歌姫誕生。
「さて、これから彼らが歌うのは、喜びの歌です。」
おお、定番である。年末である。
こないだ王妃様がリード様にメリイさんの結婚式で歌わせたやつだ。
「はーれたーるー♫あおぞらー」
いいね、いいね。少年達の伸びやかな歌声が響きわたる。
少年特有のサラサラとした髪はライトで煌めき、澄んだ目は輝く。
見ていて心も洗われるよ、中身おばちゃんだし。
「次はふるさとです。」
「うーさぎおーいしー♬」
おや、これか。王妃様がこれも教えたのね。
「うさぎが美味しいのね。」
やはり勘違いしたか。母よ。
面倒なので、
「うん。そうだね。うさぎの肉はクセはないし粘度多いよね。」
と答えておいた。
昭和の頃、ハムやソーセージの繋ぎに良く使われていたよ。
プレスハムのパッケージに原材料の一部にうさぎと書いてあったときの驚愕。
うっわー、知らずに食べてた。とね。
……
ま、曲のことではなく、母に聞かれてうさぎの説明をしただけである。
とにかく透き通る天使の歌声は、私達の耳と心に響いた。
「次はマナカ国の歌姫、アキ様に再び登場していただきましょう!」
おっと、アキ様早着替えだ。さっきのパステルピンクのワンピから、白ワンピに着替えてらっしゃる。
ヘアスタイルはそのままだね。
「うちの国に昔から伝わる歌なのです。
歌詞の意味はわからないところがありますが、面白いのです。
記録によると三百年くらい前からはあるようです。」
静かに伴奏が流れ始めた。
「さーけーはアー飲め飲めー飲むなーらーばー♫」
はい!?
思わず後ろを見る。
王妃様とメリイさんと龍太郎君も目を見開いている。
「くっ、黒だ、、?(ぶし)」
「え?レイカ義母さん?黒?うちのシンゴか、アンディさんがどうか?」
ラーラさんが私を見る。
黒き狼はシンゴくんで黒い悪魔はアンちゃんの別名である。
ち、違うのだ。黒は黒でも黒田節!
扇子を持っての振り付けもある。ノリノリである。
そして、曲は続くが途中で変化した。
「めでた、めーでーたーのー♫わかっまーつ♫さーまーよー」
と続く。
何故くっつけた?と思いながらも、
「葉もしげーる♫」
思わず続きを口ずさむ私。
王妃様を見ると目が合う。
そして頷く。
きっとマナカ国に何百年前に転生日本人がいたのだ。
多分、高確率で福岡のお人であっただろう。
これは博多祝い歌だ。
(山形の山笠音頭も若松様だけどちょっと違うんだ。)
櫛田神社のお祭りのときにきゅうりを食べないタイプであろう。
山笠があるけん、博多たい。である。
青竹割ってへこにかく。である。
(ばってん、ラーメン。)
白いワンピースをひるがえし、足を踏みしめて。
民謡を高らかにチカラ強く歌う他国の姫。
みんな釘付けである。素晴らしい声量である。
ビブラートも効いている。こぶしか?こぶしがまわっているのか?
おお、手拍子もきいている。
いちど曲が終わってそのあとは、
「はあーー!月がでーたーでーた、月がでーたー!
ヨイヨイ!」
なんと!炭鉱節である。
福岡人確定である。
マナカ国の転生者はもう戻れない九州の地を思いだして歌ったのだろう。
三百年程前に。そしてお座敷歌として残っていたのかも知れない。切ない話だ。
サノヨイヨイ♪
度肝を抜かれたうちに終了した。
おや?上で王妃様とアアシュラ様がお話しされているようだ。
歌の由来を話しているのだろう。
王妃様は歌に造詣深い。
「さて!次は前回大好評だった、黒きダンサー、アンディ様のダンスです!そのしなやかな黒豹のようなダンスをご覧ください!」
うわあ。黒きダンサー!なんだか恥ずかしいぞ!
黒豹か。黒木豹介を思いだしたな。
前世の夫が好きで私もわりと読んだ。
ジャンジャジャカジャーン!
お馴染みのフレーズと共に飛び出してくるアンちゃん。あんなタキシードみたいな服でよく踊れるものだ。
おお、凄いジャンプ力じゃないか!
なんという回転数か。以前より沢山まわっております。
キャッ○のミス○フェリーズみたいだな。
「おとさん!」
「パパ!」
ウチの娘たちの歓声が聞こえたのか、口元だけで笑った。
最前列という事は汗が飛びちるのも良く見える。
あっ、あの振りはオペラ座の怪人の中でも、マスカレードのようだ。
王妃様に振り付け師が色々アドバイスをもらったと聞いている。
それにしてもマスクをつけて視界が悪かろうに。
凄いなあ。
闇に潜むファントムの悲哀はアンちゃんと通じるものがある。上手く表現してるなと思う。
アンちゃんは小柄である。
だから物影のあちこちに潜むのもお手のものである。
(小さい頃栄養状態が悪かったから背が伸びなかった、と言っていた。)
童顔なので学校に潜んで、アラン様の警護をするのにもちょうど良かったのだと。
ほんとに、平和な日本でならば素晴らしいダンサーや、フィギュアスケートの選手や、騎手なんかで名を挙げたに違いない。
うむ、見てるとワクワクするダンスだ。
おお、あの重心の移動。ムーンウォークじゃないか。
本人プライベートで時々踊っていたりするから、ダンスは好きなんだろうね。
そして一瞬、舞台の灯りが消えて、次に点いた時はいなかった。
良い演出である。
パチパチパチ!
溢れる拍手。
一段と大きな拍手がロイヤルボックスの方で聞こえる。
アラン様の前で頭を下げているアンちゃんだ。
いつのまに移動したんだ。
「アンディ!凄いぞ!」
感極まったアラン様の声が聞こえる。
「アラン様♡このダンスはアラン様に捧げました!」
…仲良きことは美しきことである。
「さあ!次はリード様の登場ですが、その前に、
【幸せであるように】の作詞者のフィフィ・ヤーン先生をご紹介しましょう!
どうぞ!」
ネモさんの言葉でエメリンことフィフィ・ヤーン先生が壇上にあがった。
エスコートしているのはマーズさんだ。
「先生!」「フィフィ先生!」
客席から子供たちの歓声が飛ぶ。
授業の評判はとても良いと聞いていた。
人気があるって本当なんだね。
博多んもんは横道もん、青竹割ってへこにかく、ばってん、ラーメン。というフレーズでしたね。
うまか○○ゃんだと思ってましたが、はかたんもんラーメンでしたか。もう製造されてないようですけど、鮎川さんや小柳ルミ子さんのCMが印象的でした。




