そこの先生は、嵐をまきおこす。
さて、お開きだ。
「カレーヌ様。送りますわよ。キューちゃん、ウチに帰る前にコンドラ本舗に寄ってね?」
「ありがとうございます。白狐様。うちの新商品を食べて行って下さいね?サンクスさんケーキとクッキーの試食品がございますの。」
キュー。
目を細めるキューちゃんだ。
「そういえばレイカ。ケイトちゃんはどうしてるの?バイトに来てもらうつもりだったんだけど。」
「あー、ミルドルとザック君と一緒にね、ウチの領にバイトに行ってるの。」
「モルドール領に?」
「そう。カニ缶の発送と梱包のバイト。」
「学年の一位から三位までが揃い踏みですわね。みんなでバイト。」
エメリンがつぶやく。
教師の顔になって。
「ミルドル君はともかく、あの二人は苦学生ですからね。」
考え込むエメリン。
「アンディ様。」
キリッとした顔でアンちゃんに向き直る。
「エッ?私に御用?」
ちょっとたじろぐアンちゃん。
「ザック君の事情は私も少し知ってますのよ。
気の毒なお姉さんとご弟妹はどうにかなりませんかしら。」
アンちゃんが腕組みをする。
「…弟妹はな、ダメだ。もうすっかりスリやかっぱらいに手を染めてる。グランディでもうすぐストリートギャングの摘発をするが、その時にでも挙げられるだろう。」
「でも子供なら。更生の機会がありますわね?」
「まあ、ゼロでは無いがな。難しいな。
あの健気にザックに仕送りをしていた姉さんな、彼女はブルーウォーターに逃げてくれば…助かるだろう。」
エメリンは唇を噛む。
彼女はちゃんと人を思いやれる人ではあるんだ。
恋愛にはポンコツだが。
「あのなあ、エメリン先生。すべての人間を救うことはできないんだよ。
オレもな、ミルドルの親友のザックの親族だから気にはなる。
だから調べたんだけどね。」
「…では、ザックのお姉さんとご兄妹がブルーウォーターになんとか入れれば。他の悪者の親戚と縁が切れますわね?」
ふうっ。
「…ザックの弟妹はな。子供だからキューちゃんチェックはすり抜けるだろうが、心底性根が腐ってるぞ。
学校に行けて楽しそうに?してるザックを憎んでいる。ザックを貶めることはなんでもするだろうなア。」
うわあ。
「ザックはなんとかこのまま、学園に留め置いて、無事にエドワードやディックさんの所で騎士になる。
そして実家と縁を切らせる。それしか無いと思うよ。」
うーん。
考え込むエメリン。
「私が想像する最悪のシナリオはですね。ザックのお姉さんが危篤といって彼を呼び出す。
本当か嘘か別として。そのままザックに悪い事をやらせて学園に戻れなくさせる。
……嫌だわ。あんな優秀な生徒を失うのは。
どうにか気の毒なお姉さんを救えませんか?
アンディ様たちの影のおチカラで。」
「エメリン、やだ。アンタ、割と良い人?」
「きいっ!割とは余計ですわよ、カレーヌ様。私は善人なんです。」
「あっ…そう。」
エメリンに飲まれるカレーヌ様。
「ねえ、アンディ。どうにかならないの。ザック君はウチにもバイトに来てたのよ。
ケイトちゃんとアイスを売りに行ったりね。」
あら、そうなのか。
「ああ。海辺でアイス売ってましたねー。」
カレーヌ様。海の家もやってるのか。
「そう。ブルーウォーターが最近合併した海辺の街ね。そこで。」
なるほど。アリサさんのご実家の領地か。
それで海なし国が、海あり国になれたんだものね。
「じゃあさ、死んだ事にしてお姉さんに逃げてもらえば。」
「レイカちゃん?」
「グラッシーのとこに逃げ込んでもらうの。
フェイクで身投げしてもらって。同時にキューちゃんに移動させてもらいなよ。」
我ながら良い考えだと思うけど。
「どうかしら。キューちゃん。私からもお願いするわ。」
エリーフラワー様が頭を下げる。
…キューウ。
不承不承という感じだな。
エリーフラワー様はエドワード様の連れ合いだから、このメンバーの中では1番親しい。
ここにエドワード様かウチの母がいれば一発なんだがな。
キューウウウウウウウウ。
いきなりのキューちゃんの遠吠えだ。
その余韻はいつまでも響き渡る。
これはアレか?ネモさんを呼んでるのか?
キューちゃんの通訳が必要だから?
とりあえずドアを開ける。
キューちゃんのおたけびにチーターが身体をペタンとして震えている。
あっ。他のコテージの動物も震えてるわ。
「ど、とうしたのですか。白狐様?」
目を丸くするエメリン。
シュウウウウ!
滑り込んでくる銀色のシルエット。
「ナニ?パイセン。ヒトをいや、龍を呼ビツケテ。」
絡みにくいギャグを飛ばしてやってきたのは。
「龍太郎君!」
「ソウ。コンニチワ。アレ?カレーヌサン。オメデタかあ。ヨカッタね。」
ああー、彼にもわかるのか。
「予定日は九月十日クライかな。」
すげえ。そこまで。
「デ、ナニ?パイセン。
……ウンウン。ナルホドネ。」
目と目で通じ合う。
これでわかるんだ。キューちゃんとはツーカーの仲だもんなあ。
「エエトネ。ミルドルの友達ナラ、オッカサンもきっとチカラになってと言ウヨネ。仕方ナイナア。
パイセンはね、オイラにもそのザック姉さんの救出劇にも加われト言ってルンダヨ。」
まあ。
「デ、言い出しっぺはエメリンか?ナルホド。
アノネ。今回ハネ、ミルドルが絡むカラ。
オイラ達が大好きなオッカサンの孫ノネ。
ダカラ手を貸スケドサ。特別に。
普段は助けてヤらないカラネ!」
ずいいいっと、エメリンに圧をかける龍太郎君だ。
「ひっひえええ。肝に銘じますぅ。」
龍太郎君の目が赤く光る。
「…パイセンや海竜と違ってネ?オイラは人喰いなんだからナ?
付け上がんナヨ?
アンマリ慣れ慣れシクシタラ食っチマウゾ。」
ガウ。
エメリンに向かって威嚇する龍太郎君。
うーん、レプトンさんのことでいい感情をあまり持って無いんだな。
「うううーん。」
ばたんきゅー!
エメリンは打っ倒れた。
「あら!しっかり!」
エリーフラワー様が駆け寄る。
「龍の字、脅かすんじゃないよ。食ったのはリュウジの転生体だけだろ?」
アンちゃんがエリーフラワー様に手を貸して、エメリンをソファに横たえながらため息をつく。
「マアネ。ソレデメリイに会えたからヨカッタけどさ。」
「ごめん、龍太郎君。グラッシーのとこに身投げして死んだフリさせようって言い出したのは私なの。」
一応言っておかねばなるまい。
「え?ソウナノ?レイカサン。」
龍太郎君が目をパチクリさせた。
「ナンダ。じゃイイヤ。何でもイッテ?」
「龍の字!オマエってやつは現金なヤツだな!」
「ソリャ、レイカサンには世話になってるモン。
転生仲間ダシ。」
ぐるん!と飛び回る龍太郎君だよ。
すまん、エメリン。打っ倒れ損だったね。
「サア、打ち合わせをシヨウカ。海竜はレイカさんの言うことナラ、何でも聞くヨ。」
「あら、そう?安心だわ。
ねえ、龍太郎君、今度食べたいもの作ってあげるから。
協力してね。何がいい?」
「ウヒョウ!アノネ。年末でしょ。年越しソバ!
それから大福!アンコたっぷりで。
…アッ、数の子もイイ?」
「うーん、龍太郎君。ソバはこの世界でまだ見た事ないのよ。」
「エッ。そうなの。ショボン。」
肩を落とす龍太郎君だ。江戸っ子だもんなあ。
ソバ大好きなんでぇ!濃いめのつゆにチョイとつけてな、ずずっとたぐりてえぜ、チクショウ!ってとこかな。
「ソバが…あるとしたら、マナカ国だわね。」
「アー、ソウカ。アキ姫さまに聞いてミルカ。」
「後はダイシ商会に聞くか。」
「ウン。サードサンを通じて聞いてミル。と言うか会いにイクカナ。」
龍太郎君が自らダン様に聞けば何よりも、優先されるだろう。
それにアンちゃんも連れていけば効果は倍増かもね?
横目でアンちゃんをみたら、顔をそらされた。
もう。
「あと数の子かあ。ニシン取れたっけ。
うん?二月に子持ちになるから今年は無理かもね。
タラコなら。モルドール領の名物よ。いくらでも。
お餅はOKよ。」
「ソウカ。ジャア、タラコとお餅を沢山チョーダイ。」
「キューちゃんにはフルーツを沢山あげましてよ。」
「ウフフ。ウチはアップルパイを焼きますわ。」
エリーフラワー様と、カレーヌ様も声をそろえる。
「ザックさんのお姉さんはウチで働いて貰えばいいわ。子供の世話もこれから必要だし。」
カレーヌ様は聖母のように微笑むのだった。
「熱中時代。」
すっかり「相棒」の印象が強い水谷豊ですが、以前は熱血先生でしたよね。
その後は熱血刑事。
ミッキーマッケンジーの「ティケェシィー」(たけし)が忘れられません。




