友達は百人出来てもいいが、お百度参りはご勘弁。
さて。それから1週間後。
私は開店前、猫カフェの猫ちゃんにブラッシングをしていた。
ショコラさんも一緒だ。ああ、猫ちゃんに囲まれてしあわせ。
今日も一日平和な一日でありますように。
(フラグ)
ガラン。
ドアが勢いよく開く。
「おはよう!レイカいる?いるわよね、自宅だもん!」
カレーヌ様が現れた。ビレイーヌちゃんを連れて。
びくん!と固まる猫ちゃんたち。
「カレーヌ様!お供も付けないで?どうされたのですか?」
アンちゃんが顔を出す。
「アンディさま〜ちゃんと、おりますよ〜。」
後ろからハミルトンが顔を出す。
「何だいたのか。おい。護衛なら先にドアを開けなきゃダメだろ。」
「アンディ、ダメ出しは良いからさ。匿って。」
「は。かしこまりました。
おい。とりあえず乗ってきた馬車を隠せ。カレーヌ様。奥へ。」
お仕事バージョンになったアンちゃんが仕切る。
「どうしたのですか。」
「あー、もう。嫌になっちゃう。あのサードよ。」
あら、呼び捨て。
「ここ連日、プロポーズに現れるの。断ってるのに。
100回ウチの門柱を拝むといいと言われたとかで、
その証拠に何かのタネを置いていくの。
野鳥がビチビチ鳴きながら食べてるんですけど!」
えっ?お百度参り?
「それからね、百日通うと思いが叶うとか?
真剣さが伝わるとかの言い伝えがあって、
途中、病に倒れなければ結婚できるとか。」
それはさ、小野小町と深草少将?
「あとね、理解不能なのが、百回プロポーズをすると、逆プロポーズされるという都市伝説があるんですって!
女性がウェディングドレス着て走ってきて、
二人で馬車の前に飛び出して、
私たちはあ、死にましぇーん!と永遠の愛を誓っちゃうと。
びっくりよ!
以前、王妃様がそう言う話をしてたのを聞いたとかで。あーもう、なんなの。」
それって。武田鉄○のドラマっすね。
でもちょっと危険に改ざんされてるよ。
良い子は真似しないでね。
「あーそれ、色々混じってますね?」
「え?百日通ってきてるんですか?仕事放り出して?」
アンちゃんが眉間にシワを寄せる。
「何だかね?ホントは100回ではなくて繰り上げていいと教えられたとか。」
繰り上げ法要じゃないんだから。
「ガラガラみたいな変な棒を持っていて、これを回すと一回が10回になるとか。」
マニ車じゃないんだから。
「それでね、結局百日無理だから、10日間通うことにしたらしいのよ!
ミッドランド家に泊まりこんでウチに日参してる訳。
仕事はね、従業員に特別に早めの年末休暇を与えて喜ばれてるらしいの。」
そういや、まもなく師走である。
「百かあ。
そういえば以前、王妃様から伺ったことがあります。
1人ひとつずつ、話を持ち寄って百個語り終わったら、
怪異が訪れるとか。それとは違うんですね。」
アンちゃん、それ百物語。
「やーだ。こわ〜い。まったく。怪異でも何でも起こってくれないかしら。追い払いたいわ。」
とりあえず甘いココアで落ち着かせる。
「お義母さん、キューちゃんにここの目眩しを頼んでもらっていいですか?」
アンちゃんの頼みに、
「おっけー。」
我が母ながら軽い。
「レプトンの野郎はこの場所を知ってる。
というか猫カフェの常連だ。
兄貴のサードに泣きつかれて、
案内してこようとしても無理無理無駄ア!」
アンちゃんの鼻息は荒い。
母がキューちゃんを呼び出して頼んでるのを横目で見ながら尋ねる。
「もしかしたら、今日が10日目ですか?」
「そそそ。やな感じなの。」
満願成就の日か。それで逃げて来たのね。
「何か食べますか?」
「うん。朝クッキーを食べて来ただけなの。」
「うちの賄いで悪いですが。」
きつねうどんを出す。
横でキューちゃんもしっぽを振って食べてる。
「おいちい。」
ビレイーヌちゃんにも好評だよ。
「ああ、レイカの料理は美味しいわ。
レイカのご両親。いきなり駆け込んで来てすみませんねえ。」
「いえいえ。さア、ビレイーヌちゃんはウチのランとアスカと遊びましょうね。」
「わあい。」
「お揃いのエプロンにしましょうね。」
ショコラさんもニコニコしている。
「結局、あの話。断れたそうじゃない。流石レイカね。
まぁ私としては、フロル様の相手は、リナちゃんの方がいいと思うわよ。」
確かに。政略結婚としたら1番収まりが良い。
「婿入りする形になるでしょうけどね。いまんとこ、リナちゃん一人っ子だし。
ネモさんなら、後ろだては充分だわよ。」
「ええ、あの人に勝てる人はいません。」
アンちゃんは頷く。
なるほど。
万が一、アラン様とリード様との間にいざこざが起こったとしても、ネモさんに牙をむいたら自殺行為である。
「エドガー王子のお相手はミネルヴァちゃんですからね。エリーフラワー様にもだいたいの人は勝てませんから。」
「あの二人は仲睦まじいからいいのよ。って、他人の事はいいわ、今、私自身が面倒くさい事になってるし!」
頭をかかえるカレーヌ様。
「とりあえず。カフェには臨時休業の張り紙をしてるの。
お菓子工房は砂漠女子が仕切ってくれてるわ。」
砂漠女子って。リンさんとルイさんか。
例の砂漠の民の生き残りである。
カレーヌ様の工房で働いていて、カレーヌ様の味方なのだ。
「出荷とか来客の対応はペー爺がやってくれてる。
爺やはさ、サードとも面識あるし。いつも追い返してくれるのよ。」
ぺー爺。本名ペーター。
カレーヌ様の実家、ヴィトー公爵家で執事をしていた。
騎士あがりて腕っぷしも強く、姿勢も綺麗だ。
若い頃ならモテモテだったろうという、美しい老人である。
「うん、ウチのオヤジは最強です〜。」
「ハミルトン。おまえも見習わなくてはな。
お前はガタイもいいし、腕も立つが。
覇気と賢さがねえな。」
「アンディ様!俺にいつも親身になって下さいって嬉しいです〜。」
この気は優しくて力もちのハミルトン君は、昔子供の頃、アンちゃんからお菓子をもらってから、懐いているのだ。
とりあえず、ココアを飲む私。
「でもね、カレーヌ様。サード様にはお断りしてるんでしょう。」
「ええ!もちろんよ。レイカ!毎回、毎回よっ!
それなのに、またまたー、そんな事おっしゃって。とか、私の気持ちは変わりません!(キリッ)って感じでさあ!
一反もめんに腕押し、目目連に釘よっ!」
ちょっと違う、そして目目連痛そう。
カレーヌ様の顔は怒りに歪んでいる。
「ふふふん。10日目の今日、逃げだしてやったから、アイツの願掛けは叶わない♫っと。」
「アラ、そうなの。目目連の目じゃなくて、サードさんに一度釘をささないとネ。」
アンちゃんが、ぶつぶつ言い始めた。
怖いぞー。