心
体育祭が終わり、筋肉痛の体を精一杯動かしながら学校に行った。
一年の教室は3階にあり、辛い階段を毎日登る。
筋肉痛の今日は特に辛い。
「おはよ」「おはよ」
性格とか中身は全く知らないけど、名前だけは知ってるような人と挨拶を数回して学校の廊下を歩く。
教室に入ると、亜希が赤羽と話していた。
元々、クラスの端にいた亜希が、一つのきっかけで友達ができて。
またきっかけを作っていけばまた友達が増えていくのかなって、俺が背中を押してあげないとって思った。
「おはよう」「おはよう」
教室の中でも数人と挨拶して、ちょっとした話をする。
「今日、数学の先生いないらしいぞ」
クラスメイトの佐々木君が言った。
「まじ?自習かな?ラッキー」
こんな、ちょっとした話をする。
「おはよ『・・・』」
「おはよう!!」
亜希と赤羽が俺のそばに来た。
なんか少し安心したような、心があったまるような、そん感じがした。
「うん、おはよ」
もうすぐ、定期テストがある。
テスト期間に入り、みんな勉強モードだ。
「テストかー、嫌だな」
「そうだね、テストできるかな?」
亜希は自信なさげに言った。
「亜希はテストの調子どうよ?」
「僕はね、まぁまぁ勉強してるよ」
「まじか」
「『・・・』は?勉強してんの?」
「い、いや、全然」
「お、一緒じゃん」
赤羽が言った。
「おー、赤羽、お前も勉強してねーの?」
「おぅ!してない!勉強より部活だ!」
「熱血だねー、熱羽だな」
「熱羽かー」
3人で笑った。
学校が終わり家に帰る。
俺は荷物を置き、風呂に入る。これが18時。
風呂から上がり、晩ご飯を食べる。18時半。
机に向かい、椅子に座る。19時から1時。
俺はめちゃくちゃ勉強していた。
平日はいつもこの時間の勉強。
休日はこの時間の2倍の時間勉強している。
赤羽には悪いけど、俺は勉強させてもらう。
22時くらいには、あくびのしすぎで顎が外れんじゃねーかって思うことがある。
それも毎日。
正直、勉強ってつまんねーし、眠いし、辛い。
でも、負けたくなかった。
ここで、勉強できるところをみんなに見せれば、人気者になれんじゃないかって、モテるんじゃないかって、、、
そんなことを思っていた。
定期試験の日が来た。
少し手が震えている。
でも、これまでやってきたし、大丈夫なはずだ。
高校初めての定期試験ということもあり、勉強をそれなりにしたからというのもあり、結構緊張していた。
朝食の時間も試験範囲をまとめたノートを見ながら食べた。
玄関を出る時に、なんか忘れ物あるじゃないか?と、何度もリュックを見ては閉めるを繰り返す。
俺は心配性だった。
「よっす」
登校の道中で亜希に会い、挨拶をしてきた。
「よっす」
「どう?テスト」
「いやぁー、まぁ大丈夫だと思う」
「僕も大丈夫な気はする」
そう喋りながら歩いていると、赤羽が歩いている。
5秒に一度前を向き、それ以外の時間は教科書を読みながら歩いている。
「よぅ、熱羽!どうよ?今日」
俺は赤羽に言った。
「いや、やべぇーよこれ、やべぇーって」
結構焦っている様子だった。
「ハハハハハッ」
俺と亜希は2人で赤羽を見て笑った。
「おい、あんま大きい声出すな!忘れるだろ!」
赤羽は俺らのことなんか見ずに、少し速歩きで歩く。
俺と亜希は少し後ろから、喋りながら歩いた。
周りでは、問題を出し合う人たちや、勉強したからと余裕ぶってるやつ、もう諦めてるやつなんかもいた。
机に座り、これからテストが始まる。
テスト用紙が前から送られ、後ろに渡す。
後ろに渡す時の手が震えていて、後ろの人は少し笑っていた。
そんな勝手に動く手を机の下にサッとしまい、時間を待つ。
この待つ時間要らなくね?この時間に覚えてたもの忘れちゃうじゃん。
眠くなっちゃうじゃん。
そんなことを思いながら待っていた。
テストが始まってからは、流れるようにテストが終わり、定期テストは終わった。
3日にかけたテストだったが、テストが始まってからは友達と話すことはあまりなく、すぐ帰ってすぐ勉強の毎日だった。
始まりまでは長かったけど、始まってからはあっという間だったな。
テスト大丈夫かな?という心配もありながら、なんというか、味わったことのない開放感があった。
周りではクラス中で、
「物理難しくない?」「俺赤点だわ」
とか、
「英語簡単だったー」「俺100点いった」
とか、
「古典何かいてあるかわからん」「それな!めっちゃ勉強したのに」
などなど。
テストに関わる会話が飛び交っていた。
しかし、その中でところどころ、
「終わったし、カラオケ行こうぜ」「いいね!行こ!」
とか、
「飯行くか!祝勝会の寿司!」「まだ勝ったか分かんねーだろ」
とか、
「早く帰ってゲームしよ」「何時からやる?」
などなど。
テスト終わったらすぐ気持ちを切り替える会話もあった。
誰とも喋らず、すぐに1人で帰る人もいた。
そんなふうに、周りを見渡していると、、
「よっしゃ!!終わったーーー!!!」
「そうだねー」
赤羽と亜希が来た。
「おい『・・・』!ボーリングでも行かね?」
赤羽はやっぱり気持ちを切り替える側だったか。
「いいな、行こーぜ」
ボーリングに来た。
ボーリングは中学生の頃に結構やっていて、ちょっと自信があったりする。
「亜希はボーリング来たことあんの?」
亜希に聞いてみた。
「僕は来たことないな」
「そっか!じゃあ俺らが初めてだな!」
赤羽が言った。
「う、うん。あんま分かんないから」
「教えるよ、任せとけ」
そう言ってボーリングの球選びから始めた。
俺はいつも9ポンドを使う。
でも、亜希は10ポンドを使うらしい。
10ポンドがしっくりくるんだって。
だから、俺も見栄を張って10ポンドを選んだ。
少し重いけど、なんとかなると思った。
赤羽は12ポンドを選んでいた。
あいつらしいなって思った。
ボーリングが始まった。
1ゲーム目は、俺が124点。
亜希は83点で、赤羽は112点だった。
1ゲーム目は俺が勝った。
2ゲーム目では、少し慣れてきた亜希が少し点数を上げてきて、ストライクも取っていた。
赤羽は、12ポンドのボーリングの球をすごい勢いで投げるので、ピンが弾け飛んでいる。
俺が134点。亜希が105点。赤羽が145点だった。
2ゲーム目は、赤羽の勝ちだった。
「なぁ!3ゲーム目は賭け勝負しよう!」
赤羽が言った。
「何賭けんの?」
「ビリが1位の分奢るってのは?」
「アリだな、亜希は?どう」
「いいね、やろう!少し慣れてきたし」
3ゲーム目は白熱バトルだった。
誰かがストライクを取ったとしても、喜ばず悔しがり、ガターに落ちれば大喜び。
9投目までで、俺が126点、亜希が123点、赤羽が134点だった。
そして、俺の10投目は、2回ストライクと9ピン。
最後はなんか緊張して1ピン残ってしまった。
これで155点だ。
亜希はストライク一回にスペア。
143点。
俺の負けは無くなって、喜びながら、ほっとした。
ここで赤羽の投球。
1回目は、緊張からかまさかのガター。
亜希は手を叩きながらの大喜びだった。
そして、2回目。
10ピン倒さなきゃならない状況だ。
その時、俺は亜希の横顔を見た。
楽しそうな顔だった。
俺と出会ってからの亜希は、どんどん表情が良くなっていると思う。
ちょっと前まで人生を終わらせようとしていた人が、俺の目の前で、俺の手を取って、人生を楽しんでいる。
なんか嬉しいような気がした。
楽しそうな赤羽と亜希と一緒に、俺も楽しかった。
俺の心もしっかりとここにあるんだなって感じがした。
「赤羽、サンキュー」
俺は財布の中身をいじる赤羽に言った。
「はぁ、くそっ!勝負しなけりゃ良かった」
「いやぁ、危なかったなぁ、あそこで10ピン倒されてたら僕が払ってたのかぁ」
「もうあの1ピンは倒れないって意思があったよな!絶対」
勝負は赤羽の1ピン差で負け。
俺は赤羽に奢ってもらった。
「今日は楽しかったな!ありがとう!」
「おう、俺も楽しかったわ」
「僕も」
3人は帰り道の途中で解散した。
家に帰ると、楽しかった時間の余韻に浸る。
あれが良かった、これが良かったって。
また行きたいなって。
でも、その余韻がスッと終わり、また普通の時が来る。
いつもと変わらない普通の生活をして、、、
いつもだったらそれを憂鬱に感じていた。
でも、今日はその普通の生活も、また良いなって思えた。
後日、手は筋肉痛になった。