三途六文の忘却
江戸の某所に、とある橋があった。
「忘れ橋」
この橋を渡ってしまうと、記憶を一部無くす。そんな噂があった。
普段は現れない。ふとした時に現れる。
そんな噂を聞きつけた幹作は早速外に出た。
興味半分、恐怖半分。
ただ、夕刻になろうと橋は現れない。
赤く染まった空には雲一つ。
気が付けば夜半。星は何も思っていない。
幹作は焦って帰ろうとした。
しかし、後ろには橋、無かったはず。
幹作は記憶違いと思い、渡ろうとした。
しかし、喧騒が聞こえる。
「なぜ私を避ける?」「あなたは誰だ?記憶がない」
そんな声が聞こえる。ただの言い争い。
幹作は橋を渡る。
ん?なぜ私はここに居る?
後ろには橋、とりあえず渡ろう。
ん?今日はこんな服だったか?
何かがおかしい。
また橋を渡りかけ、止まる。
川だ、霧でよく見えない。
しかし、はっきりと見えるものがある。
銅貨だ。銅貨が浮いている。
気味が悪くなって、橋から出た。
ん…?こんな金…持ってきたか?
銅貨六つ。六文銭だ。
そこに、顔が見えない老人が現れる。
六文銭、渡り賃だと。
とりあえず、六文渡し橋を渡る。
ん…?俺は誰だ…?
幹作は戸惑った。周囲は霧で見えない。
そこに、声が響く。
早く進め、と。
俺は何を…
見慣れない景色、白装束の人々。
赤い肌の、角の生えた人間。
幹作は、ようやく気付いた。
ここは冥土だと。
その頃、江戸ではもう噂がパッタリと消えていた。
あの橋は、なんだったのか。
賑わう江戸の街。
老人は団子を食いながら呟いた。
また一人、三途橋に人が。




