たーらこ、たーらこ、やってくる。
さて、十一月になった。ブルーウォーター公国は温暖で良い。
私が生まれ育ったモルドール領は蟹缶が名物だ。
お察しの通り冬はそこそこ寒い。
「ねえ、レイカ。タラコが食べたいわ。簡単にいうとタラコスパゲッティが。
貴女の故郷ではスケトウダラは取れなかったのかしら。」
はい。無茶振りをなさるのは王妃様だ。
この世界キャビアはある。イクラも。
タラコはありましぇん。
「どうですかね?義父母に聞いてみましょうか。」
アンちゃんがうなずいて姿を消す。
ここはうちの隠れ家レストランである。王妃様のご希望で鍋焼きうどんと、かしわ飯のオニギリを出している。
かしわは、鶏のほうである。柏もちのかしわとは違うよ。
そこに父と母がきた。
「王妃様。モルドール領ではタラは取れておりまして、白身魚のフライはうちの名物ではあります。」
「あら、そうなの。スケトウダラはどうかしら?」
父は考え込む。
「うーん、それはどんな魚ですか?」
「え?もしかしたら取れないのかしら。でもね?」
王妃様が鍋焼きうどんから蒲鉾を箸でつまんで取り出す。
「この蒲鉾の原料の白身魚だと思うんだけどね?」
「ああ!スリーミーですね!取れたらすぐ加工業者に渡しております。蒲鉾や竹輪にされるようです。」
その名前。
それに蒲鉾や竹輪があると言うことは。きっと以前いた、転生者のウチの御先祖様の仕業ね。
「そうよっ!そ、それのね。卵なのよ!卵巣!加工されてないの?」
ものすごい勢いで質問なさる王妃さま。
「え?はらわたは傷むからその場で捨てていたような?港の猫ちゃんが食べていたか埋めたか?」
「……マイガっ!」
天井を仰ぐ王妃様。
私も気持ちわかります!
「まいが?王妃様。天井に忍んでいるのは確か、マイケルだと思いますが、良くおわかりに。」
アンちゃんは目をパチクリとしていた。
「そ、そうなの?スリラーな男ね?
じゃなくって!
す、捨てていたんですっててえええ?!
何という事なの!もったいないいい!
それに港のネコちゃんが痛風になるんじゃないこと?
ああ!明太子もいいけどタラコもね!」
お節も良いけどカレーもね?
みたいなフレーズで、タラコ愛溢れる王妃様。
少し混乱されてますね。
「ね、ねえレイカ。そしたらタラコも作れるわよね、ねっねっ。」
圧が強い。
「あのう、王妃様。私はイカの塩辛を作ったことはあります。」
「ええ。」
「それから、イクラの醤油漬けもあります。」
「うんうん。」
「だけど、タラコをつけ込んだことはありませんね。めんたい○ークには、3回行きましたけど。工場見学はしましたけど。何しろ前のことなんで。」
その時はまさか、異世界でタラコ作ってと権力者に乞われるとは夢にも思わなんだ。
「ああ!茨城にあるやつね。私も行ったわ。出来立て明太子が美味しいのよね。」
「ですから、メリイさんに相談してみましょう。」
「龍太郎君にとってきてもらうの?」
「それも良いですが、あの人は食物加工とか添加物とかに詳しいはずですよ。大学で食品化学を勉強したと言ってました。
タラコの作り方も知っているかも。」
「あ、なるほど。タール色素を抽出して検査してたって言ってたわね?」
ちょうど今昼休みだろう。
研究所に電話しよう。
「かくかくしかじかなの。メリイさん。」
するとメリイさんがキューちゃんと龍太郎君に連れられてやってきた。
「うん、わかりました。スケトウダラの産卵は日本では11月くらいからですね。
龍太郎に頼んで今度取ってもらいましょう。
それに、」
メリイさんが続ける。
「ねえ、龍太郎。スノーマンさんはモノを凍らせられるの?」
「ウン。マア。こないだの式で、スモーク炊イテイタヨナ。
ドライアイスみたいなの出したミタイダゼ。」
「じゃあ、同行してもらって、凍らせましょう。
そしたら寄生虫がいても死にますから。」
「ソウダナ。王妃サンが食ベルンダモンナ。
パイセン、スノーマンに頼ンデネ。」
キュー。
「ありがとう!キューちゃん!
確かにタラコって洗って少し冷蔵庫に置いてから、漬け込んだりするわよね?」
「ええ、そうですね。冷蔵庫で乾燥させます。」
流石メリイさんだ。タラコの調達は任せた。
タラコスパゲッティは作れる。任せてくれたまえ。
それから。
スケトウダラは獲れた。タラコも入手した。
凍らせて運んできた。
綺麗に洗って漬け込む。
塩水の濃度は6%でやってみた。こんなものかな?
何回かメリイさんと試作を繰り返して、
はい、タラコできました。
スパゲッティにするなら、明太子では無いよね。塩タラコだよ。
さて!今日はタラコスパゲッティの試食会です。
タラコをほぐしてね、溶かしたバターとオリーブオイルに混ぜて、レモン汁も入れる。白ワインもね。隠し味は醤油をちょいと。
そして混ぜる。
上に散らすのはノリとシソだよ。
茹でたイカも輪切りにしよう。
粉チーズをかけて、どうぞ。
ミルドルや、シンゴ君やラーラさんも呼んでる。
みんなの意見を聞かないとね。
「ああ!美味しい!壁の○を思い出すわ!」
王妃様は大喜びだ。
「ウマイナア。」「本当、美味しいね。」
転生者には好評です。
ハイド君は真顔でレシピをメモっている。
「うん、うん。」
食べながら頷く。そしてまたメモる。
本当に料理人だね!
「しょっぱいけど?美味しい。」
「初めての味だけど、いいね。」
みんな喜んでくれていると思う。
「これから、タラコはうちのモルドール領の特産にしよう。サンドの奴に言っておかなくては。」
父の顔もほころんでいる。
本当だね。
「うん、そうするとお金が儲かるよね。お母さん喜ぶよね。」
ミルドルがしみじみと言う。
え、ルビーが出たからそんなに困ってないのでは。
「だって、家族が増えるみたいだし。」
ん?んん?
「僕に兄弟が出来るんだって。おじいちゃん達、知らなかったの?」
「知らなかったなあ。」
「ねえ。まだ安定期じゃないんでしょ。だからまだ言ってこないのよね。」
生まれたらミルドルと13くらい違うのか。
へー。兄嫁は今31だっけな。うん、めでたい。
「向こうから言ってくるまで知らないフリをしましょうね♬」
「ああ。ミルドルの兄弟か。」
母と父は嬉しそうだ。
……多分ね、父と母が隠居してこっちにきたからだな。このタイミングでの御懐妊は。
やはり気苦労があったんだろう。私にとって良い両親でもね。
アンちゃんを見ると微妙な顔をしていた。
王妃様もだ。
この人達は勘がいいし、余計なことは言わない。
ま、良いか。やぶへびになるから深く考えなーい。
「ネエ、レイカ。今度は明太子もいいわね。おほほ。」
「そうですね、王妃様。うふふ。」
さて。すべて世はこともなし。
お節もいいけどカレーもね?はククレカレーのCMでしたね。
たーらこ、たーらこは、キューピーのCMっすね。
タラコを加工せずに捨てていた、レイカの先祖の転生者は、タラコが嫌いだったのです。
ウチの父もタラコは嫌いでした。
一度、あたったらしいんです。昭和初期に。