冬きたりなば春遠からじ。というが、本当に彼らには春が来ているのか。
梅の花も咲きほこる。二月の中旬。
いい匂いがする。そしてホーホケキョと鳥の声もする。
三寒四温というが、ほんとそれ。
少しずつ暖かくなったかな。と思うと寒の戻りである。
ブルーウォーター公国は温暖だ。まあ日本だと太平洋側の気候だと思う。
冬もそんなに積雪しないのだ。
この寒空の下、
ミルドルをアンちゃんたちが鍛えてくれている。
流石にもうエドワード様はこない。
(学校の生徒になるんだから、贔屓と言われても困るしね。)
「ただいまー!」
猫カフェのドアを開けてミルドルとアンちゃんが入ってくる。
「お邪魔しまーす。」
おや、今日はマーズさんもか。
うん、ドギーもいる。
「朝のお仕事のあと、筋トレに混ぜていただきました。」
ヒデージが来たから、余裕もできたし、
ミルドルを同じ年頃の少年と触れ合わせて、学校入学までに慣れさせようという、アンちゃんの親心である。
何しろ、ミルドルは一人っ子。近くに同じくらいの歳のお友達がいなかったのだ。
たまに従兄弟が来るくらいで。
「学園には色んなヤツがいるからな。身分が下とか、孤児だからって見下したらマズイよな。
ま、ドギーと仲良くなっとけば孤児だからといって、相手を馬鹿にする人間にはならないだろ。」
なるほど。
「ま、あったかいココア飲んでけよ。」
「ハイ、アンディ様。」
いいね、素直な子供たちで。
ふふ、今日はね。二月十四日なのさ。
バレンタイン気分でココアを用意した私。
「お相伴に預かります。やあ。このクッキー美味しいですね。ジンジャークッキーですか。」
マーズさんの顔がほころぶ。
「それはラーラさんが焼いたのよ。」
ほお、と言う顔になるマーズさん。
「シンゴ君はしあわせものだ。
……私もそろそろ結婚を考えますか。」
おや。
「ネモ兄がね。サーカスで私に「嫁さん募集中!」のたすきをかけたでしょ。
あれでね、そこそこ縁談をいただくんですよ。」
頭を掻くマーズさん。その足元にはタマちゃんが身体を擦り付けている。
動物に好かれるフェロモン?は健在だ。
たすき、ねえ。
あれか。あの兄の愛が爆発した奴か。
書いてある文字を見たんだな。
…とても恥ずかしかったろう。
ま、そりゃそうだ。
この国を統べるネモさんの弟君だ。
見かけだって性格だって悪くない。
動物だってほら、この通り。寄ってきまくる。
「こちらにお話をくださる方は、結婚を前向きに考えてくださっているのですから、有難い。
しばらく、独身でいようと思っていたので、まだ誰ともお会いはしてなかったのですが。
そろそろ、お会いして見るかと。」
「まア。前向きでいいじゃないの。」
アンちゃんもココアを飲みながら優しく微笑む。
「こうなると、デイジーの名前をハシビロコウにつけたのが悔やまれます。
娘が産まれたらつけようと思ってましたから。
――あの時は一生独身でいいと思ってましたからね。」
ゆっくりとココアを飲むマーズさん。
……うん、また新しい名前を考えてね!
「やはりひと目ぼれから始まる恋は上手くいかないのかな。」
どうだろう。
「マーズさんは儚い感じの美少女が好きなんでしょ。」
アンちゃんの目が笑っている。
「ええ、というかオーラみたいなものが更に最近良く見えるようになったので、もう見かけにはそんなにこだわっていないのですよ。
どこかに温かくて清浄なオーラを持つ人はいませんかね。」
それは難しいな。私らには見えないからね。
「とりあえず、何人かにお会いして見ます。」
ネコカフェ中のネコに寄ってこられながら、マーズさんはため息をついた。
そこへ。ちりりん。ネコカフェのドアが開いた。
「姉さん、アンディさん。おはようございます。」
サマンサちゃんが現れた。
「あ、悪かったわね。今日ネコカフェのスタッフが足りなくて。
こっち手伝ってくれる?」
「はい、アンディさん。オー・ギンさんから聞きました。」
「サマンサちゃん、こないだポーリイちゃんに会ったよ、元気そうだった。」
「あら、良かった、最近会えて無いんです。」
にっこりと笑う、サマンサちゃん。
モルドール一族特有の濃い緑の目が細くなる。
傍系でも出るんだな。
髪の色は違って薄い茶色だけど。
私達一家の髪の色は、父も兄達も私も、ミルドルも栗色なんである。良く似てる一家なんである。
「レイカ叔母さん。サマンサさんって、遠い親戚と言ってた人?」
ミルドルが私の肩をつつく。
あら、初対面か。
「そうよ、ミルドル。私のおじいさん同士が従兄弟かな。
サマンサちゃん、私の甥っ子のミルドルよ。
まだ、会う機会無かったわよね。」
「あ、話は聞いてます。
ふふ、本当にランドさんやレイカさんに似てますね。その髪と目の色!
ザ・モルドールって感じ。宜しくね。
私はサマンサ・ダーリングよ。」
握手をするサマンサちゃん。
「はい!宜しく!サマンサお姉さま。」
頬が赤くなるミルドル。
年上のひとに弱い少年だからなあ。
そこへすっと、もう一本手が出る。
「あの?」
「私とも握手を!レイカさんのご親戚のお嬢様!
私はマーズ・ブルーウォーターと言います。」
目をパチクリするサマンサちゃん。
「もちろん、存じておりますが。いつも遠目で拝見しておりました。」
「そうでしたか!」
ぶんぶん。
サマンサちゃんの手を握って握手をするマーズさん。
まるで清き一票を宜しく、の政治家のようですが、
セクハラの一歩手前では。
「素晴らしい清らかなオーラだ!流石、モルドール一族。」
「はあ。私はダーリングですが。」
「はいはい!未婚のお嬢さんにする握手にしては長いワよ!」
アンちゃんがいつの間にか、マーズさんの手をサマンサさんの代わりに握っている。
「アッ。いつのまにかアンディさんと握手を!
いきなり温かいオーラが、ツララのようになったと思ったら!」
わあ。
アンちゃんの顔が引き攣っているぞ!
マーズさんの発言は続く。
「サマンサさん!お仕事はネコカフェの店員ですか?
失礼ですが御年齢はおいくつで。
あと、動物はお好きですか?
それから、動物に異様に好かれる男のことはどう思いますか。」
「は?」
アンちゃんの眉間には深いシワが刻まれている。
「マーズさーーん。おウチに届いた釣書を検討するのではなかったのでーすーか?」
「え、それは…そうですけど。」
「とにかく今日はお帰りください。さあさあ。」
「え、待って。」
無理やりにマーズさんを押し出すアンちゃん。
「あの?」
困り顔のサマンサちゃんだ。
「オーラと来たか。厄介だな。」
頭を抱えるアンちゃん。
「とりあえず、ミルドルにドギー。家に戻れ。
汗かいてるだろ。風邪ひかないようにな。
サマンサ、仕事を頼む。今日はカフェのスタッフが二人程いないんだ。」
そして私をチラリと見る。
仕方ないなあ。
「ちょっとこっちへ。サマンサちゃん。」
奥へ連れて行く私。
「あれ?今日はやはり子守りですか?」
「うん、いや、ちょっと説明するね。
その前に聞いておくけど、あなたお付き合いしてる人はいるの?」
「特にいないですけど。
あー、だけどしつこくお客さんにデートに誘われて、ちょっとだけ困ったことはありますよ。」
なんと。
「元第一騎士団の騎士さんで、今は王妃様の護衛の人かな。ランクさんとか言う。」
なんとなんと!
皆様覚えてらっしゃるか。
前作、続 グランディ王国物語。
189話の「二人の騎士。」に確かにそんな話があったことを。
確かにそこでランクさんはサマンサちゃんに会っていた。
すっかり、さっぱり忘れていたよ。全く。
それで今は、サマンサちゃんがいる2号店に通っているのか、あの江戸っ子っぽい言葉のランクよ!
べらぼうめ、ちくしょう、てやんでえとくらあ。
(レイカ、混乱す。)




