世紀の?結婚式。披露宴編⑥
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サマンサちゃんとマーズさんはお揃いの薄荷色の服を着ている。
お似合いである。
ん?んんん?この素晴らしい光沢は。
「モスマンシルクを染めてる!?」
王妃様もびっくりだ。
「あの高価で貴重なものを。まー惜しげもなく。
流石ネモね。
普通はウェディングドレスにするのがせいぜい。
それでも手に入らないのに。
ブルーウォーターの本気を見たわ。」
深く頷いてらっしゃる。
「それでは、これからキャンドルサービスです!
以前も他の式でも注意しましたけど、蝋燭を湿らせたりしないようにお願いしますよ。
特に、イタズラ盛りの学園の生徒諸君?
交換した蝋燭の代金をいただきますからねッ。
私、子供でも容赦しませんよ。
……エメリン先生?何やろうとしてるんですか?」
ネモさんの声でエメリンのテーブルを見る。
「いかんよっ、先生っ!シャレにならんて!」
私譲りのなんちゃって九州弁で止めるミルドル。
うそやろ?
マジにその赤ワインば、蝋燭の芯にかけるつもりやったとですか。エメリンしゃん。
「アイツ、ガキだなぁ。」
アンちゃんも呆れている。
テヘペロしてごまかすエメリン。
「うーん、確かにロージイ姐さんとは違いますね。」
ディックさんの声は震えている。
笑いを堪えているんだね。
とにかく。ロイヤルな席を皮切りに、キャンドルサービスは無事に終わったのであった。
「それでは、ここで歌を披露していただきましょう!
その前に作詞者の『フィフィ・ヤーン』先生こと、
『エメラーダ・パアル・ダイアーン』様からご挨拶がございます!」
拍手の中、壇上に上がるエメリン。もちろん後ろにシンシンが立つし、
カレーヌ様の前にはイリヤさんやショコラさんが立って警備している。
「えー、本日も晴天なり。この良き日。お招き頂き有難う御座います。
私、詩人の『フィフィ・ヤーン』こと、『エメラーダ』です。
エメリンと呼んでね?」
エッメリーイイン!!
学園の生徒達から声が上がる。
「さあ。みんなは合唱の準備をして?位置について?」
いきなり教師として仕切るエメリン。
「ところで、エメリン先生。代表作、『幸せであるように』ですが、今回は新しいバージョンだそうですね。」
ネモさんが話を振る。
「ええ。そうですの。楽しみにして下さいませ。
それから、先程なんですが、新郎新婦の為に詩を書き下ろしましたの!」
「えっ、それは凄い。」
素で驚くネモさんだ。
「早速朗読致しますわね!えへん!
『今日の良き日に。
新しい道を歩くあなた。
昨日まで1人で草原に立っていたけれど。
風が髪をなぶるのを心地良くも
寂しさを感じていたけれど。
もう今日からは貴男を待つ暖かい家があるの。
今日まで1人で海辺を歩いて、
足元の砂が流れていくのを心細く感じていたけれど。
もう今日からは大きな腕が
貴女を支えてくれるの。
ほら、見てごらん。
街中の小鳥はさえずり祝福の歌を歌っている。
七色の光が二人を包み込む。
色とりどりの花びらが、ひとつひとつ希望の花となる。
泣けるほど美しい未来が。
キャンドルの光のひとつひとつのように
煌めいて。
冬に咲く薔薇のように
凛として美しく。
みんなの祝福の声の中。
歩いていける喜びを。
いつまでも。』
パチパチパチ!
「オホホホ、素晴らしいわ!
引き出物の詩集も楽しみじゃ!
私の詩集にはサインを頼むぞえ!」
大喜びの王妃様。
「ええ、ジーンと来ましたわ!」
涙ぐむアキ姫さま。
そして指揮の為に立ち上がる。
「この詩の後半ってさ。」
アンちゃんが笑ってる。
「式の内容そのまんまじゃね?」
――なるほど!
「それでは!少年合唱団とリード様による【幸せになるように】です!
指揮はアキ姫さまにお願いしております!」
盛大な拍手の中、歌が始まった。
「では、この式の為の特別なバージョン!どうぞ!」
おや。ミルドルもいる。
「横であーあー♪みたいにハモるだけみたいだよ。
つけ焼き刃だけどね、大丈夫。」
アンちゃん、なんでそんなに詳しいんですか。
「ルール、ルンルルル♪」
いきなり飛んできてハミングをする鳥さん達。
飛び入り?
『幸せになるために……僕らは出会った♪
きっと叶える、願いはそれだけ。』
子供達のコーラスが始まった。
そしてリード様も歌う。ソロで。
《ただ、あなたが、
これから幸せであるように。
…私のいのりはただ、それだけ。》
「これは、リード様と子供達の掛け合いの歌だね。
子供達は
『幸せになるために』という歌を歌い、
リード様は
《幸せになるように》という従来の歌を、歌詞を少し変えたものを歌うんだな。
多分、親目線だ。」
だからなんでアンちゃん、そんなに詳しいの。
いつ情報を集めてるの。
『どんなことがあっても、二人なら。
負けない。たとえ…傷ついても。』
ほう。確かに。
これは若い二人への応援歌だ。
子供達の明るく弾けるような歌声で。
《愛しいあなたの笑顔が曇らないように。
誰からも傷つけられないようにー》
リード様の歌声は重厚で艶がある。
式場内に響きわたっていく。
『今日の喜びを忘れない。
幸せになるために。
僕らは生まれてきたんだから。』
子供達のボーイソプラノ。そして声変わりした子のアルト。
透明感があって美しい。
彼らは歌う。誇らしげに。胸を張って。
顔を上げて。
《私は風となり、側に寄り添おう。
降り注ぐ陽のひかりになる。
愛しいあなたが…それに気がつかなくても。》
リード様は目を閉じて情感たっぷりに歌いあげられる。
ああ、これは。
もしかして亡き親の目線なのか。
ご両親を戦火で亡くした、
サマンサちゃんの目に涙が光る。
『僕らはこの世界で
この国でこの場所で出会った。
冷たい雨が降りそそいでも、
きっと僕はキミを守り抜く。
キミの微笑みだけが…僕の幸せ。』
《あなたを苦しめるものから守りたい。
あなたの微笑みだけが ……私の願い。》
歌は続いていく。
会場中に広がって、人々の心を揺らしながら。
『僕らは大地を踏み締める。
ひとつひとつその手で幸せをつかむんだ。
向かい風にも、
月の無い夜も。
手を取り合って進む…♪』
天使達の歌声はひたむきさが感じられて、胸に染み込む。
鳥と一緒に伴奏?みたいに、
ルールルル…とハモるミルドル。
頑張れ!
《風となってあなたの汗を乾かそう。
月のひかりとなってあなたを照らそう。
いのりはあなたを守る盾と、なるだろう。》
リード様との掛け合いも絶好調だ。
《ずっと…ああ…ずっと。
あなたの笑顔だけが》
ここでリード様と順番が逆転する。
『二人は笑顔でいつまでも』
《――――あなたの幸せだけが、、私の願い…》
どこまでも響くビブラート。
最後はリード様が締められた。
ライトが当たって豪奢な金髪が揺らめいている。
このカリスマ性、スター性は生来のモノだ。
嫌になるくらい華になる御方だ。
あれ、涙が溢れている。
リード様の歌は早世した親が子供を見守る歌だ。
子供を持つ親、全ての人の心を打つ。
割れんばかりの拍手が巻き起こる。
「素敵よ!リード!」
王妃様もお喜びだ。
あ。メアリアンさんが手を打っている。
ひとりだけ向きが違う。
天井部分に煌めく光が見える。
そちらに向けてだ。
出席者の中には小さい頃親御さんを亡くした人もいるのだろう。
その御霊が。
リード様のお歌に魅かれて来たのかもしれない。
(サマンサちゃんのご両親は以前、浄化されているからここには居ないだろう。
それも切ない話だ。)
リード様の鎮魂の歌声。
メアリアンさんの浄化。
会場中に清浄な空気が流れる。
「ううっ。なんかさ、長生きして子供達を見守らなきゃって気持ちになったワよ。」
おお、黒い悪魔の目にも涙が。
……本当にそうよ。アンちゃん。




