いつまでも夢みる少女じゃいられないって。
誤字報告ありがとうございます
ああ、もう。久々に私も切れてることよ。
「いいですか。私だって散々ストーカーに苦労しましたの。ネモさんや王妃様のおかげで縁も切れましたが。結局その男は他界しましたけどね。」
「セバスチャンね。」
エリーフラワー様が言う。
「ええ、セバスね。」
カレーヌ様も頷く。
「ふん、ご存知でしょ。リード様の側近だった男です。」
鼻で笑うアンちゃん。
「ああ!知ってます、レッド家のお家騒動!」
「だってネモ公様の家!」
マリー様とミッドランド氏が驚いている。
「彼も無意識に女性を下に見ていましたわ。私はすでに王妃様にお仕えしていましたけど、賃金を下げられて生活を立ち行かなくさせて、自分との結婚へと誘うとしたのです。
ええ、仕事を辞めろと。」
「……!」驚く一同。
「ムカツクな。アネさん。クマに食ワレタアイツだろ?」
「そう。ネモさんの怒りを買ってね。」
そうか。龍太郎君は見てたのか。
「私もメリイさんも、ここよりは女性が生きやすい所から転生しましたの。だからこちらの価値観には驚きですよ。」
「ええ、男女雇用機会均等法が、私が就職する何年か前に施行されましたわ。」
ああ、懐かしい。そうだった。
「カ、カレーヌ様がお仕事に誇りを持っていらっしゃるのはわかりました。」
しょぼんとするサードさん。
「ええ。私はね。砂漠の生き残りの娘さんたちや、孤児の少女も採用していますのよ。
彼女達の保護にも尽力してきたと自負していますわ。」
「ホントにカレーヌ様は素晴らしくてよ。彼女達の中で娼館落ちを免れた子も多いのですわ。」
エリーフラワー様も同意する。
「ありがとう。エリーフラワー様。もっと褒めて?
何だかね、さっきから私の生き方を否定されてきて、気分悪いんですもの。」
「そんな!」
サードさんは悲鳴をあげた。
「ふふ。嫌われてるとやっと御理解頂けて?」
カレーヌ様は座って優雅にお茶を飲む。
どこからみても高位の貴婦人だ。この身のこなし。精神力。あの切り返し方。
人の揚げ足取りが上手い貴族社会でも生き抜けて行ける。
公爵夫人としては適材だとは私も思う。
でもそれは本人が望むことが前提だ。
「あのね、サードさん。貴方にお百度参りだの、百夜通いだのを吹き込んだのは誰なの?
やり方もマズかったですよ。」
「はあ、レイカさん。悪手だったんですね。
私が結婚したいとウチの商会の古参の従業員達に相談したら、色々考えて教えてくれたんです。
王妃様が描かれたラブストーリーズに良い事例があるぞ。と。」
しょぼんとしているサードさん。
そうだよねえ。あのネタは日本製だわよ。
「ああ、あの者たち。サードが小さいときから、支えてくれてましたわ。」
「ええ、私達兄妹を可愛がってくれてましたわ。」
「そうだね、母上、メリイ。商会の発展にも尽くしてくれた。」
「なるほど。なるほど。ソイツらが押せ押せ!と煽りたてたんですね。
おまじないもどきも良かれと思ってのアドバイスか。裏目に出ましたけど。」
アンちゃんが腕組みをする。
「まあなア、サードさん、貴方ソイツらに好かれては、いるんですな。」
サードさんは肩を落とす。
「ええ。女性は好意を向けられると喜ぶと。
私がプロポーズすると、嬉しい♡となって好きになってくれると。
何しろ公爵夫人になれるのだからって。
…確かに花を喜ばれてなかったので、ん?と思いましたが、嫌よ嫌よも好きなウチで、照れてるだけだからと。
その都度アドバイスをくれました。
根本的に間違えていたのですね?」
ええ、その通りです。
「うわぁ。気色ワリイ。何なのソレ。」
言い放つカレーヌ様。
「おほほほ。レプトンさん!」
「え、何ですか?エリーフラワー様。」
いきなり自分に話を振られて飛び上がるレプトンさん。
「例のね?メリイさんの結婚式で歌われた、
【幸せであるように】。
アレ大評判ですのよ。リード様が正式に年末にお披露目するまで、演奏は止められてますけど、口コミや鼻歌で広がってますの。」
「は、はい?」
「あのモデルが貴方とフィフィさんだと知れ渡っていましてね、彼女と貴方の結婚を望む声が多いんですわ!
フィフィさんの純愛を受け入れてあげるべきだと!
お互い独身なのだから。
あんなに愛されてるなんて本望だろうと!」
「ひええええええ!」
打っ倒れたレプトンさん。
「何ですって!」
目をむくマリー様。
立ち上がって憤慨するサードさん。
「そんな馬鹿な!だいたい嫌いな女に付き纏われて、レプトンが可哀想!
……あっ!」
「お気づきになりましたね。サードさん。貴方がやってることと同じなんですわよ。」
がたん!
サードさんが膝から、崩れ落ちた。
「は、はたから見ると私もそうなんですか。」
「ウヘエ、トイレと間違えて部屋に入ってキタ女か!放尿未遂ノネ?」
「龍太郎、それは違うの。トイレを探す口実に部屋を出て護衛を巻いて、レプトン兄さんに夜這いをかけようとしたのよ。」
「あー、やめて下さいよう。」
泣き顔になっているレプトンさんだ。
サードさんへの攻撃が飛び火されて、彼の心が抉られている。
「エリーフラワー様、レイカさん。申し訳ありませんが、少し家族とカレーヌ様だけにしていただけると。」
サードさんが言い放つ。
あら。 …へええ。関係ない人は出てけ、と。
「え、嫌あよ。私1人アウェイになるじゃないの。
頼んで付いてきてもらったの!
ま、龍太郎君とメリイさんは私の味方よね?」
「はい。」「うん。」
「私だってお味方ですよう!」
レプトンさんの絶叫が響く。
「あのね、サードさん。貴方のとこで扱ってるルビー。
ここのレイカさんの実家のって知ってるよね?
あのダイシ商会の誘いを蹴って、メリイの実家だからって取引を続けてくれてるんだよ?
わかってる?」
おや、今まで黙っていたハイド君の発言だよ。
「え!そうなんですか。」
驚きの顔で私を見るサードさん。
「どこでも人の縁って繋がっているんだよ。エリーフラワー様の発明品も扱ってるでしょ。
彼女達に嫌われたらもう、この国には入って来られないよ。」
静かにさとすハイド君。美しい顔は真剣である。
「おほほほ。そうですわね。このままサードさんは出禁。
その方が早いですわ。
龍太郎君は貴方達グローリー家の味方をしてくれるかも知れませんが、キューちゃんは私の味方でしてよ。」
「ええ、そんな。」
慌てるサードさん。
「うーん、サードさん、貴方は意地になってるだけだと思うの。というか初恋にこだわり過ぎというか。」
「レイカさん。」
そこでサードさんはため息をついた。
「やはり、私も結婚をして後継きをもうけることが、公爵家の長男としての義務だと思っています。
近いうちに結婚はしなくちゃいけないと。
そこにカレーヌ様が独身に戻られた。
チャンスだと浮かれていたんです。」
「サード。貴方はずっとカレーヌ様が好きだったものね。だから中々婚約者を作らなくて。」
マリー様が傷ましそうな声で話しかける。
「ここ何ヶ月か楽しかったんです。
恋する少年に戻った気持ちで、貴女は純粋に、ひとめで好きになった人なんです。カレーヌ様。」
「私のうわべがお好みだったんでしょ。ねえ、中身は、おしとやかではないのよ。」
真面目な顔で諭すカレーヌ様。
あー、同じ事をラーラさんがレプトンさんに言ってたな。
「違います!最初はそうでも、毒舌の貴女も素敵です!」
ムキになるサードさん。
「ええ!カレーヌ様!貴方はサイコーです!」
うっとりとしているレプトンさん。
「ああ、初恋に固執するのはゼルドの血かしら。」
マリーさんが涙を流していた。
「え、母上。」
「バーバラに執着し続けたあの人と同じだわ。
私はちゃんと一度はローランドを忘れて、彼と向き合おうとしたわ。だけど。」
顔を覆って泣いているマリーさん。そこにハンカチを渡す、ローランド・ミッドランド氏。
「あ、あの父と同じとは。」
その言葉は何よりも堪えたらしい。
「カレーヌ様は諦めます。だけど、後継きは必要でしょう。釣書のなかから選びます。
わかっています。貴族の結婚は契約と義務です。好いた惚れたの話では無いんでしょ。」
マリー様の目が見開いた!
「恐ろしい!全く同じことをゼルドが言ったわ!
呪いなのかしら。
やめて、サード。貴方は第二の私を作り出す気なの!
結婚は契約だ、浮気も暴力もしない、借金もだ、
なんの不満がある、と言い切って、ずっとバーバラだけを愛していたあの人と!」
(ずっとあなたが好きでした〜に詳しいよ。)
「そ、そんな。」
「サード。貴方はしばらく結婚しないほうがいいわ。
他に心から好きになる人が現れるまで。
結局、結婚出来なかったら養子を取りなさい。」
「母上…。」
はい、私もそう思う。
「私はもうお暇しますわ。ご機嫌よう。」
カレーヌ様は立ち上がる。
「私はね、お金を稼いで一日でも早く、母を引き取るつもりですの。
レプトンさんだってお母様を引き取った。
私の気持ちはわかりますよね。」
「はっはい。」
「え?カレーヌ様。」
マリー様の目は見開いている。
「ふふ。調べればお分かりになるでしょうけどねえ。ウチの母もそこそこ不幸ですのよ。
サードさん、母親が大事なのは貴方達だけではないのよ。」
そこで薄く笑ってカレーヌ様は退出された。
もう誰も引き止めなかった。
そして、サードさんは大人しく帰国したそうだ。
「今度きたら、塩を撒いてやるわ!フフフ。」
流石です、カレーヌ様。
相川七瀬の歌ですね。タイトルネタ。