花泥棒も罪になる。
誤字報告ありがとうございます。
六月になった。母の家の前の道沿いには紫陽花がズラリと咲いている。
もともと紫陽花ロードとして知る人ぞ知るって感じで有名だったようだけど、父母がこの家を買ってからは忍びの皆さんが手入れをしている。
庭師の格好をしながらの母達の護衛だね。
時々、手拭いをいなせな感じに頭に巻いたニイちゃんが顔をチラリとあげて、
「姉さん、お疲れ様っす。」と声をかけてくれるのだ。
おかげさまで満開の紫陽花は見応えがある。
植え込みも道も整備されてキレイだよ。
家の前をゆっくりと歩く。
青い。どこまでも青い花だ。
ああ。懐かしの紫陽花寺よ。明月院よ。
明月院ブルーよ。
(前世で)亡くなった母が好きだったなあ。何度か鎌倉に一緒に行ったものだ。
ちょっとおセンチになる私。
「ラン、アスカ。お花綺麗ねえ。」
「うん、キレイ。」「キレイキレイ。」
今日は朝から娘達を連れて母の家に来ている。サマンサちゃんもだ。こちらでみんなで子供の世話をする。
レストランの予約も入ってないしね。
(アンちゃんは最近お仕事でグランディに行ってる。)
父はランド兄の手伝いで帳簿の整理をする為に、事務所に出勤だ。
「青くて綺麗よね。ちょっと切ってもらっておウチに飾ろうか。」
「ウン。」「きれえ。かざる。」
ランとアスカも目を輝かせる。
「はいっ、お嬢ちゃんたち、姉さん、ご母堂様、どうぞ。」
どこからともなく庭師に扮した忍びが現れて切ってくれた。
「ありがとう。」
「いいえ。」
白い歯を光らせて若い忍びの兄ちゃんは消えていった。
パカラッ、パカラッ。 ヒヒーン。
「こんにちは。みなさん。うちの動物園の紫陽花も切って来ましたよ。」
白馬のアオに乗って現れたのはマーズさんだ。
「まあ。白馬に乗った王子様かと思ったら。」
母は目を丸くしている。
サマンサちゃんは頬を染めている。
にくい演出である。
「あら、マーズさん。そちらのは紫陽花は赤いのね。」
土壌の関係で色が変わるんだったかな。
青が酸性か。(リトマス試験紙では逆だよね。赤いと酸性。)
というか、サマンサさんが居るところにマーズさんありだな。
「よくサマンサさんが、ここにいるとわかったわね。」
「レイカさん、鳥が教えてくれるのですよ。」
ドヤ顔のマーズさんだ。
――うわあ。怖い。
いや、見守られてるなあ。
「サマンサさん。良ければ子守りのお仕事の傍ら、お話をしませんか。
そろそろ新居のこととか。」
「あ、そうですね。」
「あら、どうぞ。奥へ、マーズさん。」
ニコニコしているマーズさんを母も中に招く。
「お邪魔します。あー、キューちゃんと龍太郎君の加護や気配を感じますね。清浄な空気が流れています。
あ、この大きなサファイアからか!
…凄い。龍太郎君のここを守るぞ、という強い気持ちを感じます。邪気を取り込んで綺麗にしてますよ。」
えっ、空気清浄機?
「うん、国宝ものです。宮殿や国境の入り口に付ければ堅固な守りになるでしょう!」
マーズさんの目は驚きに見開かれている。
「レイカさんのお母様。本当に龍太郎君に好かれてるんですね…」
そして大きく息を吐き出した。
「そうなの?今度龍太郎君にお礼を言わなくっちゃ。」
ケロリとしている母だ。
「それから、レイカさんのお母様じゃなくて、おばさんでいいわよ。身内になるのだし。」
「あ、そうですね。…おばさま。」
照れるマーズさん。
早速、ヒデージの手によって赤と青の紫陽花は玄関の大きな花瓶にいけられた。
アオちゃんはドギマギが世話をしてくれてるよ、ヒヒン。
「それで二人はどこに住むの?」
私の質問に、マーズさんは大きな黒い鞄から書類を取り出した。そしてテーブルに広げる。
このカバン、昔、郵便局の人とかが、積立を集金に来た時の集金バッグみたい。
「はい、候補がありまして。サマンサさん、いかがでしょう。この辺は新築建て売りの資料です。
もちろん、いちから建てても良いんですよ。」
「は、はあ。」
ペラリ。
チラシを指差す。
「ここなんか、お買い物至便、交通の便も良く、病院にも近いです。」
「え、でもここ、お高いんでしょ。」
うむ。定番のセリフを出してきたな。
マーズさんは一瞬真顔になってから、破顔した。
「やだな!費用の事を心配してるんですか?
大丈夫ですよ!兄のやってる不動産屋ですから。お安くしてくれてるんですよ、ホラ。」
「うわっ。私のお家安すぎ??」
今度は、良くネット広告で見る、年収の低さを嘆く女性みたいなセリフを吐くサマンサちゃん。
「あらー、イイじゃないの。」
母がりんごジュースを持ってきた。子供たちは蓋のついたマグカップで。
私たちはガラスに氷入りだ。
「今日暑いですからね。マーズさんはコーヒーが良かったかしら。」
「いいえ。ああ、これはメリイさんの領地のりんごのジュースですね。美味しい。」
「あら、おわかりになる。流石ですね。」
なんと。利き酒ならぬ、利きリンゴジュースが出来るとは。
「ええ、おばさま。グローリー家の領地のりんごは最高ですから。」
「なんかね、こないだ五月の中旬ね。龍太郎君が持ってきたの。
母の日だからオッカサンに、あげるって。
前世のお母様の誕生日だったのかしら?」
母は小首を傾げている。
ああ、そうか。五月の第二日曜日は母の日か。
龍太郎君はウチの母を本気で慕ってるんだな。
「そういえばサードさんはどうしてるんでしょうかね。」
マーズさんがジュースを飲みながら言う。
「うーん、私は何も聞いてないわ。王妃様からも、メリイさんからも。
きっと元気でやってらっしゃるわよ。」
「そうですよね、レイカさん。」
サマンサちゃんもうなずく。
「レプトンさんだけでも落ち着いて良かったです。」
うん?なんか外が騒がしいぞ?
「見て参ります。」
ヒデージが外へ出た。
「ここね、紫陽花の名所でしょ。わりとお散歩する人が増えてね、ほら去年まではお化け屋敷だったから人も来なかったけど。」
「お母さん達が引っ越してきて一年くらいたつものね。」
「それで勝手に折ろうとする人がいてね。忍びの人に怒られてるの。」
「今回もその様です。ただ相手が子供でして。」
ヒデージが戻って来て告げた。
なるほど。
声が聞こえる。
「え、ごめんなさい。お花が欲しくて。」
「ボウズたち。学園の生徒だな。ここの花は俺らが手を入れて管理してるんだよ。」
「沢山あるからケチケチするなよっ!…いてて!」
「…影の人がキツく絞めてるみたいですね、どれ見に行きますか。」
マーズさんが立ち上がった。
「お母さん、サマンサちゃん。子供達見てて。
私も行った方がいいかも。」
庭師に化けたお庭番こと忍びたち。
マーズさんの言うことより私の言う事のほうが聞きそうな気がするよ。
玄関のドアを半分開けて様子を伺う。
学園の制服を着ている子供が二人いる。そして若い忍びも二人。
ひとりはさっき花を切ってくれた兄ちゃんだ。
あれ、もうひとりはハンゾー君じゃないか。
「…君達、何やってるんだ。
見た顔だと思ったら、少年合唱団じゃないか。」
「マーズ様!どうしてここに?」
「ここはね、私の婚約者の家なんだよ。」
「えっ…。」
そういえばマーズさんは各国をまわって少年合唱団をスカウトしてたと言ったな。
少年達はみるみるうつむいた。
「ごめんなさい、マーズ様。」
「君達、私の身内の家だから反省してるのか?
この人達はただの庭師じゃない。
王家の影だ。君らが子供じゃなければとっくに手を折られているよ。」
「…え!」
そうなんだよ。転生者である私と(今はいないが)亡国の姫のラーラさん、そして神獣に好かれてる母に、この国の支配者の弟の婚約者のサマンサちゃんが立ち寄ったり住んだりしてるのだ。
忍びが警備してるのは仕方ないよね。
「ふん、ドンとリッキーと言ったか?オマエらの顔なんかとっくに割れてるんだよ。」
「俺らはな、交代で学園にも出入りしてるんだ。」
「 ! 」
「学園にはエリーフラワー様やエドワード様。それにアキ姫様も居るんだ。俺ら王家の影がいるのは当たり前だろ?」
少年達二人紙のように顔を白くして震えだした。




