美しき天然、の竜よ。
エリーフラワー様は考え込まれている。ブツブツとつぶやきながら。
「うーん、キューちゃんを呼びだして事の次第を聞くのが早いかしら。エドワードに頼む?それともレイカさんのお母様が早い?
言葉の件があるから龍太郎君のほうが。メリイさんに頼んで…でも彼女妊婦だから動かせないか。
私があちらに行って…うーん。」
そしてテーブルをトントンと軽く指で叩く。
これは考え事をするときの彼女の癖だ。独り言も。
常人ではわからないスピードでぐるぐると思考が回っていて、ぽいっと結果を出す。
私はそれを静かに見てるだけである。
アンちゃんは時々彼女の思考について行けるのだが。
(ここにはいないが、エドワード様も私と同じタイプでボケッとしてらっしゃる。
「エリーフラワーは頭が回るなあ、すごいでごわす。」
と、ニコニコと頷くのだ。)
嗚呼、先の先まで読める人達は素晴らしい。
私には無理だなあ。脳が煮えそうである。
ゆっくりとコーヒーを飲んで見守る。
ぼーっと頭に浮かぶのは湖から顔を出すネッシーじゃなくて海竜様。
芦ノ湖みたいなところから顔を出すのを想像する。
でもなあ、霧の摩周湖もいいぞ。
行ったことはないがオンネトー湖が頭に浮かぶ。
いや、蔵王のお釜なんかもイメージかな。
「うーん、青い湖水から顔を出すのってフォトジェニック。この辺だったらグランディのグラン湖かしら。」
グランディ王国のグラン湖。
ふざけてる?って感じの簡単なネーミングだが、そう言う湖があるのだ。
割とブルーウォーターの近くの海沿いの街にあって、近くに温泉も沸いている。身近な観光地として人気です。
やはり火山湖らしい。龍太郎君が住んでいたデカい火山の、過去の火山活動でできたという。
富士五湖のようなものである。
別府の地獄温泉、海地獄みたいに青い。
「え?グラン湖?」
エリーフラワー様がキョトンとする。
「あ、ごめんなさい。口に出てたのね。いやこの辺の湖だったらどこから現れてたら絵になるかなぁって。
だって海岸から上陸は出来ないわよね、ゴジラみたいに。
首長竜なら足はヒレだと思うし…なんて考えてたの。」
「ゴジラとかヒレとかフォトジェニックはわからないけれど、確かにグラン湖は綺麗なところよね。」
サマンサちゃんにエリーフラワー様におかわりのコーヒーを持って来てもらう。
「ありがとう。……ねえ、レイカさん。いま二大神獣はどうしてるのかしら。
昨日から音沙汰なしなんでしょ。
ネモさんのところには連絡あるのかしら。」
「さア。」
チラリとサマンサちゃんを見る。
「ねえ、サマンサちゃん。マーズさんに今日会った?何か言ってた?」
「レイカさん。」
あら、サマンサちゃんの眉間にシワが。
「昨日から突発的な事があって忙しいと。」
ああ、やはり。ネモさんから何か聞いてるんだな。
「今朝、ハンゾーさんと二人でグランディに行ったらしいんです。出かける前にこっちに寄ってくれたので少し会いました。バターや生クリームを届けてくれたのです。」
うわあ、マメなことだ。
「そうなの。グランディに。そこでアンちゃんと合流かな。」
「うーん。そこまでは。ただ鳥たちがうるさいと言ってました。昨日から龍太郎君が海の上を飛び回っているみたいなんです。
それで水鳥が怯えてるとか。」
エリーフラワー様の目が輝く。
「あらあ。求めていた答えがここに。
つまり昨日から龍太郎君が海竜様を追いかけまわしてるってことね!」
なるほど!
「そうなのかな?ネモさんに頼まれて様子を見に行くそうなんですよ。グランディの海岸に行ったらイルカとかの話も聞けるかもって。シャチはちょっと怖いなあって言ってました。」
ああ、そうね。シャチは美しいけど怖いかも。
「鴨シーのショー懐かしいわ…。」
「?カモシーって何ですか?」
何でもないのよ、おほほほ。
「ふうん、じゃキューちゃんは島に行ったきりかしら。そこに居座っていて、戻れなくて逃げまどってるわけね。」
エリーフラワー様はウンウンと細かく頷いている。
ちょっと可哀想かも。カイリューいや、海竜様。
(ミ○リューのルックスのほうが私のイメージに合うな。)
「龍太郎君のパワーならすぐに決着が着くでしょう。明日あたりには帰ってくるのではないかしら。」
おほほ、と笑ったあと少し真顔になって、
「あまり海岸近くで追いかけっこをされると高波になるかも知れないわねえ。被害が出ると行けないから。
長引くようだったら、メリイさんに呼びかけてもらって呼び戻してもらわなくっちゃ。
彼女とは心で繋がっているのでしょう?」
と言った。
「メリイさんみたいにその王子様が海竜様と心の底から繋がると厄介だわね。
メリイさんは善良だけど、アゴ割れ王子は善良かどうか疑問が残るわ。粗悪品のブレスレットを売り捌くくらいだもの。
いくら資源が無くなったからといっての苦肉の策とはいえ。」
エリーフラワー様は頭を抱えるのだった。
「大丈夫ですよ、多分。」
「 ? 」
「だってメリイさんと龍太郎君は前世からの恋人同士。普通の結びつきじゃないですからね。
そのアゴ割れ王子と海竜様との間に恋情があるとは思えません。」
性別、種族別はともかく会ったこともないだろうし。
エリーフラワー様は目を見開いた。そして私の手を取った。
「そうよね!レイカさん!
私たら考えすぎるきらいがあるの。」
うん、それはある。でもそれも貴女の良いところです。
エリーフラワー様。
オンネトー湖は行こうとしたけど時間がありませんでした。
別府の地獄巡りは割と好きです。三回ぐらい行ったかな。
タイトルは良くサーカスで流れてた奴ですね。哀愁あるメロディでした。