その2
先輩の大きいシャツだけ着ることにして、もぞもぞと自分のシャツを脱ぐ。
コンロの用意をしてクーラーボックスを開けている先輩の背中には、汗が流れてる。
切り揃えて、焼くばかりになっている野菜。本当にマメな人だ。
「先輩って、実家にいるときから台所に立つ人だった?」
弟は料理なんて滅多にしなかったので、そんな男の人はいるのかと疑問に思っただけだ。
「いや、一人で住み始めてから。料理の上手な子に教えてもらって」
言いかけてから、しまったって顔をしたので、理解してしまう。
ああ、前の彼女が料理上手だったわけね。
「ミシンの使い方も教えてもらったわけ?」
「いや、小学校の時に家庭科で使っただろ?」
興味津々風に顔を見ちゃうけど、実は面白くない。
この前は先輩の作ったお弁当を食べて、今は切り揃えてもらった野菜に火が通るのを待ってる。
お料理上手でミシンの使い方を教えられる女の子と、見た目だけ女の子らしいのに、中身はがらっぱちのあたし。
女としての格上は、絶対に前者だ。
「肉、焼けてきたぞ。タレと塩、どっちで食う?」
「塩。ビール、出して」
コンロの前でトングを使いながら、腕を伸ばしてクーラーボックスを開け、「手がかかるな」と先輩は笑った。
ビールを受け取ろうと腰を屈めたら、ニヤッとした顔が向いた。
「何かのサービスか、それ」
「何?」
「淡いピンクは可愛いけどな、臍まで見えたぞ」
忘れてた。大きいTシャツって、襟ぐりも大きいのだ。
「それは次の楽しみだから、今日のところはしまっとけ」
「次はないっ!」
「そんなわけ、ないだろ。聖者じゃあるまいし」
そう、だよね。あたしも、ないとは思ってないもん。
あたしの外見じゃなくて、性格が気に入ったという。
本当に?どんな風に?
少なくとも、あたしは先輩の人の良さそうな笑い方とか、あたしが焦らないように急かさないでいてくれる気の遣い方は、とっても良いと思ってるんだよ。
頼り甲斐のありそうな太い腕も、不本意ながら気に入ってるんだけど。