だって小さいからまだ美貌がわからなくて、王子様を選べないんだね、ランちゃんってか。
誤字報告ありがとうございます
木彫りの素晴らしい作品の数々だ。
「王妃様、ありがとうございます。クマさんと龍太郎君とお猿さん。新居に運ばせていただきます。」
「重いであろう。スケカク。ロンド、手伝ってやるのじゃ。」
「ははっ。」
「いえ、王妃様。」
シュルッ。
マーズさんの手元からシロヘビが顔を出す。
「私にはスネちゃま達と彼等がおります。」
ガチャ。
ドアを開けて入ったきたのは、
「オヨビでござまずか。マーズ様。ごにちわ。レイカだん。ザマンザだん。」
「あら、ミノちゃん。」
ミノタウルスがスノーマンと入ってきた。
「そうか。そなたはUMA使いであったの。」
「はい。みんな頼むよ。スネちゃまたちは紐代わりに巻きついてね。」
ガラガラガラ。
「デハ、失礼ジマス。」
台車を押して出ていくチカラ自慢達。
「見事なものじゃの。」
「いえ、兄には遠く及びませんが。」
照れているマーズさん。
「うむ、ネモの娘もそのチカラを受け継いでいると聞く。」
さっきからマーズさん相手にお仕事バージョンの口調の王妃様だ。あら、目が光った。
「は。」
あ、マーズさんからまた滝の様な汗が。
「母上。うちのフロルにネモ公のところのリナちゃんをお考えなのですか?
それはネモ公に直接言いませんと。」
流石にリード様がため息をついて助け船を出した。
あら、そんな話が持ち上がってきてるのね。
「ねえ、レイカ。ランちゃんはフロルに興味なさそうでしょ?」
「ええと。まだ二歳児ですし、わかりませんが。どうですかね。」
うう、私の背中からも汗が滴り落ちる。
「そうだよね。ランちゃん達は自分で結婚相手を選べるのだからね。
だけど、まだ小さいからわからないだろうけども、
きっと大きくなったら、ランちゃんもウチの美しいフロルにメロメロになってしまうよ。ね、レイカさん。」
「そうかも知れません。」
リード様。相変わらず溢れる自信をお持ちである。
「だってこれから、ヴィーにそっくりになってくるかも知れないしね。キミの血筋ならうっとりだよね。」
「あ、あるかもしれません!」
あのヴィヴィアンナ様そっくりの王子様。
うむ、素敵には違いない。
いやいや!だけども!男装の麗人だからこそ、ってんのもある。うーん。
「レイカちゃん?何か変な百面相になってるワよ。」
アンちゃん。黙れ。
「まあ、レイカ。頭を抱えちゃって。ごめんなさいねえ。つい色々考えてしまうのよ。
でも政略ならネモの所のリナちゃんはちょうどいいわね。」
「まあそうですね。」
流石にそのような結婚をしてこられた王族。
考え方が違うなあ。
「でもフロルは今はランちゃんのことがお気に入りです。
あまりリナちゃんと会ってないですからね。ネモ公が大事にしまい込んでるでしょう?
ま、美少年になったフロルをみたら、リナちゃんもランちゃんも夢中になってしまうだろうから。ははは。あの子がどちらを選ぶにしても大丈夫ですよ。母上。」
「そうね!おほほほ。リード、貴方達の子供ですもの。
今でも目が潰れるくらい可愛いわ。」
確かにそれは同意いたします。二人の王子様の美貌と言ったら、いにしえの絵画の天使像そのものである。
それにリード様もお美しいから女性に断られた経験が無いのだものね。常に選ぶ立場からの発言だ。
そこへ、アンちゃんが奥からポテトを持ってきた。
「リード様。どうぞ。」
「おお、美味しそうだ。」
「王妃様、ところで何を召し上がりますか?
すぐにカボチャのポタージュはお出しできますよ。」
「ありがとう!レイカ。こちらでお夕食にするわ。リード、今日は貴方のところに泊まるわね。」
「はい!母上!」
ぱあっと明るい声になるリード様。
「では、ポテトに合いますから、ビールをお出ししましょう。リード様。お屋敷にはご連絡を入れますね。」
「頼むよ、アンディ。」
「私にはスパークリングワインをね?」
「はい。あとはカボチャづくしでどうですか?
カボチャとベーコンのグラタン。それに煮付けもできますよ。」
「ああ!良いわ!その和風と洋風のごちゃ混ぜ感が!
旅館の夕飯っぽいわよ!」
「ではあとはサラダをお出しして。天ぷらの盛り合わせもいかがですか。」
「良いわね!カボチャの天ぷら。だいこんおろしもたっぷりとね!ささみの天ぷらとかできる?」
「はい、大丈夫です。ではメインは天ぷらですね。ササミ、椎茸、にんじん、さつまいもとカボチャ。」
「それでお願い。私のグラタンはミニサイズでね。」
「了解しました。」
「では、私は中に入りますから。マーズさん達、ご一緒にどうぞ。」
「え、はい。御相伴に預かります。」
「ほほほ。さア、恋バナを。」
引き攣っているマーズさん達を残してキッチンに入った。
「まずポタージュを温めて。四人分だして。残ったらみんなで飲んでいいから。」
「オッス、姉さん。」
「キミ達はサラダの盛り付けね。」
「ハイ、了解っす。」
「それからカボチャの煮付けは私がやるから。天ぷらの下ごしらえとグラタンの下ごしらえを……」
と言ってるうちに裏口から母が入って来た。
「手伝うわ。」
「助かるわ、お母さん。お父さんと子供達は?」
「自宅部分にいるわよ。」
とりあえず出来たものからどんどん出す。
「レイカさん。悪いがポテト追加を頼めるかい?」
「ハイ、リード様。」
本当にお好きだな。
「ところでメアリアンはいるかしら。」
「ハイ、事務所に兄とおりますが。」
王妃様は薄く笑って、
「養子を私に紹介してもらおうと思ってね。」
とおっしゃった。
あー、ガルドル君を見たいのですね。
「うん、レイカさんのお子さん達も一緒に顔を出すといい。子供もポテトが好きだろ?」
パチン!
ウインクをかますリード様だ。私には効きませんよ。
あら?サマンサちゃんと母が顔を赤らめている。
ポテトがあがると同時に、メアリアンさん夫婦が子供達を連れてきた。
「ご無沙汰しております。」
綺麗な礼をするメアリアンさん。
隣で騎士としての構えで控えるランド兄。
そういえばこの兄は元々グランディの第三騎士団だったな。
「おお、久しぶりじゃの。」
「やあ、ランちゃん。アスカちゃん。元気そうだね。また今度、うちのエドガーやフロルと遊んでね。」
「あい。」「おうじたまとあそぶ。」
「ううーん、可愛いなあっ。」
優しく微笑むリード様だ。慈愛に満ちた表情にあたりに光が満ちるようだ。土地神の加護か。
「さて、そなたたちの養子を私に紹介してくれるかの。」
「はい、王妃様。」
兄は震えて使い物にならない。メアリアンさんに任せよう。
「ご縁があってこの子を家族として迎え入れましたの。ガルドル・ナイトと申します。」
「ほう。守護者の様な名前じゃの。
ねえ、レイカ。ガードとか、ガーディアンとか、ガーゴイルとか連想しちゃうわね。ナイトも騎士でしょ。」
前半はメアリアンさん、後半は私にである。
「そうですね。」
「そうか、ガルドルとやら。良く学び、良く鍛えてメアリアンを守るのじゃぞ。」
「はい。」
頭を下げるガルドル君。
そして王妃様は彼の頭を撫でた。
「シンディをこうやって撫でたのも、まだ昨日の事のようなのに。」
ポツンと呟かれる。
アンちゃんが唇を噛み締めたのが見えた。
「……ガルドル、そなた色々辛い事があったのじゃな。
もう安心じゃよ。この両親はな、決してオマエを傷つけない。」
頭を撫でつづける王妃様。
「……。」
ガルドル君が声を出さずに泣いている。
子供なのに。
ああ、この子は。
家では殴られて、保育所ではオヤツを取られ、どこでも安心出来なかったんだ。
きっと声を立てて泣いたら、またイラついて殴られたのだろう。パティさんの男に。
それでこの子はウチの子より大人びているんだ。
「もう泣くな。ホラ、お菓子をやろう。」
王妃様が袖口から小さい包みを出して、渡す。
「ああ、母上の金平糖だ。」
リード様は頷く。
アンちゃんの目は見開いている。
「この子はランドとメアリアンの子じゃ。私がそう認める。みんな、良いな。」
「ははっ。」
みんな頭を下げて同意したのだった。
童謡の「さっちゃん」ですね。




