その1
親会社の柏倉さんと、仕事を離れて会うのは2回目だ。
つまり彼が見てるのはまだ、あたしの猫の皮だってことだけど。
彼もあたしに良い顔しかしてないだろうし、そうやって探り合うのは結構楽しい。
定時に会社を出て、お互いに都合のつく池袋で待ち合わせ。
食事して、ちょっとお酒を飲んで、当たり障りのない会話と、ちらちら見える下心。
見た目は悪くない、仕事の内容も知ってる、話題はそれほど薄くない。
時々「ウチの会社」の話が、お父さんの自慢をする小学生みたいに聞こえるけど、大会社に入るために努力したのだろうし、それなりのプライドもあるのだろうと納得する。
「ウチの会社内にいたら、篠田さんの競争率、高いだろうなあ」
都内じゃなくても男は居るんですけど。
大学生活を都内で過ごしたあたしに、都内に対する幻想はない。
この人にはまだ、それを言ったことはないけど、どこのイナカモンだ、あんた。
今時は情報も流通も、ストレスがある場所は少ないっつーの。
なーんて慣れない男に言う訳はなく、にっこりと笑ってみせる。
スーツの趣味も普通だし、会社は大きいし、何よりもあたしに興味を持ってる。
エスコートは上手で、突拍子もないこともしない。
これなら、もう何回か会って、なし崩しにオツキアイのパターンかなあ、なんてね。
柏倉さんも多分、同じようなことを考えてると思う。
それなりの年齢だし、仕事の繋がりもあるから、お互いに慎重に様子を見てる感じかな。
少なくとも、開口一番で「結婚しない?」なんて言う、どこかのバカとは違う。
「また、連絡していい?」
「はい、楽しみにしてます」
お約束の会話で手を振って、行儀良く別れる。
これがフツーだよ、先輩。
間違っても、いきなり「結婚することにした」なんて言わないよ。
でも、あのインパクトのせいで、先輩にははじめから、猫の皮はナシだった。