世紀の?結婚式。披露宴編②
楽団は音楽を奏でる。
チャペルから移動したのか。ご苦労様である。
生の楽団の音は矢張り凄い。
流れる曲は、例の
パパパパーン。
…に似ているクラシカルな曲である。
「いつもメンデルスゾーンのに似てると思うけど。やはり違うのよね。」
王妃様のつぶやきに、
「でもコレも良い曲ですよ。」
「ウチの国から伝わったと聞いておりますわ。やはり転生者絡みでしょうか?」
アキ姫様が考えこむ。
そうだよね、炭坑節は完コピできても、結婚行進曲はうろ覚えでは無理かもしれないな。
さて。スモークの中、出てくる新郎新婦。
「これはドライアイス…ではないわね。」
「母上。多分スノーマンのチカラですよ。」
幻想的でよろしい。おや、モスマンが羽根であおいでいる。そして会場中にスモークを送っているのだ。
鱗粉入りの風がキラキラする効果をつけている。
「UMAを自由自在に操るネモだからこそ、だわねえ。」
「ええ、王妃様。」
そして新郎新婦はひな壇に到着した。
「皆様!先程、神の御前で愛を誓った二人に今いちど盛大な拍手を!」
ネモさんの司会も冴え渡る。
テーブルのグラスにスタッフがスパークリングワインを注いでいく。
「さあ、皆様。グラスをお持ち下さいませ!乾杯の音頭をリード様にお願い致します!」
割れんばかりの拍手の中、美貌の王子様がグラスを持って立ちあがる。
「やあ、みんな。グラスは持ったかい?
未成年はサイダーだよね?
私はね、マーズ君が今日の良き日を迎えて本当に嬉しいんだ。」
そこでマーズさんを見てウインクをなさるリード様。新郎新婦が深々と頭を下げる。
まあ。二人とも顔が赤くなってるわよ。
(ウインクを飛ばしても様になるのは流石である。)
「何しろ彼が十六歳のころから、グランディの王宮にいた時からの付き合いだ。
すぐに母のお気に入りになって名前を賜った。
それだけ優秀ということだからね。
彼の未来は明るい。さぁみんな!マーズ君とその可憐な花嫁サマンサさんに乾杯!」
麗しの王子様の合図で、
「乾杯ー!」
みんなグラスを空けている。
キュー。
おや、キューちゃんが舌なめずりをしてる。
横には空になったアップルシードルの瓶がある。三本もだよ。
また丸呑みして瓶だけ出したんだな。
「すごーい。」
ウチの娘たちに撫でられて満足顔のキューちゃんだ。
「さて、ここで王妃様からお祝いの言葉を頂戴いたします!」
ネモさんの言葉に王妃様がお立ちになる。
もちろん皆さん起立して頭を下げる。
……大丈夫だろうか。もうネタ切れでは。
そりゃ、チャペルにいなかった人も多い。
同じ話を繰り返してもみんな忖度して、
「初めて聞きました!」
「いやぁ、素晴らしい!」
みたいな反応をするだろう。
「オホホホ!皆さんこんにちは。グランディ王国の王妃ルララ・グランディである。
マーズ、サマンサ。おめでとう。」
ははーっ。
更に深く頭を下げる一同。
いきなり高笑いをしてこの場を掌握する王妃様。
「コホン。今日は特別な三つの話をしようぞ。」
あっ、ハイ。
頭を上げるとドヤ顔の王妃様と目があった。
どれだろうか?三つの坂かな。三つの袋かな。
「ここにいるモノ達には特別に先行しての情報解禁じゃ。
三体の神獣の話である。」
なんと。ここでグラッシーの事をお知らせするのか。
「この世界には神獣様がおられる。
まずそこに白狐様。地を支配する御方じゃ。」
キューちゃんにライトがあたる。
くわあああっ、とあくびをする。
「先程空を飛んでいた聖龍様。
空の覇者である。」
そこでは王妃様はみんなを見回す。
「シードラゴン島の海竜伝説を知っておるものもいるであろう。
伝説は本当だったのじゃ。海の王者、海竜様は実在した!」
おおおおっ。どよめく人々。
「そこの飴細工をごらん。良く御姿を再現されておる。」
みんなの視線が集中だ!
「お名前はグラッシーと言われる。勿体なくもグランディ王国のグラン湖におわすのじゃ!
オホホホ!トップシークレットの解禁である。
その姿は横はこの会場のここからここまで。
高さもこの天井ぐらいかのう。
時々お顔を出して下さるそうでな、運が良ければ御姿を拝見することもあるかもしれぬ。
それ以外は海底を自由自在に泳いでらっしゃるとか。」
ざわめく一同。
「これが三つのしもべ…ではなく三つめの神獣についてのお話である。
そのうち詳しくグランディ側から発表されるであろう。
楽しみに待つがよい。
この情報の解禁をお祝いに変えるものとする。
多分、ネモはもちろん、マーズも海竜様とはこれからも絡むであろうからの。
そのうちアランが神殿を建てるという。
近くに温泉もある。みんな揃って、
グランディにいらっしゃーい♪
である。」
往年の桂三枝のギャグみたいな事をいって締めくくられた。
ははーっ。
一同頭を下げる。
…王妃様、うっかり三つのしもべと言っちゃったんですね。
わかります。同世代ですからね。
「すーなーのあー○しーに♫」
横に座って鼻歌混じりに歌ってらっしゃる。
ご機嫌だ。
「まあマーズは神獣のことは知っているけどね。サマンサも聞いていたかも。」
「このタイミングでの発表は良かったと思いますよ、母上。カレーヌの所の神像の飴細工もありますしね。
あれで御姿がわかりますし、あの飴細工のモデルはなんだろう?とみんなが口にしておりました。」
リード様も微笑む。
「さて、次はウエディングケーキの入刀です!
コンドラ本舗さんが立派なケーキを用意して下さいました!」
台車に乗せられた三段重ねのケーキをハミルトンさんが、押してくる。
その後ろにカレーヌ様も立っている。
もう一つ台車があるぞ。ショートケーキが沢山だ。
ウェディングケーキだけではみんな分足りないものね。
「マーズさん、サマンサさん、おめでとう!
ケーキと飴細工はコンドラ本舗からのお祝いでございますわ!」
ごとん。
何の音だろう。
「くくっ。」
アンちゃんが笑ってる。
「エメリンが転んだ音だね。
カレーヌ様を見て思わず立ちあがろうとしたんだけど、次の瞬間、ネモさんのヘビが巻きついたのさ。
「わっ、本当だ。エメリンの両脚がスネちゃまで括られてる。」
シンシンが抱えて椅子に座らせてる。
「カレーヌ様たちが着席するまではあのヘビは振りほどけないだろうなア。」
薄く笑う黒い悪魔。
そして盛大な拍手の中ケーキカットは行われた。
三段重ねのケーキのてっぺんにはクッキーで作られた、新郎新婦が飾られている。
「…おひめたんの、クッキー。ほしい。」
リナちゃんがポツンと言う。
「ハイ、どうぞ。」
まったく同じクッキー。
セロファンに包まれたものを、カレーヌ様がリナちゃんに手渡す。
「僕も。」
マーグさんの息子さんも、手を伸ばす。
確かエディオ君と言ったかな。
「もちろん。ハイ。」
カレーヌ様が、慈母の笑みをたたえ、子供達にクッキーを渡していく。
エリーフラワー様のお子様達にも。
あら、ウチの子とガルドルにも。すみませんねえ。
子供達が欲しがると思ってあらかじめ用意してくれたのね。
バンバンバチバチ!
何の音?
「くくっ。エメリンが陸に上がった魚みたいにうごめいてるのさ。」
アンちゃんが笑う。
カレーヌ様の所に行こうと?エメリン〜!
くくられた足を上下に動かしてるよ。
シンシンが上半身を押さえつけてるよ。
「ほほほ。まるで【スプラッシュ】の映画みたいじゃないの。ぴちぴち跳ねるところがね。」
…人魚ですか。
「もう。仕方ないわね。」
エリーフラワー様が立ち上がり、エメリンの所に行った。
そして二、三言言葉を交わす。
するとエメリンは大人しくなった。
やれやれ。
「何を言ったのかしら。」
「エメリンね、カレーヌ様を見たら勝手に身体が動いたみたいだよ。
ひとこと話がしたいんだってさ。」
そうか。アンちゃんは唇が読めるんだもんな。
「で、エリーフラワー様がね、宴の席でやることじゃない。後で機会を設けるから。
貴女はお歌のお仕事をしなさい。ネモさんに頼みこんで招待してもらったんでしょ。
彼の顔を潰したらヘビに噛まれるわよ!」ってさ。
なるほどね。
ん?というか後日対決?
……ええええ。