ロクなもんじゃねえ!
「王妃様。お茶会へのお誘い光栄でございます。」
綺麗な礼をしてカレーヌ様が入ってきた。
「おほほほ。仕事中だったのに急に誘って悪かったわね?」
「いいえ、嬉しゅうございます。」
ちゃんと呼ばれる予感があったのだろうな。お洒落なワンピースを着てるわ。
「レイカ、久しぶり。」
「本当ね。うちのサマンサの式の為にお菓子の準備をしているんでしょ、ありがとう。」
「ウフフ。いいえ、商売繁盛で嬉しいわ。
もうね、飴細工も出来たのよ。当日のお楽しみにしてて。」
「そう言えば貴女、グランディに最近良く出入りしているようね。」
「ハイ、王妃様。サリーさんと最近仲良くしてますの。
コンドラ本舗の商品をダイシ商会で大々的に売り出そうとコラボ商品を考えております。」
「あら、素敵。どんなの?」
「フフ、レイカ。タヌキさんのクッキーや雑貨なの!あらやだ。私から言ったんじゃないのよ。」
プッ。
王妃様が吹き出された。
「…オホホ!モデルはダンなんでしょ!愉快だわあ!」
「ハイ、王妃様。サリーさんが是非にって。キャラとして売りだしますの。
で、こちらが原案のイラストでございますが、
実はキャラのデザインはサリーさん。彼女は絵心がありますわ。」
パサリ。
カレーヌ様が出した紙には擬人化したタヌキさん。
ああ…見る人が見ればダンさんとわかるわ。
「ホホ。このずり落ちそうなズボンをサスペンダーで引っ張り上げてる感じ!ネクタイが腹に乗ってるところとか。オホホ!
それにこのデカくて二重のタレ目ときたら!フフ。
流石に娘が描いただけのことはある!忖度なし!」
大笑いで喜んでらっしゃる。
「全身像はグッズ展開で。クッキーは顔だけになるかもですけど。」
「うむ?こちらのイラストはなあに?
タヌキが胸に抱えてるのはクロヒョウのぬいぐるみなの?何故そんなものを大事そうに持っているのじゃ?」
王妃様は首を傾げて考えておられる。
……うわっ。なんか背中に悪寒が走る。
嫌な予感。
とっても目つきの悪いクロヒョウだ。これってさあ。
「……これもサリーさんがデザインしたけど。気がついちゃった?レイカ?」
ニヤニヤするカレーヌ様。
「……やっぱりアンちゃんなの?アンちゃんをモデルにしたクロヒョウなの?」
「そう!サリーさんが是非に!って。是非タヌキに持たせたいって!
このデザインを見せたダン様は『ウヒョウ!』といって喜んだわよ!」
ヒョウだけにウヒョウかい。
ウホッじゃなくて良かったよ。
ウチは、ぶった倒れそうですばい。
「……まああ!」
王妃様の目はイキイキと輝き、口元を扇子でわざとらしく覆われた。
「ラブ!なの?ねええ?ダンはアンディにラブなのねえええ!」
お願い、やめて。王妃様。いくら恋バナがお好きでも。無理矢理バラの花を咲かせんといて下さい。
アンちゃんが泣きます。
「王妃様、拙者もちょっとアンディ殿が気の毒でごわすよ。カレーヌ様。ボツになりませんかな?」
真顔で言うエドワード様。やはり貴方はこの世の良心ですよ。
はっ、と冷静になる二人。
「そうよね、ふざけ過ぎだわ。このキャラは使わない方向で。
アンディが切れたら怖いもん。」
……カレーヌ様。
アンちゃんが貴女にキレることは無いと思いますが、そのかわりダンさんがナマスになるかもしれません。
「ご歓談中失礼します。エリーフラワー様がお越しです。」
ショコラさんがエリーフラワー様を連れて来た。
うん、後ろの猫カフェでキューちゃんにアイスやヨーグルトをあげる母の姿が見える。
おお、尻尾をあんなに振って。目を細めて喜んでる。
あら。ランやアスカやガルドルがいるわ。尻尾で遊んでもらってるのか。
いい光景である。
「王妃様。お目にかかれて光栄でございますわ。
皆様お揃いでございますね。」
エリーフラワー様がお辞儀をして入ってくる。
「ああ、エリーフラワーさん。良く来てくれたわね。忙しいのに、ごめんなさい。」
「いいえ、神獣様のことでしょう?是非お話を伺いたくて。」
「神獣?」
キョトンとするカレーヌ様。
そこにカレーヌ様が持ってきた、青いゼリーが並べられた。
うん、ソーダ味だね。
「そう!これが食べたくて。
カレーヌ、こんな色の湖に住む神獣様の話なの。
そのうちみんなに知られるとは思うけど、一応他言無用ね?」
王妃様の発言に緊張が走る。
「えっ。新顔なのですか?第三の神獣?」
「ええ、カレーヌ。貴女もダイシ商会に出入りしてるのなら、シードラゴン島の王子達の話を聞いたことあるでしょ?」
「ええ。恥知らずにもサリーさんに求婚した話ですわね。」
カレーヌ様の眉間にシワがよる。
何それ!
「……私もその話は聞いてるわ。
マナカ国のマキ様に求婚して断られた。
ルルド国のマルル姫に、例のルルゥの姉妹でね、まだ十二歳よ。
その子に求婚して断られた。
それから風の便りに聞くとメンドン国にも行ったとか。
そこには未婚の姫が三人いるけどね、みんなに総当たりでプロポーズ。
その節操の無さと、あちらはホラ…美少年好みだから。それで撃沈よ。」
……ああー、あの腐女子の王妃様のお国か。
アゴ割れ王子はお好みではなかろう。
「それで裕福な商人の娘にまで粉をかけてるんですのね。まだサリー様は未婚。どうとでもなるとでも?
ふーん。ふざけてますわね。」
エリーフラワー様も怒っている。
まったくもって許せん。
アゴ割れ王子め。
「ええ、流石に王家の影が介入したの。セピアとヤマシロよ。
そしたらあの王子はすごすごと引き下がったらしいの。
グランディの他の豪商の家の娘にも声をかけていたらしくって、アランも怒っているの。
王子一行に見張りをつけているわ。」
流石、王妃様。お詳しい。
「そういえばアゴ割れ王子、失礼。
シードラゴンの王子は何と言うお名前なのですか?」
ニヤリと笑う王妃様。
「ロッキー・ロック・シードラゴンと言うの。
シードラゴンが家名。
ロクなもんじゃない、と覚えればいいわよ。」
なるほどね?
そのままずばりの、長渕剛の曲を思い出しました。