貴女の御心の、ありのままに。
誤字報告ありがとうございます。
「オホホホ。アンディ?踊れるわよね?」
「ははっ。」
ぜんざいを食べながら、にこやかに王妃様がおっしゃる。
すげえ無茶振りである。
今日は12月15日なのにである。
――オイ。ギリギリにも程がありますよ。
「ホホホ。コンサートは28日。いつものクリスマスより遅いでしょ。いけるわよね。」
「はっ。」
昨日王妃様から、ぜんざいが食べたいとご連絡があった。それは良いのだが。
アンちゃんの予想は当たるなあ。
王妃様がいらっしゃることがわかった瞬間、スッと消えて学園に行った。
多分、そこで少年合唱団やアキ姫さまと打ち合わせをしたと思われる。
「失礼します。」
「まあ、ネモ。」
コンサートを仕切るのはネモさんである。
もちろん、今年も司会をやるのだ。
話を通すのは当然なんである。
「アンディさんから連絡をいただいて。コンサートの打ち合わせと、ぜんざいの御相伴に預かりに参りました。」
ニャーニャーニャニャーン。
猫カフェ部分からネモさんに沢山猫がまとわりついて来ているのだ。
それをアンちゃんが血走った目で見つめる。
あっ。ハンカチを噛んでいる。
…いつもの光景です。
「さあ。猫にゃんちゃん達。戻りなさい。」
素直に戻る猫さんたち。
アンちゃん、そんなに猫ちゃんを見つめないで。
「王妃様。子供達に「魔王」を歌わせることになっておりましたが、アンディさんにはそこで踊ってもらおうと思っております。昨日、早速軽く合わせて見ました。」
ブッ。
思わず小豆を吹き出しそうになるわたくし。
「オホホホ!良いじゃないの!去年のファントムに続いて「魔王」!ホホホ。アンディしか出来る人いないわよ。」
「ははっ、心して勤めます。」
「王妃様、ディスってますか?」
「いいえ、レイカ。キャラが立っていて素敵よ。
黒いマントをひるがえして踊る姿。
目に浮かぶわあああ。」
「ははっ。喜んでいただき幸いでございます。」
アンちゃんも、ネモさんも頭を下げている。
やれやれ。
「昨日子供達のコーラスの後ろで踊ってみて貰いましたけど。いや、大したものです。
マーズも来てましたけど、アンディさんの身体の動きのキレに感心してましたよ。
即興であんなに出来るとは。子供達も鬼気迫る演技に釘づけで。
おとーさん、おとーさん、まおーがいまー、と言うところなんか半泣きで。」
「嫌だワ。ネモさん。何も出ませんよ。」
アンちゃん?満更でも無いのかい?
頬を染めて照れている。
「何人かの子供達には軽くトラウマになったようです。
昨夜うなされて「黒い悪魔がやってくる」「魔王が来る来る、きっとくるー!」と飛び起きてたりしていたと報告を受けております。」
それって。リングの○子じゃないんだから。
「やぁだ。照れちゃう。」
ええっ。びっくりだ。アンちゃん?照れるところ?
「良いと思うんですよ。恐怖の対象がいるのは。
悪い事をしたら、黒い悪魔が来るぞ!って言えますからね。」
他人の夫をナマハゲ扱いにしないでほしい。
悪い子はいねがー?ってか。
「それじゃ…コンサートの時も怖くて歌えないのでは?」
「二名ほど脱落しました。無理矢理歌わせるのはいけませんからね。」
オイ。
「良いのよ。レイカちゃん。影は恐れられるほうがね。ワタシはランとアスカが、懐いてくれれば良いの。フン、オス餓鬼にビビられるのは構わないワ。」
「オホホホ!それでこそアンディね!本番が楽しみだわー!」
「王妃様がお喜びなのが1番でございます。」
以前も言ったが、泣く子と王妃様と神獣には勝てないのだ。この世界は。
さて、そろそろ来る。きっと来る。
「リング」のテーマソングが私の頭にも鳴り響く。
「ははうえー!こちらにおいでとうかがいました!」
「あら。リード。貴方もぜんざいを頂いたら?
ポテトを追加で揚げてっていうワガママは、今日はナシよ。」
「母上とご一緒出来るのなら、なんでも美味しいです。」
相変わらずだなぁ。
「それに太ってしまったら年末のコンサートに差し支えますしね。」
「まあ。楽しみにしていてよ。どのバージョンの「幸せになるように」を歌うの?」
へえ。もう確定なのか。
「貴方の歌を聞かないと年が越せないと言う人も多くってよ。」
「そうですね、母上。
実はハイド君に協力してもらおうと思っているのですよ。」
そしてリードさまはオペラ座の怪人モデルの仮面をつけた。
「コレをつけると、遠目では私かハイド君かわからないですよ。」
「まあ。確かにそうかも。…なるほどね。」
王妃様が扇子で口を覆ってニヤリとなさる。
私もなんとなくわかった。
あの、「わーはっは」をやりたいのだな。
ファントムが高速移動する。瞬間移動かな?
高笑いと一緒に。
舞台の上かと思えば天井近くに。
次は二階に?、
壁から顔を出したりする。
ここかと思えばまたあちら♪
ウワキな人ね♪
って感じである。
(何人もの役者さんがダミーを演じているのだが。)
つまりハイド君がリード様そっくりに化けて観客を翻弄するのだね?
なるほど。
「先日ね。お揃いの衣装を渡したんですよ。
身長はあちらが少し低いので、シークレットブーツで合わせて貰いました。」
ははは。やる気満々じゃねえか。
ではオペラ座の怪人を歌うのかな?
「ヴィーのかわりに踊ってもらうのも考えています。」
「あら、大変。シークレットブーツで踊らせるの?」
「王妃様。アイツも影です。それなりの身のこなしも出来るでしょう。」
安請け合いするアンちゃん。
…オイ。
「ところでネモさん。サードさんからレプトンさんか、龍の字いや、龍太郎君を通じてモスマンシルクのことを聞いていますか?」
「いいえ?それは何ですか?アンディさん。」
目をパチクリするネモさんである。
「あー、サードさんがためらっているのかな。
セピアから聞いたのですが、ダイシ商会の手を尽くしても、モスマンシルクが手に入らないらしいのですよ。」
「ああ。サリーさんのウェディングドレスの為ですか?」
「ええ、セピアはレプトンさんにマーズさんを通じて、ネモさん経由でモスマンに頼むか、龍太郎君経由でネモさんに頼むといいですよ、と進言したらしいのですがね。」
「ホホホ。モスマンとネモはツーカーの仲だものね?」
「そうですね。王妃様。ネモさんはいつもモスマンに連れて来てもらってますし。」
「え、今日もそうなんですよ。上着はショコラさんに預けましたけど。」
良くみるとモスマンの鱗粉が服に。
「あー、サードさんも言ってくれれば良いのに。
わかりました。私の方からモスマンに打診しましょう。」
「オホホホ。アンディは気がきくのう。」
「はっ。有難きお言葉。」
そうなのだ。アンちゃんは気配りの人なのだ。
そしてその日の午後から。
「さあ、ハイド。今日から私と筋トレだっ!
身体を絞らないと立派なダンサーになれなくってよ!」
「ええー。」
その姿は岡ひろみに声をかけるお蝶夫人のごとし!
「大丈夫!メリイさんは龍の字が見てるワよ!
オマエは安心して励みなさいっ!
さア、私のジャンプやターンに付いてきて!」
「ううう。」
まったく気が回るのである。




