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肩越しの青空  作者: 蒲公英
熊には乗ってみよ
21/73

その1

梅雨に入ったので、先輩に踊りを教える機会がなかなか無い。

あの後、先輩は何事もなかったように、何考えてるのかわからない人に戻ってしまった。

休みの日に、今度はちょっと下り方面の美術館に出掛けた。

原爆の図で有名なその美術館は、小学校の時に行ったことはあっても怖ろしい印象しかなくて、その後にプライベートで行ったことはなかった。

先輩も同じだと言ったけれど、そこに誘ったってことは興味があるからだと思う。


真剣に原爆の図を見る先輩の顔を、下から窺う。

よく見えないけど、痛々しげだったり悲しげだったりの百面相だ。

直視したくない、けれど直視しなくてはいけない絵に囲まれて、あたしも胸が苦しい。

いろんな感情を揺さぶられて、横にある太い腕に思わず手をかけた。

「ん?どうした?」

いつも通りに腰を屈めてあたしの表情を確認する。

言えません。心細くなって、つい縋ってしまったなんて。


ああ、この人は保育士さんだ。

こんな大きな男の人が保育園に居たら、子供たちは怖がるんじゃないかと思ってた。

「人間ってのは想像力失くすと、非道いことができるもんだな」

あたしの頭にポンと手を置いて、先輩は柔らかい顔をした。

「辛かったら、出るか?」

仕事場での顔が見える。

子供たちは先を争って、先輩の背中にしがみついているに違いない。


あたしの背中全部を覆ってしまうんじゃないかと思える、大きな手に押されて、あたしは展示室を出た。

降り出した雨のせいで庭を見て回ることはできずに、先輩の小さな車に戻る。

「名物の焼き鳥でも食うか?」

この辺の焼き鳥は、豚のカシラ肉を辛味噌で食べるのだ。

「ビールが欲しくなるから、いい。先輩運転しなくちゃならないし」

結局道なりのファミリーレストランに落ち着き、改めて向かい合わせに座った。


「そうか、篠田に酒飲ませたことはなかったな。酔うとどうなるの、静音サンは?」

「あんまり変わらないと思う。昭文サンはどうなの?」

名前で呼ばれたから、ちょっとお返し。

先輩は顔をくしゃくしゃにして笑った。

「確認すればいいじゃん。次は、飲みに行ってみよう」

また先輩のペースに持って行かれてる。

でも、いいや。

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