夜を越えてきたのさ。流星の早さで。
誤字報告ありがとうございます。訂正しました。
そのまま、なごやかに夜はふけてご機嫌のリード様につれられて王妃様はお帰りになった。
さあ、みんなでお片付けだ、の前にお食事である。
「王妃様のお墨付きが付いたワね。ガルドルには良かったじゃない。」
アンちゃんが伸びをする。
「ええ。よかった。」
マーズさんも肩から力を抜く。
「汗だくじゃないの。大変だったね、ま、一杯。」
アンちゃんがビールを注いでやる。
「ありがとうございます…ああ、美味い。」
そこに母やショコラさんが残った料理やまかないを運んでくる。
沢山の天ぷらやら、サラダ。ポテト。あらおにぎりなんかも作ってたのね。
食堂の若い忍びたちも揃って打ち上げ?だ。
「シンゴ、ラーラを連れて帰りな。ミルドルにもなんか食べ物を持って帰ってあげて。」
「はい、失礼します。アンディ様。」
母と父は泊まりだろう。
「子供達はポテトでお腹いっぱいになって寝たよ。たまにはいいか。」
ランド兄が奥から出てきた。
着替えてリラックスしてる。
「ねえ、マーズさん。シャワー貸そうか?」
アンちゃんが見かねて声をかける。
「オレの服よりランド義兄さんのが合うだろ。貸してもらいなよ。」
(お忘れでしょうが、アンちゃんは小柄です。背が低いんだよ。)
「良いんですか!」
晴れやかな顔になるマーズさん。
「ふふん、再来週の式が終われば縁戚になるじゃないの。」
「そうだねえ、じゃ、こっちに。」
「どうもすみません!ランドさん!」
ランド兄もメアリアンさんもここに泊まることがあるから着替えは置いてあるのである。
「王妃様とリード様相手じゃねえ。平気なのはレイカちゃんぐらいよ。」
「そうかな。アンちゃんだって大丈夫でしょ。」
「あはは!」
アンちゃんは笑い飛ばして、
「とんでもない。」
真顔になった。
「王妃様はね、とても激しいお人なの。リード様はそりゃお優しいけども、王族の中ではね。
レイカちゃんは王妃様のお気に入りだからリード様にも一目置かれてるのよ。」
アンちゃんはゆっくりとワインを飲んでいる。
「ええ。そうかな。エリーフラワー様だってあの二人には臆してないんじゃない。」
……逆にリード様は怯えている。
「まあなア。あの御方はな。アラン様にも王様にも負けていないからなあ。」
アンちゃんは苦笑した。
「エドワードはあの通り真っ直ぐな奴だ。キューちゃんにも好かれている。
ミネルヴァちゃんだって恐ろしいくらいの才女だし、エドガー王子様との仲も良い。ま、この国は安泰だ。」
そして眠り猫の彫り物を見るアンちゃんだ。
「良いよね、コレ。アジがあってさ。黒シロの猫ちゃんだね。ウフフ。」
よっぽど気にいったんだな。
さて、ポテトの残りをいただくか。
リード様にお出ししたから新しい油で揚げている。
綺麗な油だと味が違うよね。雑味がなくて。
うん、美味しい。
「アンちゃん、ツマミに食べないの、これ。」
と振り返ったら、
「……。」
寝てるよこの人。眠り猫を抱きながら。
あらら。気にいったんだねえ。
しばらく寝かしておくか。最悪マッチョなマーズさんとハンゾーくんにでも運んでもらおう。
ああ、いた。
マーズさんはシャワーを浴びて来たんだな。
さっぱりした姿でサマンサさんやウチの父母と歓談中だ。
彼は酔ってもスネちゃまやミノちゃんが運んでくれるだろう。とりあえず心配はない。
ふんふん、カボチャの天ぷらもいいね。というかカボチャの煮付けも美味しいや。鰹出汁を効かせたんだよ。
美味しく1人で食べていると、視線を感じた。
横を見た。
いつのまにかアンちゃんが無表情に目だけを見開いている。その手は眠り猫を抱えたままだ。
「…わ?わわっ?起きたの?」
「……セピアが来る。」
えっ。本当?
「足音でわかる。」
猫は寝ていても耳をぴくぴくさせて警戒してることがある。アンちゃんもそうなんだな。
心底気が抜けるってことはあまりないのか。
ちょっと不憫になる。
「……アンディ様。夜分失礼致します。」
本当にセピア君がドアを開けて顔を出した。
ピン!と他の忍びの人達の間に緊張が走る。
「…どうした?グランディから来たのか?早かったな。」
「ええ、取り急ぎお知らせをと。
…先程パティさんが亡くなりました。」
久保田利伸さんの「流星のサドル」から。




