秒でサスペンス
夏も終わりに近づき、朝も段々と涼しくなってきた。
なんて気持ちの良い目覚めだろう。。。
小鳥の鳴き声で起きるなんて、まるでドラマの主人公にでもなったようだ。
私は軽快なリズムで階段を下りていった。
そしてミュージカル俳優かのように「おはよう♪」
と家族のいるはずのリビングへ向かっていった。
そこには刃物持った顔面血まみれの夫がいた。
「きゃーーー!!!」
私はあまりの恐怖でもう一度二階へ駆け上がり、なぜだか長男のいる部屋へ逃げ込んだ。
「ちょっと待ってくれ!!」
刃物顔面血まみれの夫は狂った様子で一階から私を呼び続けていた。
長男の部屋に入った私はすぐさま鍵を閉めた。
長男の無事を確かめようとした次の瞬間、私は絶望のどん底に落とされることになる。
「いやーーー!!!」
長男も顔面に血を流し、着ている服も血まみれ、布団にも血がべっとりでベッドに横たわっていたのだ。
「一体何が起こっているの?!夫が無理心中をしようとしているんだわ!息子に手を掛けるなんて許せない!!」
私は長男の部屋にあるトロフィーを手に持ち、恐る恐る一階へと向かった。
そしてさっきまで私は爽やかな主人公のように
「おはよう♪」と言っていたのだが、今は全く真逆だ。
サスペンスの女王にでもなったかのように、
刃物顔面血まみれ無理心中夫がいる一階へ息を潜めながら階段を下りているのである。
一階へ下り恐る恐るリビングへ行くと、大量の血が付いたティッシュが部屋に散乱していた。
「ひぃ!!」
私は思わず声を出してしまった。
すると刃物顔面血まみれ無理心中夫が洗面所から刃物を持って出てきた。
「酷いじゃないか!こんな時に僕を1人にするなんて。」
「あなた、自分の子どもに手を掛けたの?!
信じられない!私を殺して自分も死ぬ気なんでしょうけどそれは無理よ!」
と持っていたトロフィーを大きく夫の頭に叩きつけた。
「母さん!!なんて事をするんだ!」
そこには血まみれの長男の姿があった。
「あなた生きていたの?!無事で良かった!本当に良かったわ!」
「これは大量の鼻血だよ。僕は昔からよく寝ている時に鼻血が出る時があるんだ。」
「うぅー。頭が痛い。酷いじゃないか。僕はただ、髭剃りに失敗して顔を切ってしまって血だらけになってしまっただけなのに、、、。手当をお願いしようとしたら君が逃げてしまって仕方なく自分で手当をしていただけなのに、、。」
「そうだったのね!あなた、本当にごめんなさい!
私ったら勘違いをしてしまって。こんな怪我まで負わせてしまって、、。本当に許して!」
と私は愛おしそうに夫を抱きしめたのだった。
短時間でさわやか主人公からサスペンスの女王、そして悲劇のヒロインになった私は、その時完全に才能が開花してしまったようで、女優のオーディションを受けて大女優になろうと心に決意したのであった。




