ちょっと困ってるだけよ。アンタも好きねえ。
龍太郎君が飛んで来た。そしてレプトンさんの周りをぐるぐる飛び回る。
「アレ、久しぶり。レプトンサン。俺の結界を抜ケタのは誰だと思ッタラ。」
「龍太郎くうううん。お部屋余ってない?限界なんだよ。」
みるみる涙目になるレプトンさん。
アンちゃんが、眉をひそめた。
「今住んでるの、高官用の寮でしょ。虎子ちゃんたちが守ってるんでしょ。どうしましたか?
ま、とりあえず中へ。」
レプトンさんはヨロヨロとリビングの椅子に座り込んだ。
「うん。こないだまでは大丈夫だったんだ。
だけどね、今ヴィヴィアンナ様が外国の要人、アキ姫様につきっきりでしょ。
虎子ちゃんもヴィヴィアンナ様の護衛で忙しくて寮の守りは手薄になったんだ。
それでね。」
はあっ。
「……エメリン先生と俺の話は有名だ。公宮で働く人の中には彼女に同情する人もいて。」
レプトンさんは顔をおおってため息をつく。
「手紙をね。渡してくるんだ。頼まれたからって。」
「…え。そうなの?」
「そうなんだよ。メリイ。
もうね、彼女の手紙は受け取り拒否にしてたんだ。
郵便局ではね。
それで人づてに渡されるようになったんだよ。」
レプトンさんの目はウツロである。
「それでも仕事の昼休みに公宮に持って来られるのはまだ良かった。その場で突き返した。」
声が震えている。
「こないだはね、寮の部屋の前に置いてあったよ。こんもりと。
ううっ。あれは手紙なのか?
作品集だよ!分厚いよ!中身もホットな恋愛ポエムだよ!
あああ!キラーワードやパワーワードがいっぱい、妄想もいっぱい。
ついでに謎解きもいっぱい!」
頭を掻きむしるレプトンさん。
ええっ。見てみたいかも。その作品集。
レプトンさんの顔色は悪い。
前世での商店街のお地蔵さんがこんな感じだったっすよ。
「フーン、寮の人も応援シテルンダネ。」
龍太郎君がメリイさんの肩の上にとまって羽根を開く。
何故ここで威嚇ポーズ。
「それで最近はね、ドアに髪やこよりを挟んでおくんだけど。
……今日は休みで、買い物にいって、ここに来る手土産を買ったんだ。」
足元にはカレーヌさまのお店の袋がある。
いそいそと買い物がてら会いにいったんだな。
「カレーヌ様はフルーツサンドも始められてね、併設のカフェが混んでたから、寮の部屋で食べてからこっちに来ようと思ったんだ。」
なるほど。お昼時だったんだな。
お菓子の大袋の中には、大きな詰め合わせの箱と、フルーツサンドっぽいものが別に入っている。
あら、傷むわよ。すぐに食べないなら冷蔵庫に入れなきゃ。
「それで、帰宅したら、開けられた形跡があった。」
「え!」
「…こ、怖くて。そのままこっちに来ちゃったんだ。」
「レプトン。」
全身が小刻みに震えてるレプトンさんの肩を、
マリーさんが抱きしめる。
「け、警備員を呼んで開けようかと思ったけれど、も、もももももし、彼女がいたらと思うと恐ろしくって!
見たくなくて!ううううっ。」
少し情けないぞ!レプトンさん!
――――でもそれだけ追い詰められているんだな。
「あー、はい。わかった。了解しましたよ。」
アンちゃんが声をあげた。
「ハイド。とりあえず公宮に連絡して。
レプトンさんは二、三日休むと。体調不良で。」
「はっ。」
「一応ヘビにも守られてるはずなんだが。寮の住人が手引きしたんなら、しゃあないなあ。
ま、最悪。部屋んなかに、セクシーな格好のエメリンがいるくらいでしょ。」
きゃああああああっ。
レプトンさんが乙女のような可憐な悲鳴をあげた!
「レプトン兄さん!しっかりっ!」
「ねえ、メリイさん。使ってない部屋、あったよね。二階に。客間はひとつ?二つ?」
「アンディ様。二つありますわ。」
「じゃ、お母さん夫婦とレプトンさんが住めばいいやね。
ジージやおゲン夫妻、ルシアにポーリイ。
引っ越しの準備や手配をしろ。」
「はい。」
確か一階には使用人の部屋が二つとポーリイちゃんの部屋があったか。
「そしたらさ、ハイドとメリイさんと龍太郎。
一緒に来てくれ。お部屋改めと行こうじゃないか。
まあ、エメリンがいるなら女性のメリイさんがいなきゃ。どんな格好かわからないからな。
セクハラって言われても困るしなあ。
それに実の兄の部屋なんだからさ。
寝込んでるレプトンさんの荷物を取りに来たといえば家探しも簡単だな。
ハイド、お前が当座の着替えを見繕ってやれ。
それに泥棒の線もある。龍太郎、メリイさんを守るんだよ。」
「OK。アンディサン。それにエメリンだったら、こらしめてイイ?」
「うーん。常識の範囲内というか、キミが本気出したら、存在ごと消しそうだからなぁ。
なるべく見守る方向で?頼むよ。」
「ガッテン承知ノスケ。ちょっとツマンネエナア。
ネエ?焼きを入れてヤロウカ?ダメ?」
「もう。龍太郎。何言ってるの。不良みたいよ。
ホントに焼きをいれたら焦げてしまうから。」
メリイさん。止めてね?
慌ただしくアンちゃん達は出ていった。
まったくあのエメリン先生は懲りないなあ。
周りのみんなも面白がって煽るなよ。
「レプトン。とりあえずお茶でも飲んで。さ、フルーツサンドも食べて。」
「お母様。ありがとう。」
「ここにみんなで住みましょうよ。聖龍様が守ってくれるから。エメラーダさんは入ってこれなくてよ。」
「うん、うん。」
少し落ち着いたかな?レプトンさん。
まったくやれやれです。
懐かしのカトちゃんですね。
 




