、あたしも目を閉じたまま、そんなことを考えていた。