困っちゃうナ、デートに誘われて。ってことか。
アンちゃんが肩をすくめてエドワード様を奥に入れる。自宅の応接室にだ。
「ふううっ。もう用件はわかっているのでござろう?」
肩を落として座るエドワード様。
「まあな。言っておくがマーズさんとのお見合いは好感触だよ。
キチンと告白してないアイツの出番はないと思うがね。」
「そうでござるな。まったくその通りでごわすな。」
口元に手を当てて眼を閉じるエドワード様。
考える人のポーズになってるよ?
「古巣の第一騎士団の方から泣きが入ったか?」
アンちゃんがコーヒーを渡す。
軽く頷くエドワード様。
「レイカさん。良ければサマンサさんにアイツと会って貰えるように口添えいただけませんかな。」
「うーん。他のやつなら何をレイカちゃんに頼むんだ!と、蹴り出すところだかなア。」
アンちゃんも顎に手を当てて考え込んでいる。
「え、じゃあちゃんと断らせればいいの?まだマーズさんとの婚約も決まってないのに?」
「うむ。だから婚約の前に会いたいのでござろう。」
エドワード様がすがるような目で見る。
「確認したいんだけど。ランクさんはちょくちょくサマンサちゃんに会いに来て、口説いていたのね?
他に彼女はいなかったの?」
なんか軽そうだったし。ヘラヘラ口説いてそうだし。
(偏見)
「正直いいますとな。ガールフレンドというか、女友達は多かったようでごわす。
ちょっと一緒に出かけたり、飯を食ったりするような。
だけどですな。そんな深い仲はいなかったと本人は言うのです。
でも念のために女友達はみんな切ったと。」
ふうううん。
「サマンサちゃんはレイカさんの縁者。生半可な気持ちで近づいた訳では無いようで。
仲良くなったら、拙者に間に入ってもらって結婚を申し込むつもりだったと。」
「ふん。それでマーズさんに持っていかれたわけネ。」
「そうでごわす。
見合いをしたらしいとは聞いておりましたが。昨日なんか仲睦まじい様子で観劇していたそうですなあ。」
「本人に聞きましょう。」
猫カフェのバックヤードにいたサマンサちゃんを呼び出す。
「お呼びですか?」
そしてエドワード様を見て、
あ、と言う顔をした。
「ねえ、マーズさんのことはどう思ってるの?
今度いつ会うの?」
「ええと、レイカ姉さん。来週です。
そこで出来れば返事が欲しいと。
いい人なので婚約しても良いかなあ、と。」
「はあああああ。そうでごわすか。」
ロングなため息をつくエドワード様。
「ええとですね。マーズさんは嫌な事を言わないし、強引じゃ無いし、一緒にいて安心します。
それに動物が寄って来て楽しいです。」
「動物のことはなあ。ブルーウォーターに勝てるものはいないでごわすなあ。」
「ランクさんのことは?」
「うーん、ちょっとチャラいと言うか。二人でどっか出かけねえ?今度デートしねえ?って言われるけど。
何か目がギラついて怖いです。」
アンちゃんが口元をあげて薄く笑う。
「ああ、そうなの。まあなア。アイツも十八かそこらのガキだからな。
マーズさんの方が落ち着いて見えるのは仕方ない。」
「うーん。そうでごわすか。
ランクの奴はですな。マーズさんは権力をかさにきて、婚約を無理強いしてるじゃないかと。
助け出してやらないと、と言ってるでごわす。
というか。そんな風に思いたいのですな。」
「ええー!違いますう。勘弁!」
おや!ばっさりだぞ。サマンサちゃん。
「なんか、ランクさんもですけど、猫カフェに来る若い男のお客さんって連絡先渡してきたり、連絡先を聞こうとしたりする人がたまにいるんです。
その度にオー・ギンさんやヤー・シチさんが注意してくれます。
だけどランクさんは騎士団からの護衛でしょ。」
「拙者達に忖度して注意しにくいでごさるか。
申し訳ない。」
「あ、もちろんそれは二号店ですよ。こちらではそんな事はないです。」
「フン。アタシが怖いのね。」
アンちゃんが鼻をならす。
「では、アイツには可能性がないでござるな。
拙者の方からそう伝えておくでござるが。」
「そうして下さいますか。エドワード様。もう会わせない方が良いと思いますよ。」
「レイカさん。」
泣きそうな顔なエドワード様だ。
「エドワード様。正直に言いますね。私はギガント戦で両親をなくしました。
もう家族をすぐに失うのは嫌なんです。」
サマンサちゃんは震える声で続けた。
「ランクさんは護衛です。危険が多いですよね。
身体を張って王妃様やアラン様を守るお仕事です。
彼は私を見ると安らげると言いました。
……
でもね、私はきっと彼と結婚したら安らげない。
いつ怪我をするか、命を落とすか。心配でたまらないと思います。それは、」
そこで言葉を切るサマンサちゃん。
彼女はこう言いたかったのだ。
――それはレイカ姉さんだってそうでしょう、と。
胸にささる。
それは、私だって確かにそうだった。
今はアンちゃんは引退したようなものだけど。
それまでは心配でたまらなかった。
アンちゃんや、エドワード様がそっと私を見るのを感じる。唇を噛んで下を見る私。
「確かに。私の立場ではランクさんだって立派なお相手です。何しろ王族の護衛にまでなった人ですから。
……だけど、マーズさんは。多分。
長生き出来ますよね?!
あの方は守られる立場の人です。
動物だって、UMAだって。あの人を守っていますよね。」
サマンサちゃんは涙を流している。
14かそこらで戦で両親をなくして。
ご家族が営んでいた商店も火に焼かれて。
命からがら逃げ出して。悪者に狙われて、このブルーウォーターの森に逃げ込んだ。
「私の考え方はずるいのでしょうか?」
「そんな事は無いでござる!
すまなかったでござる。拙者がアイツに引導を渡しておくでござる。」
エドワード様も泣きそうな顔になっている。
「アンタの気持ちはわかったよ、サマンサ。
マーズさんにお返事をなさいネ。」
アンちゃんも頷いている。
「はい!今度お会いしたらお返事します。
ちゃんと嫁いだら家業手伝います!動物園でアイスを売ります!
任せて下さいって!」
うん、それ、ちょっと違うなあ。
…でもまあいいか。
山本リンダさんですね。




