言いたいことも言えない世の中なんて。毒(ポイズン)を吐く。
次の日の午後。
ミッドランド家にて。話し合いが行われた。
出席者は、ミッドランド夫妻とサードさん、レプトンさん。
そしてメリイさんとハイド君と龍太郎君。
こちらはカレーヌ様と私とアンちゃんにエリーフラワー様だ。
ミッドランド家のリビングは思ったより広い。
学校の先生が集まることも多いんだそうだ。
「突然。お邪魔してすみません。」
カレーヌ様が眉尻を下げて頭を下げる。
「いいえ、うちのサードがご迷惑をお掛けしまして。」
ミッドランド氏も頭を下げた。
「ほほほほ。ねえ、サード様。カレーヌ様が何度も断られてるのにしつこくしすぎですわよ。
私もレイカさんも憤慨しているのですわ!」
うむ。流石に物おじしないエリーフラワー様だ。
「は、はい。カレーヌ様のことをずっとお慕いしておりまして。
私もそろそろ結婚をしたい考えまして、カレーヌ様にきちんと申し込みをしようと。」
顔を青くして下を向くサードさん。
「あの。ハッキリ言いますね?何度も断ってるのに来られるのは迷惑なんです。」
言い切ったぞ!カレーヌ様。
「私は今誰とも結婚する気はありせんし。」
「ですが。カレーヌ様。」
おや?マリー様だ。
「どうか、もう一度考えて見ていただけませんか?
女性ひとりで生きていくのは大変ですわ。」
強張った顔での発言だ。
母の愛か。
「…マリー様。ええ、そうですね、いずれ私も結婚をするかも知れませんが、」
下を向いて手を組むカレーヌ様。
「だけど、サードさんとは無理ですわ。」
口元だけで微笑む。
「カレーヌ様、もしかしたら離婚歴とお子様がいる事を気にされてるのですか?ウチは気にしませんよ。」
ミッドランド氏だ。
私とアンちゃんは顔を見合わせる。
この人たちはとことん貴族の感覚なんだ。
無意識にカレーヌ様を下に見ている。
「ふふふ。私はね?離婚したことも子供がいる事も恥だとは言っておりませんが?!
気になさらない?それはようございました。」
カレーヌ様の怒りに一同黙りこむ。
「そ、そんなつもりでは、すまない。」
「そうですわね、ミッドランドさん。考え方が古いですわよ。
ちゃんとカレーヌ様は自立してらっしゃる。
教育者として、女性も手に職を持つべきだと教えてきたのではないの?」
エリーフラワー様も怒っている。
「アンタ達のハナシを聞イテルとさ、モラッテやるって感じがプンプンするゾ。
上カラ目線ナンダヨナア?
ミッドランドサン、アンタ女生徒に将来ダンナと別れタリ死別した時も自立出来るヨウにって、ダカラ勉強しろって。知識を技術を身に付けろって言ってルンジャネエノ?」
龍太郎君が目を細めて見ている。
メリイさんの肩に乗っているが、彼からも怒りが感じられる。
さっきから、時々、軽くカタカタと震度1くらいに部屋が揺れているのは彼の怒りの波動か。
コーヒーの水面が波打つくらいの揺れ方ではある。
「あ!ああ。そうでした。私は何と言うことを。」
顔を青くするミッドランド氏。
ダブルスタンダードに気がついたんだね。
「女性にこそ、教育が必要だとわかっていたのに。」
「神獣様、義父はつい私の事を思って。」
サードさん、めげないねえ。
こほん。
カレーヌ様が硬い表情で続ける。
「良いですか?まずは根本的に無理なのです。
サードさん、貴方は公爵家の跡取り。グランディで商会もされている。
貴方の妻は公爵夫人としての役割を求められるでしょう。
商会の仕事も手伝ったりするのでは?
私はね、ブルーウォーターで工房を経営しています。
勿体なくもグランディ王室御用達の看板を頂いていますわ。ブルーウォーター公国のも。
従業員も沢山いる。
貴方と結婚したら別居なの?」
「それは!もちろんグランディに来ていただいて!」
「工房は?」
「…そ、それは、従業員に任せるか、または。」
そこでカレーヌ様の目が釣り上がった。
「工房を畳め、とおっしゃるのね?
貴方は自分のことしか考えていないわ。」
多分、彼はそこまで考えていなかったのだ。
好きな気持ちだけで突っ走って来たのか。
「だ、だけど、公爵夫人になれば幸せになれると思います。その務めだって立派な仕事です。
好きな人の為なら、工房をたたむ、そう言う選択もアリじゃないのかと。」
…はあ?何を言ってるの?
誰が誰を好きだって?
「兄さん?兄さんは、バカたれだったの?!」
「お兄様。最低ですわ。」
「レプトン!メリイ!」
「ねえ、みんな。私がルートと婚約を破棄された時。
エリーフラワー様の研究所に就職すると言ったとき。
応援してくれたではありませんか。
カレーヌ様は私なんかより、ずっと前から自立してらっしゃる。
それを何で軽んじるの?」
メリイさんの目が怒りで燃えている。
「ミッドランド義父さん。いいえ、学園長。貴方は私がブルーウォーターに行くことを賛成してくださったですよね。
お母様。私が生き生き働いてるのを見て喜んでくださった。アレは嘘なの?
兄さん、貴方なんで現実を見ないの?
公爵夫人のなりては他にもいる!
だけどね?カレーヌ様の工房は彼女のもので彼女にしか出来ないのっ!
何故勝手に人の人生を曲げようとするのっ!
せめて!工房は続けてもらって構わないので、と、言うところでしょっ!」
「メリイ…。」
もっともである。まったくその通りである。
メリイさんだって仕事優先だ。
彼女の知識は貴重で価値がある。
だから、ハイド君は主夫なのだ。
「あー、もう。キレていいかしら?ねえ?
メリイさん、ありがとうね。」
カレーヌ様が立ち上がった。
「あのさ?サードさん。何で私がアンタに惚れると思うの?
というか、好意をもってると思ったわけ?
やーだー怖〜い。
何度も言ってるよね?迷惑だって!
1ミリだって好きじゃない男と結婚して、ここまで育てた工房を捨てろだあ?それ、なんの罰ゲーム?
馬鹿言ってんじゃないよっ!アンタなんか大嫌いになったよ!今ので!
勝手に愛情と生き方を押し付けないで!」
撒くし立てるカレーヌ様。いいぞ!
「ああ、いつものカレーヌ様だ。もっと兄貴をののしって下さいっ!」
恍惚とした表情になるレプトンさん。
「レプトン?貴方どうしたの。」
次男の姿にショックを受けるマリーさん。
「あのねえ。自慢じゃないけど私はモテるのっ!もし貴族の奥様で左団扇で暮らしたかったら、とっくになってるっつーの!ふん!
男に威張られて摂取されるのはゴメンなのっ!
お金もだけどさ、時間や感情をね?
何度も言うけどさ、好きじゃないアンタの為に耐えられるかって!
せっかく馬鹿亭主と鬼婆姑から解放されたと言うのに、何でまたいやーな結婚しなきゃ行けないの!
ふん!」
パチパチパチ?
「おほほほ。その通りですわ!カレーヌ様!」
拍手喝采はエリーフラワー様だ。
「うん、そうだよ。無理して結婚することないよ。
というか、サードさん。
カレーヌ様は本気で貴方を嫌がってますよ。
好意を持ってない異性に付き纏われるのは、怖くてたまらないの。」
「れ、レイカさん?」
「ウワ。普段、怒らナイ人ガ言うとキッツイナア。」
ああ、つい口を出しちゃった。
はい、タイトルは懐かしい反町隆史の歌ですね。