会いたくて、逢いたくて、震えるかも。
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それから三日後。
「そろそろレイカ、お邪魔していいかしら。体調は戻った?」
王妃様がレストランにいらっしゃった。
メリイさんと龍太郎君も連れて。
冷やし中華を出す。
「わあ、美味しそう!
もうほとんどツワリもないんです。ただ、ずっと胃が荒れてる感じがして。」
とメリイさん。
「わかるわ、私もそうだったの。お腹が胃を圧迫するのよね。」
大好評のうちに冷やし中華は皆様の胃の中に収まった。
もちろん龍太郎君はおかわりした。
「マヨネーズもカケテイイ?」
ああ、そっちの文化かあ。地方によってはかけるよね。マヨネーズ。
うん?龍太郎君は江戸っ子では?
「オレ、マヨラーダッタ。」
なんと。
「大丈夫、ヨソでマヨチュッチュッはシネエヨ!」
慎吾ママじゃないんだから、やめて。
ホラ、王妃様もメリイさんもひきつってる。
(まあこの世界はプラがないからマヨは瓶詰めであるけどね。)
こほん。さて。
「見よう見真似で麦茶を作って見ましたよ。妊婦さんにはコレ。
七月には試作品ができていて、ミルドル達にのませて改良を重ねました。」
グラスに氷を入れて出す。
「美味いっ!モウ一杯!」
「ほほほ。龍太郎君。青汁のパロディ?」
「ソウダヨ!やはり転生者ドウシダネ!」
「ええ、転生者同士……先日の件は聞きました。大変でしたね。」
メリイさんが私にねぎらいの視線を向けてくる。
「ネエ、前世の家族に会エタンダッテ?」
龍太郎君がメリイさんの肩にとまった。
「オレも会イタイ気がスルケドネ。」
「私はそうでもないですわ。あまり親子関係上手くいって無かったから。」
メリイさんは視線を落とす。
確執があったって言ってたな。
「……アレは幻と言うか家族の残留思念の様でした。
亡くなってからも私を見守ってくれたのでしょう。
彼らの想いが光となって、一部分が転生先まで付いて来てくれた?または憑いて?くれていたのかと。」
「…そうなの、レイカ。」
「ええ、王妃様。仮説なのですが。」
じっと龍太郎君を見る。
「龍太郎君の親兄弟は貴方が亡くなるまでご存命でしたか?」
「……タブン。」
「ええ、あの事故で亡くなってのは龍太郎だけです。」
「メリイは俺の死後を知ってるンダモノナア。」
「それでは龍太郎君の家族はこちらに来てないかもしれません。」
王妃様は眉を寄せられた。
「では、自分が亡くなった時に存命だった家族には会えないってことなの?」
「私の仮説ではそうです。」
「……ソウナノカ。」
肩を落とす龍太郎君だ。
「ウチの親も兄も存命でしたわ。ではもう会うことも無いのね。」
ほっとした顔のメリイさんだ。
「メリイ、ソンナニ自分のオッカサンを嫌うナヨ。俺ニハ感じがヨカッタジャナイカ。」
「それはね、龍太郎が成績優秀で、しかも地元の大学に進むって言ってたから。
願っても無い相手だって言ってたわ。
母は私が地元で結婚する事を望んでいたから。
お父様も転勤族とはいえ、大企業の管理職だったし。」
「……ヘエ。」
うわあ、なんと言っていいか。
「身内の恥を晒すようですけど、あれだけ地元に就職してすぐ結婚しろ、って言ってた母が、大学の時に病気で手術して、大きな傷が残ったら、自立して自分の食べる分は稼ぎなさいと言ったのよ。
レイカさんはご存じですよね?」
「……ええ。以前聞いたから。」
「昔は、昭和の価値観では身体に傷が有ったら結婚出来ないと言う感じでしたからね。
それに婦人科系の病気で妊娠出産も少し難しくなった。
でも手のひら返しには傷つきました。
逃げる様に遠くで就職しましたけども。
行かず後家が家にいると、将来の兄嫁が気まずいと言われましたからね。
兄もうんうんと横で頷いて、
リュウジ君が生きていれば良かったのにな、あの子ならおまえに傷があっても、子供が出来なくても結婚してくれたろうに。
こんな悪条件ではお見合い相手がいないよな、と。」
うわあ。酷くねえか。それ。
「ムカつくアニキだな。焼いてヤリテエな。」
「ええ、私の方がいい高校にいったのがずっと面白くなかったみたいなの。大学だってね。リュウジの死でショックでランクを落とした私の方がずっと良い所に行ったの。」
お馬鹿さんだったのか。
そこで、メリイさんはふっと顔を上げて、
「でも母は、最後には横浜の病院まで来て、看病して泣いてくれたから。もう、いいのです。
他にもいい思い出もあったし。」
メリイさん、大人だな。
「現世のマリー母様はとても良い人です。あの人だけを母だと思っていますわ。
それにレプトン兄もサード兄も優しいし。」
ううっ。私にはグサグサと刺さる。自分の未熟さかげんが恥ずかしいよっ。
アンちゃんが横目で私をチラリと見る。
「では、私は健に会えるかも知れないのね?」
王妃様の顔は真剣だ。
「私の執着が作る幻だとしても。あの子にもう一度会えるのなら。…抱きついて来てくれるなら。」
王妃様の声は震えている。死んだ子の歳を数えると言うものね。
「ええ、きっとそうですよ。」
「レイカっ!ありがとう!」
「ふうん、ではこの世界で、グランディやブルーウォーターでも身内を亡くしてたら、見れるかも知れないのですか。」
……アンちゃん。
「アンディ、貴方も色々あったからね。」
「王妃様。お気遣いありがとうございます。」
アンちゃんの家族は一家惨殺された。
今でも夢に見るのだろう。時々絶叫して起きる。
彼の心の中には深い穴がずっとあいているんだ。
「アンちゃんはダンスが上手いから。きっと来年会えるわよ。」
「ありがとう、レイカちゃん。試してみるか。」
「では、私もお父様にお会い出来るのかしら。」
メリイさんがポツンと言う。
グローリー公爵は神獣様にバーバラの怨念とともに焼かれ尽くしたと聞いた。
でも彼女の記憶のかけらなら。
「どうかしらねえ。キューちゃんに焼かれたのよね。
残ってるかしら。いえ、きっと大丈夫。
でも同じ様に焼かれたシンディなんかに、来られても困るわよねえ。」
「ゲッ。……失礼しました。」
こら、アンちゃん。王妃様の前ですよ。
「ククッ。何回来てもパイセンが浄化シテクレルヨ。」
「大丈夫、メリイさんの記憶なら、きっと会えますよ。」
「……レイカさん、ありがとう。」
以前法事の時にお坊さんに聞いたことがある。
供養は残った人のためにある、と。
きっとそうなんだね。
「ウウーン、ジャア、オーレンの家族には会えるノカ??」
「え?龍太郎それは?」
「ヤダなあ。42年?前に死んだ、ココに転生シタ、俺ダヨ。
並べるとリュウジ→オーレン→龍太郎サア。
マッスグ、龍嗣から龍太郎ニナッタンジャねえモン。」
「まあ、そうだったわ。忘れてたわ。」
「王妃様、私もです。」
「アンマリ楽しいハナシじゃねえし。」
龍太郎君はため息をつく。
「孤児ダッタ、オーレンは15の時に戦争でズタボロになって、ドラゴンに食って楽にシテクレ、ト頼ンダ。
ドラゴンの牙を感じた瞬間、スグニ落命シテ同化シタ。それと同じにリュウジのコト思い出しタ。
アンマリ楽しい経緯じゃネエヨ。」
うわあ。悲惨。
ごめん、龍太郎君。事故の記憶で凹んでる場合じゃなかった。
「何デカ、オーレンジャナクテ、リュウジの意識が上に出てキタノサ。今はほとんどリュウジこと龍太郎ダネ。」
そこで龍太郎君が私を見た。
「レイカサン。オレも突っ込んでキタ、トラックへの恐怖と光と衝撃ヲ覚えてる。
コッチくんな!嘘ダロ!ってんのが最後の記憶サ。
ダカラ、貴女の気持ちと戸惑いが、ワカル気ガスルヨ。」
私の手の上に、鋭い爪が付いた手をそっと置く龍太郎君。
何かお手をしてるみたいだね。
と思いながらも泣けてきた。
「こら、龍の字。レイカちゃんを泣かすなよ。
でもそのオーレンの親族になら会えるカモな。」
「ウン。生活ガ苦シクテ捨てられたとキク。でもそれはウソかもしれないダロ。世話をしてくれた孤児院の大人の嘘かもシレナイダロ。」
「……龍太郎。」
「マ、本当に捨てタのナラ、まだ存命ナラ焼いチャウカモネ。
オレの中のドラゴンはそう言ってルヨ。
オーレンって名前モサ、オレンジの木の下に捨てられてタカラ孤児院ガ適当ニ付けたラシインダ。
名前クライ付けて行けッテ話ダネ。」
龍太郎君はそう言ってカラカラと笑った。
西野カナさんの歌からですね。




