真実はいつもひとつなのか。ひとの数だけ真実はあるような気もする。
誤字報告ありがとうございます
「王妃様。お楽しみの詩集の前に、少しお二人に説明をしたいのですけど。」
エリーフラワー様がアイスティーを飲みながらおっしゃる。
「こほん。そうね。業務連絡は先に済ませましょう。」
「はい、ありがどうございます。
先日ご説明しましたけども、アキ様には音楽を教えていただきたいのです。
初等科と中等科には週に1回の音楽の授業、
再来年には高等科を新設いたしますから、そちらには本格的に声楽コースをと考えております。」
「はい。」
「少年合唱団も声変わりする子供も出てきましたわ。
彼らが望めばそのまま歌手の道を目指せるようにと。」
「素晴らしいお考えですわ!」
アキ姫様は目を輝かせて、手を胸の上で組まれた。
栗色の巻き髪が揺れる。
「それで、お二人のお部屋は寮で隣同士になるのですが、今改装してますのよ。
出来上がり次第こちらに越していただきます。」
「そうなんですか?」
「ほほほ。この図面を見て下さいな。」
「そういえばここのところトンカントンカンと工事の音が。
ん?私とアキ様の部屋の間に空洞がありますわ?」
訝しげに顔をあげるエメリン。
「気がついたのですわね。ここはクノイチがいる隠し部屋ですの。
ここにクノイチのシンシンが潜んでいてお二人の護衛をするのですわ。」
どれどれ。見せてもらおう。
この隠し部屋はアキ様の部屋とエメリンの部屋の間にあって、二人の部屋のどちらにでも行ける仕組みとなっている。
「そして私がお二人の護衛をするシンシンでございます。アキ姫様には、初めてお目にかかります。
どうぞ、お見知りおきを。」
窓際のカーテンの後ろからさっそうと現れたシンシン。
おや、今日は騎士っぽい格好をしているぞ。
黒髪にキリッとしたメイク。
何と言うことでしょう。
こないだのアネゴ肌のレスラーが。
歌って踊れる歌劇団に。
「おほほほ。私がデザインして、」
王妃様の言葉に、
「ウチの衣装部に作らせてメイクしましたの。」
エリーフラワー様が続ける。
「レイカはもう少し美少年タイプが好きなんでしょうけど、」
王妃様。ドヤ顔で何を言ってらっしゃるのかしら。
「ちょっとヅカでもアニキっぽい男役のイメージよ。」
それって紅ゆ○るさんとか、瀬戸か○やさんとかですか。
シンシンの一重の切れ長の目はメイクで更に吊り目になっていて、スッキリとしている。
オリエンタルな、ふんいきイケメンになってる。
「す、素敵。」
ほう。アキ姫様の心に刺さったようだ。
頬を染めて見ておられる。
「ええー、こないだとは別人…」
エメリンもびっくりだ。
「私がお二人をお守りしますからね。」
「はい♡」
「ええっ、まあ、はい。」
自由が好きなエメリンは不承不承に頷いた。
「それでは。エメラーダよ。私に詩集をお見せなさい。さあ。」
ワクワクして手をお出しになる王妃様。
「は、はいい。王妃様。先日レプトン様にお渡ししたものを再現いたしました。」
「うん?なかなか開かないわね。くっついて。」
「王妃様。そのページは炙り出しなのですわ。
みかんの汁で書きましたの。
乾かし方が甘かったのかもしれません。」
え。本当にやる人いるんだ。
「なるほどねー。私も子供が小さい頃(前世で)やったけどね。
みかんの汁がついてて、炙らなくても色が残って、わかったりしたわ。
うん、何とか開いた。」
王妃様が紙を透かしたり、横から見る。
「そうですわね、紙も波打ちますし。」
残念だが、炙らなくてもキミのメッセージは見えたよ、エメリン。
「すき、すき、大好きよ、レプトンさま?」
「きゃっ。王妃様。声に出されると照れますわ♡」
…うん。そうか。
エリーフラワー様とアキ姫様から生温かい視線を感じる。
ヴィヴィアンナ様は知らない顔をしてアイスティーを飲んでらっしゃる。
「それから、これはポエムね、……ほほう。なかなか。ほほほ、おほほっ。」
笑いをこらえてらっしゃる。
「さ、シンシンとやら。これを読みあげてみよ。」
「はっ、王妃様。」
良い声でお返事をしてシンシンが紙を受けとる。
そして、朗々とした声で読み上げ始めた。
「会いたい。逢いたい。あ、痛い。
それとも、愛と鯛で、あいたいかしら。
鯛があれば、あなたの愛は釣れるのかしら。
カルパッチョがいいかしら。
やっぱり鯛そうめんに鯛めし。
ご馳走作って待っていれば会えるのかしら。
やっぱりシンプルに姿焼き。
こんがりと。
あなたにもこの熱よ、届け。」
ほほう。なかなかすごい。
く、
アンちゃんが横を向いて笑いをこらえる。
王妃様は口元を扇子で隠してらっしゃるが、その手元は震えている。
「??これは何かの暗号ですか?」
シンシンが眉間にシワを寄せている。
「ちがうですの。言葉遊びなんですよ。韻を踏んでいったのよっ。」
ムキになるエメリン。
「はあ。」
「天才が考えることは良くわかりませんわ。」
アキ姫様は頭を抱えている。
「ふむ、これなんか良いではないか。シンシンよ、次はこれじゃ。」
「はっ。かしこまりました。」
「貴方を打つ銀の雨。
少し俯きかげんに歩く貴方
雨の中もひるまず進む貴方。
たとえ私がそれに寄り添えなくても。
……祈ろう。
これから貴方がたどり着くところが晴れているように。
辛い思いをしないように。
寂しくないように。
寒くないように。
空腹で震えないように。
側にいなくても。ずっと。
祈りは続く。
あなたの足元に綺麗な花が咲くように。
あなたの夢が叶うように。
その目が希望で輝くように。
あなたを打つ雨があがるように。」
ほう。なかなかいいじゃないの。
母が子供を見守るような感じで。
「ジンと来ましたわ!」
「ええ、本当に。」
感心する才女と麗人。
「これもレプトンのことかえ。」
「はい、王妃様。雨の夜に走り去ったレプトンさんを思って作ったのですわ。
弾丸のように走る姿が凛々しくて。」
「えっ、それって。」
私とエリーフラワー様の顔がこわばる。
「濡れネズミで、ウチに逃げ込んできた時ですわね。夜這いされそうになって。」
「違いますうう、お話したかっただけですう!」
半泣きのエメリンだ。
彼女にはパニックを起こして逃げまどったレプトンさんが、(うわあああと絶叫していたらしい。)
ハヤテのように颯爽と走りさったように見えたのか。
……同じ事象でも見る人によってこんなに違うのか。
騙し絵みたいだね。
「まあ、いいじゃないですか。これから気をつければ。」
さらりと流すヴィヴィアンナ様。
お優しい。
「我が夫、リード様の命によって貴女は、レプトンさんの10メートル以内に近寄れないのですし。」
「がーん。」
驚き方が昭和の漫画だよ、エメリン。
それにそんな接近禁止令が出ていたとは。
知らなかったなあ。
チラリと周りを見回すと、
おや、アンちゃんもシンシンもコクコクと頷いている。マジなんだね。
「しょんぼりしても仕方ないですわね。
しばらくは詩作と授業に励みますわ。」
「ええ、エメリン先生。貴女は素晴らしい詩人で教師なのですから。」
「ありがとう、レイカさん。」
涙目で頷くエメリン。
切り揃えた髪は白く脱色しているが、少しずつ地色の赤が出てきている。
ピンクブロンドっぽくなってきたね。
その髪がサラサラと揺れて、メガネの奥の青い目が潤んでいる。今日はそんなにキテレツな化粧もしてないから、黙っていれば美少女だ。
バーバラやロージイ似の。
――ふうん。その美に気がついたアラエルが固執したんだな。
彼女も災難だったなあ。




