疾風(ハヤテ)のごとく。走り去る。
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それから父に抱っこをせがむガルドル君だった。
「え、そうなの?じいちゃんの方が良いんかい。」
ニコニコしてガルドル君を抱き上げる父。
「あー、良かった。」
兄が自分の肩を叩きながら言う。肩凝りか。
脱力した子供は重い。
その発言は父が受け入れてくれたことか、重さからの解放か。
「そうか、じいちゃんとその辺散歩するかあ。」
「うん。」
「ランド、書類の不備なところはメモを挟んでおいたから。」
「あ、はい。」
そのまんま外に出て行く2人。
一同ポカンである。
「もう。仕方ないわね、私が説明がてら付いていくわ。」
母も外に出る。
「多分…保育所のおじいちゃん先生に似てるからだと思いますわ。」
リーリエさんがつぶやく。
「ウチの子が悪さをしたらバシンとお尻ペンして叱ってくれる頼もしい先生です。……オヤツを取ったときとか。
みんなに優しくて公平で。」
ふーん、なるほどね。
「さあ、じゃあリーリエはしばらくブルーウォーターで待機だ。子供と向き合ってやれ。ミミさんとも話しあってな。」
「…はい。」
リーリエさんは顔を強張らせたが、息子さんに会えるのは嬉しいのだろう。
瞬く間に走り去った。
「それからセピアはグランディに行ってアラン様の指示を受けるように。」
「はい。あ、それからアンディ様。ネモ様から国境病院の院長を見張れと言われました。」
アンちゃんの顔が真顔になる。
「例の病院か。」
「はい、着服しない様にと。」
「そうか。」
「じゃあ、レイカ姉さん。失礼しますよ。」
「ええ、またね。セピア君。」
あっちこっちに飛び回って忙しいことだ。
またグランディに行くのかあ。
そしてセピア君はショコラさんの前で立ち止まった。
「リーリエはわかってないよなあ。俺なんかしょっちゅうあちこち行ってて、音信不通になっちゃうから恋人に振られっぱなしと言うのに。
自分だけ大変と思いこんでスネてさ。
……というわけでショコラさん。今度デートしましょう。」
「何が、というわけなのよ。
だいたい振られるのはさ、それはアンタが浮気性だからでしょ。」
ショコラさんがネコカフェのネコのトイレの掃除をしながら軽くいなす。
「いやいや?そんなことも無いですよ。
最近は振られて誰も居ないんですよ?綺麗なモンです。
で、ね?仕事を理解してくれる同じ忍びの人がやっぱり良いんですよ。ねえ、一度デートしましょう。
もちろん奢るし、良い店知ってるっすよ、俺。」
「あー、もう。うるさい。」
ショコラさんの眉間のシワが深くなる。
今は床掃除にうつっている。
箒で床を掃いているショコラさんの後ろに、ピッタリとくっついて声をかけている。
「やっぱり良いよね。そのうんざりした顔も。
冷たくされてもたまらないなあ。」
「アンタ、物好き。」
にこにこにこ。
ショコラさんに睨まれても嬉しそうなセピア君だ。
うん、そう言う性癖なのかな。
「ホラ、セピア君。絡まないの。ショコラさんは仕事中なんだし。」
仕方ないから私が口を出す。
「はい、ごめんなさい。レイカさん。では私はコレにて失礼つかまつりまする。」
芝居ががった大袈裟なお辞儀をして、スッと疾風の様に走り去るセピア君。
「フン、カッコつけて全力で走り抜けるからまたホコリが立ったじゃないの。」
ため息をついて掃除を続けるショコラさん。
「ちょっと。」
アンちゃんを見ると面白そうな顔をしてるぞ。
グイグイ。
押して奥に連れて行く。
「え、何かしら、レイカちゃん。」
「何で黙ってたの。あの場合はアンちゃんが止めなきゃ、セピア君を。」
上司でありセピア君が心酔するアンちゃんが止めれば引くはずだ。
アンちゃんが私をチラリと横目で見る。
「…ううん、そうねぇ。だけどね、割とセピアはショコラに本気なのヨ。俺が見た感じね。」
「えっ。」
「ま、俺の前でも堂々と口説くところは買うね。それにショコラも本気で嫌ならもっと怒るワよ。」
へえええ。そうなのか?男女の仲はわからないなあ。
「ま、どうなるかわからないから、放っておくに限るわ。」
欠伸を噛み殺すアンちゃんだ。
「……嫌ですよ、あんな調子が良い根無し草。
それにね私ではあの男の心の大きな穴は埋められませんよ。」
ショコラさんは大きなため息を付いていた。
「疾風のごとく。」はあまり読んだことはないですね。
「疾風のように」なら、ザブン○ルですねえ。




