王妃様のお茶会。
さて、何日か経った五月の中旬。
今日は王妃様がレストランにお越しだ。
「ねえ、レイカ。麻だっけ?忍者が飛び越えて修行する草。」
アイスティーを飲みながら王妃様がおっしゃる。
「あー、なんかありましたね。ものすごく生育が早い草でしょ。」
「そう、毎日飛び越えてジャンプ力を鍛えるの。
ねえ、植えてみたら?ランもアスカもまもなく二つでしょ。足腰もしっかりしてきたでしょ。」
「もう五月ですが。今から種まき間に合いますかね。」
腕を組んで考え込む私。
「アンディ。そんな修行方法は伝わってないの?」
アンちゃんが柑橘系のゼリーに生クリームを乗せた物を持ってくる。
湘南ゴールドみたいな果実でね、ゼリーにしたの。
ほろにがくて甘くて爽やか。
アンちゃんは今日は蝶ネクタイをつけて執事の格好です。似合います。
「いいえ、私は知りませんが?麻はなかなか育つのが早いので途中までは出来そうですけどね。
実際かなり丈が高くなるから、後の方は飛び越すのは無理でしょうね。」
「うーん、やはりただの伝説かしら。」
「忍びの里ではやってたかもですね。」
「ああ、ハイドの出身地?今度聞いてみようかしら。」
考え込む王妃様。
なんか忍者漫画なんかで見たのを再現したいんだな。
「でも、王妃様。トランポリンがあればジャンプの練習になりませんか?
まあ、まだあまりに小さいうちの子は無理でしょうけど。
中等科の体育とか良いかも。」
「そうね、レイカ。この国にはないわね?
ねえ、紙と鉛筆を。」
「はっ。」
アンちゃんが持ってきた紙にサラサラとお書きになる。さすがに元漫画家であらせられる。
「この後、エリーフラワーが来たら相談しましょう。」
そう、この後エリーフラワー様とエメリンさん、それから何人かいらっしゃるのだ。
「喉が渇いたから。」
と言って王妃様はみんなを待たずにアイスティーを飲んでらっしゃるのだ。
自由である。
アンちゃんがすぐにアイスティーを注ぎ足している。
そこへ。
「お客様がお越しです。」
ショコラさんの案内で入って来られたのは。
「ふふ。お義母上様。レイカさん。ご無沙汰しております。アキ姫様と参りました。」
……ああっ!お久しぶりのヴィヴィアンナ様っ!
貴女の笑顔にズキン・ドキンです。
渚のは○から人魚になる私。
立ちこめる金色のオーラ。薔薇の香り。
ステキぃ!
「ヴィヴィアンナ様!ようこそ!」
「私も久しぶりに会えて嬉しいです。」
パチンと私にウィンクして下さる。
おうふ。意識飛びそうです。
パシ。
……はっ!
アンちゃんが軽く私の首の後ろを叩いた。
ふう。正気が戻ってきたわ。ありがとう。
(でも痛い)
「待っていたわ。ヴィヴィアンナ。
そしてお久しぶりね。アキ姫様。
こちらでの音楽講師を引き受けて下さって私からもお礼を申しますわ。」
「いいえ!こちらこそ。グランディの華の中の華にお会いできて、お力になれて光栄でございます。」
「ほほほ。改めて紹介するわ。こちらが私の腹心のレイカ。」
王妃様っ。ハードルあげないでっ。
せめてお話し相手として紹介してください。
「ふふ。私の親友でもあるのですよ。」
ヴィヴィアンナ様!嬉しいっす。舞い上がりそうですっ。
「ついでに我が妻でありますよ。」
アンちゃん?何故圧をかけるのさ?
「そ、それは。凄いお方なんですのね。」
アキ姫様が私を見る目が変わる。
「そしてね、私の転生仲間なのよ。こないだ一緒に踊ったでしょ。」
「あ、はい!そうですわね。」
「王妃様は貴女にあの民謡についてお聞きになりたいそうなんですよ。」
ヴィヴィアンナ様がにっこりと微笑まれる。
「そうなんですか。多分三百年以上前から伝わっているものなのです。
あの歌、クロ・ダ・ブシーでしたっけ。結婚式とかで歌われていますの。」
身振り手振りで振りを再現なさる。
なるほど。黒田節だなあ。
「そしてあのダンス?俗に月が出たよボン・ダンスと呼ばれています。」
ほう。盆踊りなんだね炭鉱節。
「貴女のお国のご先祖に前世日本人、多分九州の人がいたのね。」
王妃様はつぶやく。
「では、何か伝わっている食べ物はございますか?」
聞いて見る私。もしかしたらタラコがあるかもしれんけんね。
そうするとモルドールの商売敵になるかもですけん。
「うーーん。そうですわね。
ガーメーニーという食べ物。名前だけ伝わっておりますわ。あとはウメガ・エ・モチとか。」
「がめ煮。」
「別名筑前煮ですね。」
「そして梅ヶ枝餅ねえ。」
「白玉粉が必要ですね。」
「え、お分かりになりますの?」
「ええ。アキ様。がめ煮なら作れますよ。鶏肉と野菜を炒めて煮たものです。
ただ、レンコンと里芋が必要ですから、冬になってしまいますが。
元々九州のお正月料理なんです。
梅ヶ枝餅は白玉粉をどうにかしないと。」
多分、もち米を砕いてつくるのね?水につけてからとか?
「まあ!それは。是非是非食べてみたいです!
ガーメーニー。」
「ほほほ。年末にレイカに作ってもらいましょうね。」
「ふふ。レイカさんのお料理でお義母上様は元気を取り戻したのですよ。お義母上様が身内以外で気安いのはレイカさんだけなのです。」
「え、ヴィヴィアンナ様。それは本当なのですか?」
「そんな事はありませんよ。王妃様のお心が広いだけです。」
「さア、オレンジゼリーと紅茶をどうぞ。紅茶はホットがいいですか?アイスが良いですか?」
アンちゃんがお二人に給仕する。
「あとね、アキ姫様。エメリンことエメラーダ先生をご存知かしら。」
「ええ。王妃様。こないだコンサートでお会いしましたわ。
素晴らしい歌詞をお書きになる方ですわね。」
「これからエリーフラワー理事長とここに来るわよ。」
「王妃様。お二人が到着されました。」
アンちゃんの案内で、
エリーフラワー様とエメリンさんが入ってきた。
「王妃様、ヴィヴィアンナ様。レイカさんにアキ様。
ご機嫌よう。」
にこやかに微笑まれるエリーフラワー様。
いつ見ても堂々としてらっしゃる。
そしてロイヤルなメンバーに挙動不審になるエメリン。
「…ぐ、グランディの華の中の…」
「あ、いいのよ、エメラーダさん。お忍びですからね。」
エメリンの挨拶をぶった斬る王妃様だ。
これからお茶会という、顔つなぎの会なのである。
「エメリンさん。王妃様が貴女とアキ様が親しくなるように席を設けてくださったのですわ。」
「ひええ。勿体ないことでございます。」
「おほほほ。それにね?貴女の詩集を読みたくって。
新しいのをレイカに届けるのでしょう?」
「あ、はい。実は持参いたしました。」
「まああ!」
王妃様の目はランランと輝いていた。
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