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肩越しの青空  作者: 蒲公英
熊には乗ってみよ
22/73

その2

梅雨の合間を縫って、先輩と夜の公園で待ち合わせた。

「もう、動きは覚えたよね。あとは鳴子を握り締めないようにすれば大丈夫」

ネットで取り寄せたっていう、あたしよりもふたまわり大きい鳴子は先輩の手によって、きっちりと握られている。

「そこに力入れちゃダメだって。親指と人差し指で挟むだけ。残りの三本の指は鳴らすときに打つのよ」

「踊りながらそんな器用な真似、できない。篠田、よくできるな」

「あたし、折り紙は折れないよ、先生」


先輩の手を掴んで鳴子を持たせて、あたしの手を上から添えて指はこう、と形を教える。

ね?と先輩の顔をふり仰いだら、慌てて目をそらす仕草が見えた。

何を見ていたのかと自分の胸を見下ろして、浅いVネックで上から見える筈はないと確認する。

気のせいだったかなと、もう一度指に目を戻して、打つ時の形はこう、と教えてもう一度先輩の顔を仰ぐ。

そして、最近めっきりご無沙汰だった表情に、 やっと気がついた。


「先輩、照れてる?」

ウウとアアの中間くらいの声が、先輩の喉の奥の方で聞こえる。照れる熊!

「篠田の手、小さいな」

「先輩の手が大きいんでしょ?」

あたしのこと勝手に抱っこしちゃうくせに、手を触ったくらいで照れるのはおかしいでしょう。

面白いので顔を見続けてしまうと、先輩は上を向いた。


「まったく、他人の感情を噛んで振り回すような真似しやがって」

ふいに、足が地面から浮いた。瞬間、状況が確認できなくて固まった。

気が付いたらすっぽり先輩の胸で、腰に巻きついた手に握られた鳴子があたって、痛い。

「どんだけ抑えてると思ってんだ。目の前で男と待ち合わせするし、頼りない顔で腕に掴まるし」

「ちょっと待って!鳴子、あたって痛い!」

ああごめん、と手を離す程度に冷静だ。

びっくりした、今までそんな気配見たこともなかったし。


「別に、先輩の前で待ち合わせしたわけじゃないもん」

「あの晩、よっぽどメールしてやろうかと思った。返信がないと余計に気になりそうだから、やめた」

そういった後、不便だなと呟いて、膝立ちになった。

膝から下がなくなって、やっと同じ目線になる。

「やらせてないよな?」

見事に直球な質問。

「その質問に答える義理はないけど、してないです」

答えた後に、ちょっとだけ考えて付け足したのは、サービス半分。

「先輩の方が、男としてのレベルは上だよ」

残りの半分は、本音だった。


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