ハートブレイク、会場は満員。
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拍手の中マーズさんからネモさんに導かれて、フィフィ先生が舞台中央にくる。
「皆様、ご存知の方も多いと思いますが、作家であり、詩人であり、初等科の先生であられる、エメラーダ・パアル・ダイヤーン先生こと、ペンネーム、フィフィ・ヤーン先生です。」
「こんにちは。皆様。エメリンと呼んでくださいね。」
エメリーン!
初等科の子供達から声がかかる。
拍手の中、頭を下げられるエメリン先生だ。
笑うと可愛い。毒々しい化粧だけど。
まあ、まだ17かそこらのお嬢さんだからな。ん?もう18かな?
満面の笑みで会場の子供達に手を振っているようだ。
前後左右に満遍なく。結構来ているんだな。
「今からリード様には二曲歌っていただきます。
フィフィ先生の作詞とか。」
「ええ、【ブルーウォーター・ゴージャス校の校歌】と、
そして【幸せであるように】でございますの。」
「【幸せであるように】は以前、結婚式でお聞きしました。胸を打たれましたよ。」
にこやかに紹介するネモさん。
「ありがとうございます、歌詞の内容は愛する人に幸せになってほしい、と言うものですから。
皆様に気に入っていただけたら嬉しいですわ。
…ふふ、失恋した時に作った歌詞なのですけど、
私は今でも彼に幸せになって欲しい、と願っておりますの。
――最近、どこにいらっしゃるか。顔も見ることも出来なくなってしまいましたが。」
「そ、そうでしたか。」
ネモさんの顔が引き攣ってきた。
レプトンさんにまだ未練たっぷりなのか?そうなのか?
「きっとこの会場のどこかに、いらっしゃると思うんですけど。」
メガネに手をそえて会場を見回す。フィフィ先生。
わあああ!と湧く会場。妙に盛り上がっているぞ!
知っている人はその相手がレプトンさんだと知っている。
みんなまわりを見回している。
焦るネモさん。
「で、では!リード様。よろしくお願いします。
それから校歌ですから、さっきの少年合唱団にも歌っていただきましょうね。」
そこにさっきの少年合唱団が入ってきた。
「では、フィフィ先生ありが「レプトンさーーん!
どこにいらっしゃるのーー!私はずっとあなたを愛してますわー!」
ネモさんの声を遮り叫ぶフィフィ先生。
わー!
盛り上がる会場。青くなるネモさん。
その時、
ガタン!ザザザー!
舞台の袖の方で何かが落ちて倒れ込む音がした。
オー・ギンさん達や、グリーン婆さんが立ちあがる。
音の方を見て、フィフィ先生は、
ニタリ。
満面の笑みを浮かべた。
そして指差した。
「みいいいいーーつーーけーたー!」
赤い口びるが大きな弧を描く。
目は爛々と輝いている。
怖いよよぅ。
クノイチ達がフィフィ先生を抱え込むようにしながら逆方向に退出させる。
「ちょっ、待って!離して。」
「フィフィ先生、ありがとうございました!
さあ!みなさん!少年合唱団に拍手をどうぞ!」
ネモさんが大きな声を出して仕切る。
拍手の音にかき消されながらも、私の耳には、
「きゃあああ…」
というレプトンさんの悲鳴が聞こえた。
「大丈夫、今、龍太郎とハイドも行ったワヨ。
フィフィ先生を抑えるのと、レプトンさんを逃すのにね。」
アンちゃんがいつのまにか私の隣に座っていた。
汗をタオルで拭っている。
ほう、お着替えは済んでいるのね。早ーい。
「アンちゃん、お疲れ様。良かったよ。」
「おとさん!良かった!」
「パパかっこいい!」
娘達に寄ってこられてご機嫌のアンちゃんだ。
アスカを膝に抱き上げる。
私はランを抱っこする。
さっきまで母が抱いてたからね。交代だ。
「ま、付け焼き刃だけどなんとかなったでショ。」
「アンディさん、凄いわね。」母もうっとりだ。
ミルドルは奥を気にしている。
あー、フィフィ先生が気になるのか。
「先生には好きな男がいたのか。」
しゅんとしている。
「ミルドル、まあ気にするなと言っても気にするだろうが、元気出しなさい。」
慰める父。
「そうよう、初恋は実らないと言うじゃない?」
さりげなく傷を抉る母。ひどいぞ!
「ううっ。おばあちゃん、そんなあ。」
落ち込むミルドル。
「まあなア。先生とは歳が6個も違うだろ。彼女が今まで好きな人やお付き合いした人が居ないと思うのは、失礼だろ。」
「アンディ様。そうですよね。あんな素敵な先生ですからね。モテモテでしょうしね。」
「……子供達には慕われている人気者だよ。それに才能に溢れている。
どっちにしろ、生半可な気持ちじゃ付き合えないかもな。
ま、気を落とすな。」
「……マーズ様が心が折れないといいよね、なんておっしゃってくださったのはこのことなんですね。」
ちょっと違う、違うけど。まあ、良い。
マーズ様は彼女が破天荒で、レプトンさんへのストーカー行為を行なってたことを言ってたのだと思う。
「これで進学するのが嫌になったなんて言うなよ?
学園には他に、可愛い同じ年頃の女の子がいるさ。」
おお、アンちゃんが慰めてくれている。
「はい、アンディ様。元々学園には立派な騎士になろうと思って通いたかったのですから。」
ミルドルは手をぎゅっ、と握り締めていた。
「ああ、だけど。ぶつかって倒れこんできたフィフィ先生の柔らかい胸の感触が忘れられなくて。
パン○ラも。」
そして、手で顔を覆うミルドル。
スパコーン!
アンちゃんが叩いた。
「やめろ、エロガキ。ご婦人方の前なんだぞっ!」
……やっぱりラッキースケベだったのかい!
タイトルは、ハートブレイクホテルは満員という、春やすこ、けいこの歌です。




