その5
先輩とお酒を飲みに行ったのは、その後のことだ。
先輩の勤め先には男の保育士さんが何人かいるみたいだけれど、仕事を離れてお酒を飲むことはあまりないと言う。
「保育士同志って、お酒の席でどんな話するの?」
「普通だよ。仕事の話とバカ話、半々。男同士だとシモネタに走るし」
「ロリコンの保育士とかっていないの?」
「産婦人科医が助平だと思うか?」
まあ、それはそうだけどね。
あたしは実は、結構強い。
色が白いのが幸いして、顔が上気すると、周りの人は酔っていると思ってくれるから、あんまり無理強いされないお得なタイプだ。
だから普段なら、潰れることも記憶をなくすこともない。
先輩がどういうタイプの酔い方をするのか、じっくり観察してやろうと思う。
土曜の晩に待ち合わせて、居酒屋に行く。
気を張る相手じゃないし地元だしで、ジーンズ着用だ。
「なんだ、この前みたいに女の子っぽい格好じゃないんだ」
ああ、柏倉と待ち合わせしてた時のことか。
「先輩と会うのに、おしゃれなんかしません。普段ジャージで歩いているような場所だし」
ちょっとがっかりしてるかな。でも先輩だって、Tシャツにジーンズじゃない。
途中で顔馴染みとばったり会ったり、知らない店ができてるなんて言い合ったりで、地元のお気楽ムード満載。
これでデート仕様じゃ、却っておかしいんじゃないかと思う。
チェーンの居酒屋に腰を落ち着け、まずはビールで乾杯。
「何に乾杯?」
「とりあえず、はじめて一緒に酒を飲むってことに」
メニューを広げた先輩は、あたしの食べる量の三倍くらいを、一度にオーダーした。
「まずは、こんなとこかな」
「え?余るくらい頼んだじゃない」
「篠田の倍の身体を維持するんだぞ。しかも、ガキ相手の肉体労働だ」
あたしの弟も、あたしに較べれば食べる量は格段に多い。(大きくならなかったけど)
会社の宴会では誰が何を食べてるかなんて知らないけど、男の子とご飯を食べに行っても、よく食べるなーくらいの感慨はある。
だけどこれは・・・うーん。次々と運ばれる料理を見ながら、驚嘆する。
身体の大きさが違うって、使うエネルギーも違うってことだ。
「篠田、ずいぶん食が細いな」
「あたし、熊じゃないもん」
ビールからチューハイに切り替えた先輩は、機嫌良く笑った。