モルドール家の執事たるもの。ご主人のところへ駆けつけなくてどうしますか。
そう言う訳で?
ヒデージーニアスは父と母の家でまた働くことになった。
「しばらくあちこちを旅行しましたが、ブルーウォーターは良いところですな。」
それに、と父を見て、
「やはりドレド坊ちゃまにお会いすると落ち着きますぞ。フォッフォッフォッ。」
と微笑む。
「おい、俺も爺さんなんだ。ドレド坊ちゃまはやめてくれよ。」
「ヒデージはお父さんが小さい時から仕えているんだよね?」
「お生まれになったときからですよ、レイカお嬢様。
私の母はドレド様の乳母だったのですよ。」
え、そうなんだ。
「そうだよ。ヒデージ執事の弟は生きてたら俺の乳兄弟になってたな。」
「私には年の離れた弟がおりましたが、産まれてすぐに事故で亡くなったのです。」
「あら、そうだったの。」
「それでウチで乳母をやったらしいよ。」
ヒデージのお母様は産後まもなく、ご主人と赤ん坊を馬車の事故でなくしたそうだ。
しかも婚家もおいだされ、ヒデージと2人行き倒れになっていたところを
(ひどい話だ。)
モルドール家の執事に救われた。
ちょうどウチの父が産まれたばかりで乳母を探していたのだと言う。
「その執事が私の義父となりましてね。良くしていただきました。弟達も産まれましてね。
グランディ中に散らばってます。今回会って参りました。」
「ああ、ルイージニアスに、ジージーズか。
元気だったか?」
「ええ。」
ヒデージは柔らかい笑みを浮かべた。
「母も義父もモルドール家でずっと働かせていただきました。
もう二人とも鬼籍には入りましたが。
今はランド様の代になりましたモルドール家。
ドレド様がいらっしゃらないとつまらないですしな。それでお暇をいただきましたが、旅行が終わったあとはノープランでしてな!
フォッフォッフォッ。」
いや、それはちゃんと考えようよ。
弟さんやご両親のお墓参りをしてコチラに来たらしい。
「母を追い出した元生家にも行ってみましたが、あの後没落していたところに以前のギガント戦で何も残っておりませんでしたな。
ま、おごれるものは久しからずですな!」
隣国のギガントとは何度も戦争を繰り返していた。
先日、とうとうギガントはグランディに合併吸収されたのだが。
「この老骨がどれほどお役にたてるかはわかりませんが、こちらで旦那様たちのお世話をさせて頂きます。」
ヒデージは禿げ上がった頭を深々と下げた。
猫カフェに戻るとヤマシロ君がいた。
「執事さんが増えたんですって?
うん、大人がいると安心ですね。ドギーにもよいお手本になるでしょう。」
アンちゃんが薄く笑った。
「ヤマシロは心配性だからな。」
「ええ、私の弟分ですから。」
同じ施設の出身だと言ってたな。
「だって、今、レイカさんのご両親がこちらにお仕事に来てるとき、あの家には子供三人だった訳でしょ。
白虎様や聖龍様のご加護があって、悪者は入れないと思いますけどね。」
あー、その発想はなかったな。
「これで安心してグランディに移動できます。」
「そうだな。ヤマシロ。もともとアラン様付きなんだものな。」
「ええ。」
「すぐに入籍するんだろ?彼女と。」
「はい、アンディ様。」
ヤマシロ君の頬が赤くなる。
「シンゴやハイドみたいな豪華な式はあげませんけどね。」
「まあなア。普通忍びはそうだよな。ちょっとハイドもシンゴも色んな事情が、あったからな。」
ハイド君は神獣がらみだし、メリイさんは貴族だし、
シンゴ君は貴族になったし、アンちゃんの養子だしと
派手になったのだ。
「お祝いに絹織物を送るよ。」
「うおおおー!アンディ様の伝説の絹織物!嬉しいですっ!」
そんなに嬉しいのかい。目が潤んでいるよ!
ヤマシロ君!
「ふーん、あのタヌキに連絡を取らなくっちゃな。」
すっと、アンちゃんは消えた。
「ヤマシロ、良かったな。いつ入籍するんだ?」
「来週かな。」
「それはまた急だな。」
シンゴ君が目をまるくした。
「やっとあっちに戻れるからな。いや、こっちは平和で良いんだけど。」
「ヤマシロ君のお相手はクノイチさんなの?」
「いいえ、レイカさん。街のパン屋で働いています。
俺と同じ施設の出身でしてね。
付き合いが長いンですよ。」
にこやかに幸せそうに笑うヤマシロ君。
浅黒い肌に笑いジワが寄る。
あ、そうだ。
エプロンのポケットをさぐる。あったあった。
「ハイ、これ。お祝いになるかどうかわからないけど。受け取って?」
ルビーの粒を出す。
ま、2か3カラットはあるだろう。
「こ、これは?」
「うん、龍太郎君から貰ったの。加護は付いてる筈よ。」
「え、えええー?そんな貴重なものを?良いんですか?」
驚愕のあまり目を見開くヤマシロ君。
「ウン。裸石でごめん。お守りにはなると思うけど。
ヤマシロ君にはお世話になってるから。」
「お義母さん。今ポケットから出しましたよね?入れっぱなしだったんですか?ええー?」
シンゴくん。神獣からの宝を雑すぎると言ってるのね。
だーって、忘れてたもん。
これは。
以前、シンゴ君がメリイさんに振られてヤケ酒した時に龍太郎君がくれたものだ。酒代として。
「好きなダケ、飲マセテヤッテヨ。」と。
(続 グランディ物語213話「ここでお泣きよ。悲しかったら」だね。ラーラさんと口喧嘩した時のだ。)
そのまま、エプロンのポッケに入れっぱなしで洗ってしまって、
乾いたら何故か奥に仕舞い込んでいた。
昨日引き出しから出したら、
「何、この固いの。」
と、発見したのだ。危ねえ。
「ありがとうございます!あ、ほのかにパワーで温かいかも?
家宝にします!」
「え、そんな大袈裟な。」
「レイカ義母さん。神獣様の守り石なんて普通手に入りませんからね。」
シンゴ君は苦笑している。
(その手にはキューちゃんと龍太郎君の加護が付いた指輪がある。)
ペコペコと頭を下げて、ヤマシロ君は奥に引っ込んだ。
まあ、感謝されるのは気持ちが良いものである。
「黒執事」の決め台詞からですね。タイトルネタ。




