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第14話「暗殺の刃」

 辺境防衛の誓いから数日後。

 塩湖の八升区画は順調に稼働し、契り袋は日に日に増えていた。人々は笑い、子どもは学び舎で数と字を覚える。――だが、クラリスの胸には重苦しい影が漂っていた。


「殿下が黙っているはずがない」

 イングリットの言葉が、夜毎に耳に残る。


不審者


 ある夜、警戒の笛が短く鳴った。湖畔に影が差し、夜警の兵が倒れているのが見つかった。命に別状はないが、後頭部を殴られていた。


 イングリットが剣を抜き、周囲を探る。

「侵入者がいる。狙いは……クラリス様だろう」


 クラリスは落ち着いた声で命じた。

「契り袋を三つ渡し、夜警を増やして。だが騒ぎ立ててはいけません。敵は闇を好む。ならば、闇で迎え撃ちましょう」



 翌晩、クラリスは執務室に明かりを灯し、机に座るふりをした。

 実際の彼女は別室の小窓から、湖面に映る影を監視している。


 ――カラン。

 窓の鍵が外され、忍び込む気配。黒布をまとった男が短剣を握り、机に歩み寄る。


 その瞬間、床下から縄が跳ね上がり、男の腕を絡め取った。

「なっ……!」

 ドミトリとフェンが飛び込み、男を押さえ込む。


 クラリスは姿を現し、静かに問いかけた。

「誰の命令で?」


 男は唇を噛み、吐き捨てる。

「……王太子殿下だ」


動揺と結束


 捕らえた暗殺者は牢に入れられたが、辺境の人々に動揺が走った。

「王太子が本当に……」

「塩を守るために、私たちまで標的になるのか?」


 クラリスは広場に立ち、全員を前に声を張った。

「はい、殿下は私を消そうとしました。ですが、それは私たちが“国”になった証です。剣ではなく、闇を使うしかなかったのです」


 彼女は契り袋を高く掲げた。

「これは皆で積み上げた証。私一人ではなく、ここにいる全員の力。――殿下が私を狙おうと、この国は倒れません!」


 群衆の中から「その通りだ!」と声が上がり、次々に契り袋が掲げられた。

 闇が狙った刃は、逆に人々の結束を強めたのだ。


王都への伝達


 ルーカスは交易院の封蝋を押した書簡を差し出した。

「この件は王都に報告します。王太子が背後にいると明らかになれば、陛下の逆鱗に触れるでしょう」


 クラリスは書簡を受け取り、頷いた。

「けれど、ただ裁かれるだけでは足りません。殿下は必ず次を仕掛ける。――その前に、こちらからも“証”を示さなければ」


 ユリウスが首を傾げる。

「証、とは?」


「辺境は塩だけではありません。硝床も育ちつつある。――それを王都に示しましょう。塩と硝、二つ揃えば、もはや誰も無視できない」


夜の誓い


 その夜。湖畔に立つクラリスの前で、波が月明かりを反射して揺れていた。

 イングリットが隣に立ち、言う。

「暗殺を退けたとはいえ、殿下はこれで引かない。次はもっと大きな力をぶつけてくる」


 クラリスは静かに答えた。

「ならば、こちらも“国”として受けて立ちます。剣を抜かずに守り抜き、そして証明する。――辺境が、真の国家であることを」


 湖のきらめきは、まるで黄金の未来を約束するように輝いていた。

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