人の夢と書いてみれば、儚(はかな)いと読むのでしょうねえ。
誤字報告ありがとうございます
王妃様は桜を見てしみじみとおっしゃる。
「前世日本人にはグッとくるわよねえ。」
頷く私にメリイさんに龍太郎君。
「本当にいいわね。ねえ、学園にも植えたら?」
「そうですね、王妃様。入学式に咲いてるといいですよね、風情があって。まあ今年は無理ですけども。」
風が吹くたびに桜の花びらは散る。舞い散る。
私とメリイさんは、王妃様に呼ばれて同じテーブルにいる。
龍太郎君はメリイさんの肩にのっている。
おや?龍太郎君が少し大きくなって、メリイさんの肩から降りて横にとまった。
少し目が潤んでいる。あんなに飲めばなあ。
「ナア、メリイ。…いや、一ノ瀬。桜がキレイだよなあ。」
「う、うん。」
いきなりメリイさんを前世の名前で呼ぶ龍太郎君。
その目は空を見上げていた。
そして桜の木を見て。
視線を下ろしてメリイさんを見る。じっと見る。
何かを察したアンちゃんがすっと隣のベンチから立ち上がる。
何気ない感じで、
「おい、ハイドにシンゴ。ちょっとこい。
ヤマシロが入籍したろ?
それでな…。」
二人に手招きして、引き連れて奥に行く。
「…手を握ってイイカイ?
一ノ瀬。」
「うん。」
目をぱちくりしながらメリイさんはそっと手を出す。
龍太郎君の手は短めだ。ゴジラを想像してください。
メリイさんとくっつく感じで手をにぎる。
その手にはお揃いの指輪がある。
龍太郎君の耳の指輪が光る。
見ているのは私と王妃様だけだ。
二人でそっと視線をかわす。
「はい、握手。どうしたの?ふふふ。やはり手は冷たいね?」
無邪気なメリイさんだ。
そして残酷にも貴方は爬虫類?だと告げている。
切なそうに下を向く龍太郎君。
「ウン、ソウダネ。」
転生者の集まりには誰もこれない。
多分誰も見てはいない。
龍太郎君の目が赤いのは酔いか、涙か。
「アノ公園の桜を覚エテルカイ?
映画の帰りに見タ。一本ダケ咲イテイタ。」
「もちろん。何回思いだしたかわからない。」
「ソウカ。来年も一緒に見ようと約束シタネ。」
「うん。」
「同じ大学に受カルツモリダッタンダ。
合格したら告って、一緒に桜を見ヨウト。」
「…うん。私も同じよ。」
ポタポタ。
龍太郎君の目から涙が滴り落ちる。
「ウン、ウン。
約束を破ってゴメンナ。一緒に大人にナレナクテゴメン。
……好きダッタンダヨ、一ノ瀬 美里。誰ヨリモ。
今デモ。ズット。
また一緒に桜が見タカッタンダ。」
鼻声の龍太郎君だ。
そしてじっとメリイさんを見る。
「ーうん。リュウジ。私も。」
花の様に笑うメリイさん。
そして龍太郎君はメリイさんに鼻を擦りつけた。
猫や犬がやる挨拶のようだ。
ぐいぐいと。
「くすぐったいよ。」
「幸せにナッテ良かった。……また会えてヨカッタ。
俺………。
ウン、チャント言えて、ヨカッタ。」
そして飛んでいって桜の木の上にとまった。
「え、待って。」
木の下に駆け寄るメリイさん。
「……構造的に鼻と鼻がぶつかってしまうわね。」
「ええ、王妃様。切なくおかしくて、悲しい光景でしたね。」
「ベロチューなら出来たろうに。」
「メリイさんはただ龍太郎君が甘えただけだと思ってますねえ。
以前前世では、ほっぺにチューしたかったと言ってましたよね、彼。」
勇気出してのチューの挑戦。そして失敗。
可哀想である。本当に可哀想である。
「下手にすると齧っちゃうわよ。可哀想に。
別の意味で食っちゃうことになるもの。」
軽口を叩きながらも王妃様の目も潤んでいた。
私も胸が痛くなった。龍太郎君の切ない恋心。
目頭が熱くなる。
ヘタな同情は彼を傷つけるだろう。
でも、
――可哀想に。
せっかく会えたのに。
彼女を守り抜く強さを、手に入れたのに。
1人でこの先長い時間を過ごすのはつらいから。
せめて彼女の子孫といたい。けど、それは彼女が、他の人の妻になると言う事なんだ。
「…御神酒が見せた夢という事ね。これで彼の恋心は昇華出来たのかしら。
……紫のにほへ(え)る妹を憎くあらば人妻ゆえに我恋ひめやも、ね。
今日は紫の花ではなくて桜の花よね。綺麗だわ。
……アンディは相変わらず気がきくこと。」
王妃様は軽くため息をつかれた。
「天武天皇が額田王を歌った歌ですね。」
(山田ミネコさんの「緑の少女」は良かった。)
ガッタン、ガタガタ。
龍太郎君は、桜の木を揺らして花びらを散らしてる。
「ソーレー、桜吹雪だー!」
「ああ!やめなよ、龍ちゃん!酔ってんの?」
ハイド君が駆け寄る。
もうアンちゃんのご用は終わったのか。
「結局ヤマシロ君のお祝いなの?」
「ああ、レイカちゃん。エリーフラワー様がドレスをくださるそうなんだ。まだ式はあげてないみたいだから。それでな、男性の方の衣装がね、」
「オレかハイドが使ったやつを貸そうかと。
サイズは、オレの方が近いかも。」
シンゴ君が続けて説明してくれる。
なるほど。
龍太郎君が降らせる花吹雪の中、お花見は終了した。
帰り際に龍太郎君が、
「色々有難うネ、アンディさん。」
私達にだけ聞こえる音量で囁いて行った。
後日キューちゃんが、メリイさんの家の周りに桜を植えるついでに、学園にも植えてくれたそうである。
ちょうど入学式を迎えられる頃に満開になるように調整してくれてるのだと。
それを知った王妃様は大喜びで、お礼にりんごを沢山エドワード様経由で送ったそうな。
キューコココココーン。
キューちゃんは大喜びで一箱24個入りのりんごをいっぺんに食べたそうである。
音も無く一瞬で穴に落ちるように消えていった、とエドワード様は語った。
やっぱり凄いねえ。
野菊の墓の主題歌から。松田聖子さんの。




