絹糸 - KINUITO -
逢いたいな...
あたし、ショーウィンドウを見ている。人がいっぱい。銀座の古くからある素敵なお店。綺麗なお洋服が煌びやかに並んでいます。
待ち合わせ? …いいえ、勝手に待っているだけよ。悪い娘じゃないわ。そうじゃないの。花売りでもないの。
鏡と化したピカピカに磨かれた窓ガラス。
うん、悪くないと思うんだけどなあたし...ンフ、生まれつきカールのくせ毛でロングなの。色素が薄いんだよね。黒髪に憧れるけど...優しい肌触りの薄桃色のドレス着て…待っているの。
はやく大好きなあのヒトに逢いたいな。さらって欲しいの。
行きかう人を目で追うけどね、ここら辺に彼の好きなバーがあるんだけどね、人が多すぎて...淋しいな。
あのひとだけが見えたらそれでいいよ。
あのひとがみえないな。この頃心も…なんだか…海を照らす灯台の灯りの先のように、ずっと遠くに居る感じ。
お友達とはよくここいらでおしゃべりするのよ。みんな好きな人が居るわ。お金持ちのお爺さんに恋してる娘。同級生を恥ずかしそうに見つめている娘。あたしのように、少しだけ年下の彼に首ったけで、毎日ため息をついてる娘。
あたし達は人魚のお話やシンデレラストーリーを知ってるよ、と自慢し合うの。いかに自分がレディーであるかということをよ。
あ!? あっ…あれは…あたし、つばを飲み込む。瞳を真ん丸にして輝かす! あのひとがきてくれたっ。
お店に入って来たわ。
「この娘、素敵だね。前からずっと気になっていたけどさ…ほら、男性で…なんか可笑しいかな? こんなの」
店主が言う「いえいえ、お客様。あなたはお優しい方です」
彼があたしを抱き上げたっ! かいなに抱き寄せるので、彼の香りを強く感じる。
…そうあたし、アンティークドールなの。
彼のお部屋で過ごすのよ、これからずっと一緒です!!誰かが変だと言ったって、あたしをべッドに入れてほしい。ええ、きっとそうするわ…彼は愛情たっぷりだもの。
そうね、あたしはお人形だから…これから愛おしいひとのもとでいろんなシーンを目にするわきっと。
あたしは泣く時もあるかも。
でもね、キラキラした魔法で彼を守ってあげたいの。あたしの幸せがいま始まったのです。
運命は時に残酷だけど、花のような香りがする




