追われて、飛び出てジャ・ジャ・ジャ・ジャーン。
誤字報告ありがとうございます。
その日の夜。
アンちゃんが帰ってきた。あら、肩に龍太郎君を乗せてるよ。
エリーフラワー様はもう帰ってしまわれてる。
惜しい。引き留めておくべきだったか。
母と出迎えた。
「お帰りなさい。2人ともじゃなくて、1人と1神獣様。お疲れ様。」
「はあい。ただいまア。」
アンちゃんがううんと伸びをする。
その際も龍太郎君は離れません。背中に回り込んで、また肩に乗る。なんか懐いていて可愛いぞ。
「あのネ、海竜がね、グラン湖に現れたワよ。」
アンちゃんが微苦笑を浮かべる。
「えっ。」
ウソから出たマコトっていうか?
グラン湖から出たらフォトジェニックって言ったよね、私。
「それはとてもフォトジェニック!」
「 ? …海底のトンネルがね、途中枝分かれしててそのひとつがグラン湖に繋がっていたのヨ。」
「……それって。富士の風穴の穴が江ノ島に繋がってる的な?」
「ハハハハハハ!ソウソウ!伝説は本当ダッタって感じダヨね。
フォトジェニックモイイネ。」
(多分インスタ映えと言ったら流石の龍太郎君にも伝わってなかったろう。)
大笑いする龍太郎君。
「アレカラ、オイラとパイセンはシードラゴン島に行ったサ。
マア、圧を掛けたンダヨ。オキテンノワカッテル、出てコーイってね。
そしたらアイツビビっちゃって。モグラ叩きミタイにさ、シードラゴン島の湖から顔を出シタリ、引っ込めタリしてね。
チョットダケパイセンと話したのはイイけど、直ぐにモグッテ洞窟カラ海の中に逃げたカラ、海の上を飛んで追いかけタンダ。
ソシタラマタ、洞窟に入ったりシテサ。」
龍太郎君は羽をひろげて飛ぶ。そして母の肩に乗った。
「オッカサン。オイラ疲れたチャッタ。肩タタキシテ?」
「アラ。よしよし。凝っちゃったの。ウロコ硬いから麺棒で叩くってどう?」
「うん、サンキュー!」
「すみません、お義母さん。
龍の字がどうしてもお義母さんに肩をほぐして欲しいって聞かなかったんですよ。」
アンちゃんが肩をすくめる。
ああ、多分半分は甘えてるんだな。
あっ、本当に麺棒を持ってきたよ、うちの母は。
椅子にとまって少し大きくなる龍太郎君。
ビシバシ!
「うわ。坐禅の警策みたい。」
「ココネ、ココ!」
身体をずらして凝ってるところに棒を誘導してる。
「ウウン!キクキク!
お肩をタタキましょー、御縁側には日がいっぱい♬
タントンタントン♬とクラァ。」
また懐かしい歌を。
目を細めて至福の時を過ごす龍太郎君だ。
「それで海竜様はグラン湖に住むの?」
「どうカナ?しばらくはイルカモネ。ホント、ネッシーミタイだったヨ。湖カラ顔出したトキ。」
わあ。見たーい!!
キューちゃんはまだ島にいて、今は姿は消しているけれどその気配にビビって海竜様は島に帰れないのだと言う。
「パイセンがね、島に着イタラいきなりラピスの神殿を破壊シタンダヨ。」
「ええっ。乱暴じゃない?」
「と言ウカその神殿はハリボテだったノサ。」
「 ? 」
「ツマリネ…」
龍太郎君の説明はこうである。
元々はラピスラズリの切り出した石をそのまま柱に使ったり、タイル状にしたものを貼っていたんだって。
だけど資源の枯渇により神殿を壊してラピスラズリを切り売りしたんだと。
で、新しい神殿をたてた。
他の石で。青く塗って誤魔化したんだと。
「パイセンは許セナカッタミタイなんだ。
神殿は壊したのに王宮はソノマンマダッタカラ。普通は逆ダロウ。王宮を壊してからソレデモ足りないナラ、神殿ダロウッテ。」
あーなるほど。
「外ダケ青くて中は白カッタ。ハリボテだよナア。
舞台の背景ミタイデネ。」
「あー、うん。」
「海竜の奴モ、流石ニガックリシテタヨ。湖の近くに神殿はアッテ、パイセンが壊シタ瓦礫ガ良くミエタノサ。
【オマエ、千年も顔出ししないから舐められるんだ。我らと違ってずっと人間と関わってきてたのに。この結果がこれか。】って白狐のパイセンの言葉に、
【アッハイ。】ってレイカサン見たいに言ッテタヨ。
モチロン、神獣同士の心話デネ。ソノアトもパイセンが説教ヲしようとシタラ、逃げチャッタノ。」
なんか気の毒になってきた海竜様だ。
「ネエ、龍太郎ちゃん。キューちゃんは何をそんなに説教する事があるの?」
「オッカサン。実はネ。島の民ハ海竜の、宝に依存シテテ、あんまり働いて無かったノサ。
ソレデトウトウ資源が無クナッタカラ、粗悪品のブレスレットを作って売り捌イタ。」
「なるほどナア。そのブレスレットのとばっちりがこっちまできたもんな。キューちゃんが怒りのあまり浄化したけど。」
アンちゃんも腕組みをして同意した。
「まあ。怠け者になったの。それはいけないわね。それで島の守り神様は島民達を懲らしめる為に家出したの?」
「ウーーン。ちょっとチガウけど。
パイセンが怖カッタノモアルヨ。」
「お気に入りのエルメ王子を見捨てたから?」
アンちゃんが強張った顔で言う。
「ソウダネ。パイセンにはワカッテタンダ。海竜の奴が見捨てタノハ、人間の寿命に干渉スルナという建前バカリジャナクテ、エルメ王子には白狐が付いてくる。
自分の縄張りを侵されたく無カッタンダと。」
「へえ。結局それで島の半分を吹き飛ばされたんなら、世話ねえな。」
アンちゃんが吐き捨てた。
「それで海竜様はキューちゃんが怖いし、頭があがらないのね。
グランディにいるとして危険はないの?」
龍太郎君が私の顔を覗きこむ。
そしてニヤリとした。
「多分ネ。大人しくシテルンジャナイカナ、
フフ、ワカッテルヨ、レイカサン。」
あら。バレちゃったかな。
「湖から顔出す海竜が見タインダロ?」
「うん!だって、ネッシー!クッシー!イッシーだよねっ。」
「アハハハハ!イイネ!ソレ。」
龍太郎君は高らかに笑った。
タイトルはハクション大魔王ですね。
あと、肩タタキの歌は亡き母が良く歌ってました。
縁側でね。
龍太郎君が自分の事をオイラ呼びするのはリラックスしてる時です。