十二月二十五日。
怒涛の一夜が明けた。
「ナルホドなあ。炭坑節カア。チェッ。オレも、踊りたかったナ。デモ江戸っ子ナラ東京音頭カナ。
ヨイ♬ヨイ♬」
そう言ってるのは龍太郎君だ。
確かに。手足があるものね。
おお、手をふってヨイヨイしてるぞ。
可愛いかも。
ここはウチのレストランだ。メリイさんやハイド君と一緒に来ている。
そしてエリーフラワー様ご一家も。
昨日のあの後の報告会なのだ。
みんなでティータイムをする昼下がり。
(お疲れ様のお茶会をするからいらっしゃい。とアンちゃんが呼んだらしい。なかなか気配りの元オネエさまだ。)
「あの後、レプトンさんを龍太郎に乗せて逃したんですよ。もちろんオレもつきそってね。」
疲れきった顔をしているのはハイド君。
今日のカツラはガラカメの速水真○様だ。
うん、普通で落ち着く。
「レプトン兄は自室に閉じこもって震えて出てこないそうですわ。リード様側近のお仕事もあるのに。」
メリイさんが言えば、
「ほほほ。大丈夫よ。リード様は今日も王妃様とご一緒でお幸せいっぱいなんですもの。気にしてらっしゃらないわ。」
エリーフラワー様が笑いとばされる。
「しかし。エメリン先生はまだレプトンさんに未練があったのですな!」
エドワード様が腕組みをする。
「今エメリン先生は?」
「うーん、オー・ギンやグリーン婆の報告によると自宅にいるみたいヨ。学園も冬休みだから、そのまま待機かなあ。」
アンちゃんが伸びをしながら言う。
「え?今どこに住んでるの?」
「学校関係者の寮ができてますの。
独身寮ですけどね、
先生や事務員や、給食室のスタッフや養護室のスタッフなんかも希望すれば入れますのよ。」
エリーフラワー様が得意気に説明して下さる。
「へえ。近すぎて遅刻するパターンか。」
アンちゃんが、皮肉な笑みを浮かべた。
それ、ありがち。
で、いっけなーい、遅刻、遅刻♡になるわけね。
「こもってるというか、クノイチの婆さんが付きっきりで見張ったり、説教してると聞いてますわよ。」
エリーフラワー様がチラリとアンちゃんを見る。
「グリーン婆はパティさんが独立したから暇なんですヨ。」
アンちゃんが目を閉じる。
そうなのか。
「今はね、パティさんは病院の事務をしてるんだと。住み込みで。
そこは従業員の子供を預かる保育室があるんだって。
エリーフラワー様の系列の病院でね。
そのうち薬を扱う資格を取るために頑張ってるようだ。
とことんコチラの手を借りたくないみたいだよ。
ま、いいんじゃね?向こうがその気なら。」
アンちゃんが薄く笑う。
「あら、じゃ総合病院の方ね?母と子の病院ではなくて。そっちではお見かけしなかったもの。」
エリーフラワー様が考え込む。
「お母様が亡くなったから、医療に興味を持ったのだと思うわ。自分でもできることがあったのではないか、と。」
なるほど。切ない話だ。
「いや、グリーンでなくて、ブルー婆さんが来てるでござるよ。砂漠の娘達の世話はもうしなくていいでござるからな。」
「ああ!カレーヌ様のところにしか、もう砂漠の娘さんはいませんものね?
あそこはキチンとしてるし。三婆が出る幕はありませんよ。
あ、ベッキーもいたか。
あの子はセティと結婚したし、彼女も、もう問題はありませんよね。」
ハイド君が頷く。
「ふーん、それでブルー婆さんもグリーン婆さんも暇なのね。」
「そうよ、レイカちゃん。そのうち二人で見張るんじゃないの?」
アンちゃんは面白そうだ。
そこへシンゴくんとラーラさんがみんなにお茶を持ってきた。
「皆様、コーヒーとミニケーキですよ。
カレーヌ様の新作です。
王妃様のリクエストの、サンクスさんケーキといって、年末の24か25に食べるそうなんですって。」
「あら、可愛いチョコケーキね?
そういえば昨日王妃様にも渡されていたわね。」
ミニケーキにはそれぞれ可愛いサンタさん、
いや、サンクスさんが乗っている。
「「クリスマスケーキ!」」
龍太郎君とメリイさんの声がそろう。
「ヤッタ!ハッピーアイスクリームダネ!」
そうだね、龍太郎君。やっとそろったね。
「コチラはサンクスさんで、サンタさんでは無いことになってますよ。」
と私がいえば、
「ウン。宗教上のリユウというヤツってコトだな。」
龍太郎君が頷く。
そうかな?
このサンクスさんは固めのゼリーで出来てる。
マジパンより美味しそうだ。
おや、イチゴを模したゼリーも乗ってるわ。
そうなのよー、私が子供の頃はクリスマスケーキはまだ生のイチゴじゃなくってね、イチゴの形をしたゼリーが乗っていた時代があったの。
あとはキャンディチェリーという、チェリーの砂糖漬けか。
その後クリスマスイチゴと言って、それに合わせてハウス栽培されたものが出回るようになった。
それでクリスマスケーキにイチゴが乗るようになったけどね。
それにさ、生クリームじゃなくてバタークリームが多かったよ。
流通と保存の関係か。またはチョコでコーティングされたケーキ。
このカレーヌ様のケーキみたいにね。
いつから生クリームのケーキが普通になったかな。
現代日本ではスポンジの中にも生のイチゴがサンドされたいたけども、
以前はスポンジとスポンジの間はジャム。アンズジャムなんかが塗られていたものよ。
ブルーウォーターは温暖であるが、さすがに十二月にはイチゴはない。ハウス栽培の話をしてみるか。
「王妃様は年末にケーキを食べたいとおっしゃったのですね。」
メリイさんが頷く。
「気持ちワカルナア。あとフライドチキンダナ!
ナゲットも良イイネ。」
翼あるものである龍太郎君が言うと、何となく微妙な感じはするが。
「子供たちにはチョコレートムースです!
マシュマロのサンクスさんが乗ってますよ!」
「わあい!」
ショコラさんが子供達に配っている。
「ミネルヴァはケーキの方がいいですかな!
ダディと交換するでござるか?」
エドワード様がニコニコして声をかける。
「ううん、おなじの食べます。」
キュー。
そこにスイーツ好きの神獣様が現れた!
「キューちゃん!アナタのは二種類取ってあるわよ!」
母がにこやかに差し出す。
「エエー、オレもムースも食ウ!オッカサンモウナイノ?」
「龍太郎君。そんな事もあろうかと、ホラ!」
「ヤッタネ!」
「フフ、あなた達神獣様が欲しがると思ってデザートは沢山頼んであるのヨ。クッキーもあるから。」
「アリガト、アンディサン!」
そういえば、ハミルトンさんが多量に納品していたな。
「沢山お買い上げありがとうございます〜。
嬉しいっす〜。」
巨体を丸めてペコペコしていたわ。
「あちらも今、この後しばらく臨時休業するみたいよ。
お母様が来てるから。
それで在庫売り切りにも協力したのよ。」
アンちゃんが各種クッキーを並べながら言う。
「ホラ、龍の字。マドレーヌもあるぞ。」
「ワアイ。」
「カレーヌ様!そうか。お母様を引き取れるのですものね!」
良かった。
「ええ、そうね。昨夜は家族三人で楽しく過ごしたらしいわ。」
アンちゃんの表情は優しかった。
「まあ、冷えて来たと思ったら雪だわ!」
母が声をあげる。
「あした雪だるまつくれるかな。」
ミネルヴァちゃんが歓声をあげた。
「雨は夜更け過ぎに雪ニカワルンダヨな!」
「まだ昼だけどね、龍太郎。それより恋人がサンタだったりするんじゃなかった?」
「アー、ソウソウ。懐かしい歌ダヨ。」
そこで真面目な顔をして、
「一度聞いて見タカッタンダけど、王妃様の漫画って完結したの?
ガラカメか、王家の紋○かってくらい続イテタヨね?」
「うん、ヒロインは聖子ちゃん!なシリーズね。
タケール王子とやっと結ばれたわよ。連載25年でね。」
それで懐かしい漫画の話をして盛り上がった。
私としてはコ○ン君のラストを知らずに終わったことがとても残念である。
窓の外には雪がしんしんと降り続いていた。
活動報告にも書きましたが、これからは更新がゆっくりになります。
宜しくお願いします。




