とりあえず食事をしよう。元気が出るように。
私は残って引っ越しを手伝った。
ルシアさんやおゲン夫妻の引っ越しは簡単だった。
「もう、馬車に荷物積んできてますから(笑)」
「すぐに住み込み出来ますよ。」
うん、仕事が早いね。
「ホッホッホ。私は元々荷物はほとんどありませんからな。」
ジージも今日からいけるようだ。
「さあ、レプトン、客間のベッドで横になって。」
レプトンさんはマリーさんに付き添われて立ち上がった。
そうだね、ここはベッドは必要数あるからね。
「肩をお貸ししますぞ、若旦那様。」
ジージが身体を支えて連れていく。
そこに忍びの団体が来た。
「お引越しのお手伝いしますよ。ミッドランド様。
ご夫婦で即日引っ越しで宜しいですね?
馬車を何台か用意しました。当座にいるものを取りに参りましょう。
それから、チャチャも連れてこなくては。」
おや、シンゴ君だ。
今日でミッドランド家の引っ越しを終わらせるつもりか。
「電気、プロパン、水道。新聞や宅配牛乳も止めておきました!
郵便局に転送届けも。」
「ありがとう。マリーはレプトン君に付き添いたまえ。私がいこう。」
「はい、では参りましょう。」
早え。仕事が早えええ。
「まぁ私達忍びは引っ越しに慣れてるんですよ。」
オ・ツナさんが笑う。
「じゃあとりあえず、なんか作りましょうか。
引っ越しのあと、みんな食べるように。」
今、お昼の三時である。今からお夕飯の支度をすれば間に合うだろう。
「はい。レイカさん。」「手伝います。」
ポーリイちゃんとルシアさんとで炊き出しだ。
あと手があいた若い忍びたちにも手伝ってもらう。
「カレーにしますか。」
「良いですね。」
流石にハイド君のお家だ。各種スパイスに食材が揃っている。
ブラウンルーはチカラ自慢の忍び達に手伝ってもらおう。
「龍太郎君が沢山食べるから、食品倉庫は満杯だね。
おお、大釜もあるし、大きめの炊飯器も。」
学校給食で使うような回転釜だ。二つもある。
凄いねえ。
冷蔵庫も大きい。業務用だよ。
と言っても勝手に食材を使ったらいけないな。
「ポーリイちゃん。出入りの肉屋や八百屋わかる?牛肉薄切りと野菜を持ってきてもらって。
お米。スパイスはウチから持ってきてもらおうか。あと紙皿と木のスプーンも。」
「OKッス。」
流石にここには食器は大量にはない。
煮込む時間が必要な角切りお肉では間に合わない。
薄切りだ。
途中まで肉じゃがにしようか?と迷えるやつだ。
ちゃんとハイド君のとこにも材料は揃っていたけど、勝手に使うのはね。NG。
人に断りもなく食材を使われて、料理の予定が狂うと腹たつのよね。
前世で夫に、
「あ。夕べ、つまみにかまぼこやチクワもらったわ。」
なーんて言われた日にゃ、
「アンタ!何勝手なことしてんのよ!娘たちの弁当のおかずだったのよ!
ああっ!ソーセージもない!」
そこから夫婦喧嘩でしたね。
はるか昔の記憶に、遠い目をするわたくし。
さ!作るよ。ビーフカレーだよ。
ひとつの大釜でルーを作る。小麦粉をバターで炒める。
少し取り出して、小鍋で牛乳をいれてホワイトソースにする。シチュー用だ。
弱っているレプトンさんにはこちらがいいよね。
野菜も別に煮る。
あとはブラウンルーにしてカレー粉入れてカレールーだよ。大きなヘラでつくる。これがなかなか大変なんだよ。チカラ仕事でね。
そちらは、若者にまかせて、
同時進行で別の大釜で、みじん切りをした生姜やニンニクをいため、香りがたったら牛肉を塩コショウで炒める。
塩コショウは皿に一緒に混ぜておくと便利だよ。
味が均等につくんだよ。
炒めた肉をいったん取り出して。
ちょいと植物油でね、大量のタマネギやニンジンも炒める。煮込む。
玉ねぎだけを長く炒めるのもいいが今日は大量調理なんである。
龍太郎君は大食いなんだ。若い忍びたちもおかわりするだろう。五十から六十人前作るよ。
大釜ひとつでギリ、行けるはず。
キノコもいれちゃえ。シメジあるじゃん。
ある程度煮えてからジャガイモだ。煮崩れるからね。
隠し味はソースとケチャップ、赤ワイン。醤油。
塩コショウも味を見ながらね、追加。
そして、カレールー投入!たちまち漂うカレー臭。
最後に炒めた薄切り肉を投入だ!
生野菜も別カップに添えてどうぞ。
「オッス、レイカさん、オヤツにクッキーも頼んでもいいっすか?」
「あら、ポーリイちゃん。じゃあカレーヌ様のところへ連絡してね。」
吹き抜け部分に簡易テーブルや椅子を出す。
全部で三十人くらいか?忍びの人たちには交代で食べてもらおう。
「どーもー。」
すぐにハミルトンさんがクッキーを持ってきた。
ルシアさんが受け取る。
ご飯とデザートの用意が出来たところで、アンちゃん達が帰ってきた。
「ワアイ。カレーの匂いだ!」
喜ぶ龍太郎君。
「ああ、レイカさんすみません。作っていただいて助かります。」
ハイド君が頭を下げてきた。
「ううんいいの。こっちこそ調味料使ったものあるから。使い込んだ小麦粉とバターは後で届けるわ。」
「そんな。要りませんよ。」
ハイド君が真顔で手を顔の前でふる。
「で、どうだったの?エメリンいたの?」
「ああ。」
疲れてるアンちゃん。
「中に入ったら壁のとこが盛り上がっていてね。壁紙と同じ色の布を被って同化していたよ。
鍵はピッキングで開けたってさ。
本当に忍びになれるんじゃねえの。あの先生。ふん。」
鼻で笑う。
メリイさんも眉間にシワを寄せている。
「私がね、エメラーダさんいるんですか?って問いかけたら、その布がペラリと剥がれて出て来たんです。
驚きました。
思わず悲鳴をあげましたらね、半泣きになって。
メリイさーん、お兄様に合わせて下さーい!って抱きついてきたんです。」
「ちなみに服は着ていたよ。」
アンちゃん、そんなことは聞いていない。
「俺が炎を吐いてオドカシてやったらビビって大人シクナッタ。」
龍太郎君はカレーを食べはじめている。
早いな。
「とりあえずね、ブルー婆さんにチクっておいたから、今頃連れ戻されているだろうがな。」
アンちゃんもカレーを食べながらため息をついた。
うーん。
「メリイさん、途中で一部よけといてシチューも作っておいたの。レプトンさんにどうぞ。コチラのほうが胃に優しいでしょ。」
メリイさんに小鍋に入ったシチューを渡す私。
「はい、ありがとうございます。」
ミッドランド氏のほうの引っ越しも終わったみたいだし。
チャチャも連れてきてもらって、レプトンさんに添い寝してるとか。
アニマルセラピーしてあげて。
「チャチャ!猫ちゃああん!会いたかったよー!」
「…ニャ。」
レプトンさんはいきなりチャチャを抱きしめてむせび泣いたそうだ。
「レプトン義兄さんの着替えや貴重品はコチラに持ってきましたから。」
ハイド君は荷物を上に運びに行った。
「もうこの家にはエメリン女史は入れません。学校の用事と言っても。会議や打ち合わせは外でやりますから。」
ミッドランド氏も、マリーさんも苦虫を噛み潰したような顔になっている。
手伝ってくれた忍びたちにもカレーを振る舞って、とりあえず今日は解散かな。
「じゃ、私達も帰るね。」
「レイカ姉さん。アンディ様。お世話になって。」
ハイド君が大釜を回転させて洗いながら頭を下げる。
「ゴッソーさん!カレー美味カッタヨ。残ったのは一晩置いといて食べるト美味いンダヨネ。」
龍太郎君が小鍋にうつされたカレーを見ながら言う。
うん。次の日の朝のカレーは美味しいよ。
菌が増えないように粗熱をとったら冷蔵庫に入れるんだよ。ウェルシュ菌が怖いからね。
「アトサ。オ・ツナさんダッケ。良サソウナ人ジャン。
イイ乳母を見ツケタネ。」
「 ? 」
「ダッテ、あの人も妊婦ジャン。メリイの子供の乳母にスル気ナンダロ?」
「え!本当ですか?神獣様!」
ゲン・ノジョーさんがすっ飛んで来た。
「……エ。気がツイテナカッタの?メリイより少し大きいよ。ひと月くらい早く産まれるンジャネエ?」
なんと。そちらも初期であったか。
「ヘエ。良かったじゃ無いの。ゲンの字。」
にこやかに笑うアンちゃんだ。
「ちなみに男の子ダヨ。」
「そうですか!龍太郎様!」
「男ダカラ、オレが、塩対応デモ気にしないデネ。」
「…ははは。」
くれぐれも二人とも身体を大事にね、と言って帰宅した。
さて。
レプトンさんは今までのストレスと、ホッとしたことで熱を出し、次の日まで寝込んだそうだ。
集団調理の経験を思い出して書きました。




