夏が来る。夏は来(き)ぬ。あー、夏休み。
誤字報告ありがとうございます
まもなく学園も夏休みだ。
さわやかな七月の朝。メリイさんちに行った次の日。
猫カフェの開店準備中である。
「ねと!ねと!(ねこ!ねこ!)」「にゃんにゃん。」
猫に構ってもらって喜ぶ娘たち。
こら、しっぽを握ったらいけないよ。
「うにゃん。」
ほら、猫パンチ出た。
「ねえ、お母さん。もうすぐ夏休みでしょ。ミルドルは実家に帰るのかしら。」
「そうねえ。でもあちらも赤ん坊の世話で大変だし、同じ年頃の友達も近くにいないでしょ。
こちらに残るんじゃない?ま、もう少し大きくなったら家業の手伝いもしてもらうかもね。」
「家業って?宝石の採掘とか缶詰の加工とかですか?あ、たらこもか。」
アンちゃんがアスカを肩車してやっている。
どれ、ランを抱っこするか。
「将来的にも現場は知らないといけないし。来年はバイト代を出して手伝いさせようかしら。
筋肉も付いてきたでしょ。」
母が真顔で言う。
ああ、ミルドルが騎士になるのはハードルが高そうだな。
「でもさあ、お母さん。カニやたらこはこの時期獲れないよ。」
「あ、そうか。」
カララン。
「多分、今年の夏休みは悪ガキ達と遊び倒すんじゃないですか?ミルドル君は。
ドンとリッキーは帰る場所がないから、寮に残るだろうし。」
おや、猫カフェの扉をあけて入ってきたのはマーズさん。
「おはようございます。サマンサさん、お約束した通りお迎えに来ましたよ。」
足元に猫がダッシュする。
身体を擦り付けてニャーニャー。
その目は興奮して見開かれている。黒目がちで可愛いぞ。
マーズさん。アナタ実は、またたびで出来てたりする?
「相変わらず半端ないっすね。動物に好かれてますね。
さて、俺も動物園に顔を出しますか。」
アンちゃんも立ちあがる。
「ええ、今日はサマンサさんに動物園に、来ていただきたくて。私の仕事の流れを見ていただきたいのです。
それに会ってないUMAにも正式に紹介しますね。」
ニコニコ。
微笑むマーズさん。
「はい、宜しくお願いします。」
「そうよオ。UMAは警戒心強い奴もいる。マーズさんの連れ合いだとわかれば齧られたり襲われたりしないからナア。」
アンちゃん、さらっと怖い事言うなあ、オイ。
「まあ、連れ合いだなんて。」
頬を染めるサマンサちゃん。
良かった、アンちゃんの発言の後半は気にしてないようだ。
三人は馬車で出かけて行った。
「こないだは牧場に連れて行ってたわね。」
と母。
「その前はネモさんのホテルに連れて行って、コテージの猛獣達と顔つなぎさせてたわ。」
サマンサちゃんは動物好きだ。
「私どこの仕事を手伝うのでしょうか?でも動物がいっぱいで楽しいです。」
と、昨日も思案していたのである。
「マーズさんと結婚したら、高位貴族の奥様として家から出ないのかと思ってたんだけど。
お仕事を手伝うのね?」
と母が考えこむ。
「うーん。私も。マーズさんは家に囲い込むタイプだと思ってたんだけど。」
マーズさんは、妻を監禁や幽閉した父や兄をお持ちなのである。
でも弟さんの奥様は元々、ぬいぐるみ工房を経営していて、結婚後もやってらっしゃる。
ネモさんの奥様のローリアさんは御実家が牧場だったこともあって、牧場を手伝ってらっしゃった。
今は二人ともお子様が小さいからあまりオモテに出ては来られないけど。
「改めて思うと、凄いとこに嫁ぐのよね、サマンサちゃんは。」
「そうねえ。」
「でも、ま。お金の心配は要らないと思うし。それは安心だわ。」
母はうんうんと自問自答していた。
「それじゃ夏休みはあのドン君、リッキー君、ザック君が来るわね。
バーベキューやお泊まりも楽しいかもね。」
母の発言に、ショコラさんが目を丸くする。
「良いんですか。御母堂様。あんな悪ガキども。」
「今でも休みの日には時々来るし、朝練の時は温かいものを飲ませてあげてるの。
ま、根は悪くないわよ。」
「……それはアイツらにとっては沁みるでしょうね。
孤児院育ちで家庭の温かさを知りませんから。
それにザックも生活苦の家庭の子です。帰省費用も、ままならないと聞いてます。」
シンゴ君が遠い目をして言う。
彼も孤児だ。
「寮費とか寮のご飯代は?」
「エリーフラワー様の方針で学生の間はタダで食堂のご飯は食べられるし、
寮費も安いんですよ。特に孤児は無料です。」
なるほど。流石だわ。
「ふーん、ひらめいたわ!レイカ。」
手を打つ母。
「何、母さん。」
「秋や冬に短期バイトで、希望するならウチの領内で働いてもらいましょ。
そしたらミルドルも一緒にやるでしょ。
家業への理解も深まるわ。」
「…学業に支障ないようにしてね。」
カニやタラコの加工か。漁にいくのは危険だからやめて。
「まあ、ミルドル坊ちゃんはともかくリッキーとドンはお金を稼げるのは喜ぶと思いますよ。」
ショコラさんもランをあやしながら微笑んだ。
さて、夏休みだ。
初日から四人で近くの川に釣りに行ってたよ。
私も子供達を連れて母の家にいる事が多かった。
あっちが涼しいし。開放的なんだよね。風も通るし。
「これ!お土産です。お婆様!」
「あら、ドン君ありがとう。」
「僕の魚の方が大きいよ!」
「ふふ、リッキー君もありがとう。」
母に懐くドンとリッキー。
「僕ね、魚捌けます。お手伝いしましょうか?レイカ様。」
「ありがとう。ではこの大きな魚をお願い。」
ザック君が釣ってきたのはデカい鯉である。
よくこんなのとれたな。
(私のことをレイカ様と呼ぶのは、アンちゃんに筋トレで鍛えられてるからだ。)
「サマンサ姉ちゃん!キレイな石を拾ったよ。あげる。」
「ありがとう、ミルドル君。多分アメシストかな。」
歳上の人が好きなミルドル。
みんな楽しそうでなによりである。
母がスイカを出したり、みんなでアイスを食べたり。
他の日は川で泳いだり。
(そっとセピア君に付いて行ってもらった。何しろ日本ならまだ中学一年生なんである。)
そして、課題をみんなでやっていた。偉い。
バーベキューもしたよ。
その日は龍太郎君が乱入した。
「メリイはツワリで来レナイケドサ。俺も混ぜて!マゼテ!ツッチーが教えてクレタンダヨ。」
「あら、龍太郎ちゃん。もちろんよ。」
「オッカサン、コレお土産。ご好評のジュースダヨ。」
「まああ。ありがとう。」
「…ひ、ひえええ。」
「神獣さま?」
「ドラゴン様だ。」
固まる少年達。
「ナンダイ?このガキ共。ミルドルの友達カイ?」
ジロリと見る龍太郎君。
「そ、そうです。龍太郎様。」
「ソウカ。ジャアいいや。同席ヲユルス。」
偉そうだが、実際偉いんである。
後から来たのは君だよね?なんて誰も突っ込まない。
そのあと和気あいあいとバーベキューは行われた。
「すげえ。あの神獣さまの火力。」
「ミルドルのお婆さまに懐いてらっしゃる?」
「ああ、あんなにワシワシと撫でてる!」
「……うん、そうだよ。龍太郎様はお婆ちゃんが大好きなんだ。あとね、レイカおばさんはメリイさんや龍太郎様の転生仲間。だから龍太郎様と仲が良いの。
他の人にはそこそこ怖いから気をつけてね?」
「ウン。」
「凄いな。」
「俺、お婆様を尊敬する。」
さて、バーベキューをしたその夜。
客室に子供達を泊めた。
ソファベッドを運んだよ。ギュウギュウだけど、寮で慣れてるらしい。
ミルドルと四人でいつまでも喋っていた様だ。
夏休みの中、10日程を母の家に来て過ごしたとか。
「楽しい夏でした。この夏のことはずっと忘れません。」
澄んだ目でリッキーは言い、
「お婆様、レイカ様、ありがとう。」
ドンは深々と頭を下げた。
「本当に楽しかった。色々とお世話になりました。
これから何度も思い出して、幸せな気持ちになれると思います。」
ザック君が、微笑んだ。大人びた発言をする子だ。
「ありがとうございました。」
そっと下げた頭。
そしてあげた顔もとても大人びていて十三歳の少年には見えなかった。
……彼がかなり複雑で過酷な家庭に育ったと知ったのはその後の事だった。
その次の年からはエリーフラワー様がサマーキャンプを開催されたり、
ひとつ歳を取った事で、バイトも出来るようになって、
彼等三人が一堂に集まって、もう泊まりがけで遊びにくることはなかったらしい。
有名な夏の歌のタイトルを並べてみました。




