彼の事情。
誤字報告ありがとうございました
アンちゃんは難しい顔をした。
「将来的にですか。確かにアイツは友達が多い。
最初は噛み付いてきた音楽団のガキたちは、リッキーやドンのおかげで、まあまあ今は友好的だ。
というかあの二人が音楽団のリーダー格ですからね、親分のマブダチには手を出さないって事でしょう。」
そうなのか。
「と言っても、合唱団はあちこちからの寄せ集めだ。色んな事情を背負ってる。
その中で新たな友人が出来て、その子が消滅するとかですか?」
アンちゃんは腕組みをしている。
「将来的になの。今は大丈夫でも、何か外でやらかしたら、大人ならブルーウォーターの入り口で弾かれる。
だけど子供なら。そのまま素通りして、」
「後日裁かれるンですね。ああ、やはりそっちか。」
アンちゃんの顔は苦虫を噛み潰したようだ。
ところで苦虫って何だろう。そんなものがいるのか。
何となく現実逃避をする私。
不安で胸は真っ黒だ。嫌な予感がする。
それでそれは大体当たるんだ。
「ザックの家はそんなにヤバいんですか。」
――ほらね。
「ええ。今回はあの子は里帰りしなかった。だから大丈夫。けれどね。実家と縁を切らない限り、きっと犯罪に巻き込まれる。」
思ったよりヘビーだった。
「……アイツは危ういところがあるのは気がついてました。」
アンちゃんが自分のアゴを撫でまわしながら言葉を継ぐ。
言いにくい事を言う時のアンちゃんのクセだ。
「あのう、エリーフラワー様。ザックの家って男爵家ですよね?三男とか聞きました。」
「ええ、レイカさん。親が早く亡くなって、長兄が後継ぎになったけど。寄ってきた親族が良くなかった。
ザックやその下の弟妹は親戚中をたらい回しにされた。」
「……それで勉強を頑張ってここに入ったのですか?」
「ええ、奨学金を取ってね。そして騎士となって弟妹を養おうとしている。
今まで育ててくれた姉に恩返しをしたいのもある。」
「そうなんですか。」
「多分、弟妹の預け先が良くないんでしょ。朱に交われば赤くなるというわけだ。スリをやってる子供もいるみたいでね。」
アンちゃんが吐きすてる。
「アイツを家に返さなきゃいいんでしょ。帰省したらそのうち悪事の片棒を担がされる。
または、ハメられる。」
「なんなの、それは!」
思わず声を出す私。
「ザックがこの学園に入れたのは弟妹と違って彼が努力する事を知っていたから。
勉強に励むことを厭わなかったから。
彼のお姉さんが身を削って支援してくれたから。」
エリーフラワー様が淡々と話す。
身を削るって。
「ウワサには聞いています。長兄から売られるように結婚させられて、嫁ぎ先でもいびられてるってハナシだ。その中で内職した金を何年も貯めてザックの学費にした。
ま、アイツは奨学金は取れた。今はそんなに金は掛かってないけどね。」
アンちゃんの眉間のシワは深くなる。
「仕事がらね、色んな家庭を見てきましたがね、ザックのとこはひどいですね。
まず実の親は惨殺されている。ザックや姉の前でね。
やったのは実の叔父だ。爵位狙いだったんだな。」
えっ。
「それを屠り返したのが長兄だ。だから爵位を奪われずに済んだのだが。ま、そんなこともあってアイツは強くなりたいんだ。騎士になって、姉を救い出したいんでしょうね。
それに次兄は行方不明だ。長兄にやられたな。
叔父が自分の兄に牙をむいたから、それを恐れたんだ。
ザックはブルーウォーターに逃げられて良かったよ。」
「アンちゃん詳しい。」
「ミルドルに近づいてきたんだ。警戒するよ、それは。」
あら。可愛がってくれてるのね。
「ほほほ。ミルドル君は大丈夫よ。生徒達の声を聞いてもね。
最初は男爵家の子が成績優秀なのを鼻にかけて、いい気になってんじゃねえって反感買ってたらしいけど、
バックが強すぎてもう妬む気も無いんですってよ。」
「フン。良識がある親ならモルドール家にはケンカを売らないように言い含めますよ。」
アンちゃんがせせら笑う。
「ほほほ。怖い叔父様と義理の従兄弟がいますからね。」
アンちゃんとシンゴ君か。
「それは手厳しい。」
苦笑するアンちゃん。
「王妃さまのお気に入りの叔母様も。」
「ははは、どうでしょう。」
苦笑するワタクシ。
「それにレイカさんのお母様は神獣様たちに愛されているわ。その孫をいじめたら彼等なりの正義感で裁かれちゃうでしょ。」
そりゃそうだ。
例えば。
「オッカサン?何泣いてるノ?エ?ミルドルがイジメられた?
ジャア、焼いてヤルヨ!泣かないデ!」
と、龍太郎君は言いそうである。
問答無用でシュー!ボッ!だ。
そして誰にも止められない。
キューちゃんの場合。
泣いてる母の頬を舐める。
……キューウウウウ。
低い恐ろしい唸り声。
姿を消す。イジメっ子も消える。
一瞬の事で誰にも止められない。
ああ、目に浮かぶ。
「そうですね。」
アンちゃんは苦笑した。
「じゃ、彼を実家に返さないようにすればいいですね?母がバイトさせると言ってました。
秋とか冬とか。」
「そうね、レイカさん。しばらくはそれで凌ぎましょう。
そのうちお姉さんを使って引っ張り出そうとするでしょうが、その時考えましょうね。
まず、夏休みの残りは補習や補講をやりましょう。
子供達が喜ぶようにエメリン先生に協力してもらいましょうね。」
エリーフラワー様は教育者の顔をしてそう言った。




