見守る掟(おきて)。明日は晴れるかな。
誤字報告ありがとうございます。
何とも言えない気持ちで病院の外に出ると、
「レイカ姉さん!」
声をかけられた。
男女二人組が走ってくる。
「あら、リーリエさんにセピア君。」
「アンディ様から皆様の護衛を申し付けられました。」
「もちろん、ネモ様と神獣様がいらっしゃるから大丈夫とは思いますけれども、俺らがグランディに居るのはアンディ様、知ってるんで。」
「サリー様とサード様に付き添ってこちらに来ましたけど。あちらの一件も落ち着きそうなんですよ。」
ネモさんが腕を組む。
「うん、二人のご婚約がめでたく整いそうなんだね。聞いているよ。」
「また、おしゃべりスズメですか?」
「いや。今度はスネちゃまから。あちこちに私のスネちゃまがいるからね。天井裏に潜んでるんだ。ネズミを食べたりして役に立ってるんだよ。そしてね、リレー方式で私の手元のスネちゃまに教えてくれるんだよ。」
……それはもう諜報員要らず。だけど。
「え。スネちゃまって喋るんですか?」
そうよ、それを聞きたかったの!ランド兄さん!
「え、伝わらないかな?彼等の言いたいこと。じっと目を見たり、身振りで。あと、直接触ったら頭にコトバが響いてこないかい?」
「いいえ。ヘビさんのコトバはわからないですわ。」
言い切るメアリアンさん。
「ネモ様。貴方まだ人間ですの?」
メアリアンさん、それは貴女にも言えますよ。
でも、ブルーウォーターの人達を助けてくれるなら、神でも化け物でも人間でも構いませんよ。
――細かいことは気にしない私だった。
「ところで、ランドさん。その子供は、シンディの子では?」
リーリエさんが恐る恐る聞く。
「うん、パティさんが病気でね。だから私たち夫婦が引き取る事にしたんだよ。」
「えっ。」
目を丸くするのはセピア君だ。
「そうだ!リーリエさん!」
ランド兄がじっとリーリエさんを見据える。
「は、はい?」
「これから僕達の子供になるんだ。ガルドルと改名もしたんだよ。だからね?うちの子をイジメないでね?
キミの息子さん。オヤツをこの子から取り上げてたんだって?」
リーリエさんの顔色は、みるみる悪くなった。
「え、その。」
「あらら、リーリエさん。シンディ憎しで我が子の狼藉を止めて無かったんだろうけどね。良く無かったね〜」
セピア君がニヤニヤしている。
「ランドさんはメアリアンさんの叙勲によってナイト家になられた。だけどモルドール一族には変わりないからね。」
ギュウウウ。
キューちゃんが唸る。
「あ、神獣様。」
リーリエさんへの牽制か。
「ごめんなさい、気をつけますから。確かに彼女とは色々確執があって揉めたこともありました、実の母親と暮らす彼女が羨ましかったことも事実ですし。」
リーリエさんの声と足が震えている。
キューちゃんの怒りを買う事をおそれているのだ。
キューちゃんがウチの母にすごく懐いていることはみんな知っている。ランド兄が母に泣きついたらどうなるか。
神獣はお気に入りにはとても優しいのだ。
「……もう、パティさんのお母様も亡くなったじゃないの。それに貴女には義理の母というか育ててくれたミミ様もいるでしょう。」
メアリアンさんがため息を吐く。
「ええ。それに色んな事をさせられるクノイチの仕事より、病院の事務仕事で働く彼女の事が羨ましかったのも事実。
私と違ってずっと子供の近くにいられてましたし。」
確かにリーリエさんはずっとグランディに潜伏していた。
「先日ね、息子とサーカスを見たのは本当に楽しかったのです。リード様やアンディ様、アラン様のお気遣いで。」
ネモさんは頷く。
「キミは仕事はちゃんとやっていたからね。みんな評価してるんだ。だから人を羨むのをやめなさい。
人を羨んだってね、その人の幸せがキミの所に来るわけではないんだよ。
別に幸せというのは絶対数が決まってるわけじゃない。他の人が幸せだからって、キミの幸せを取ったわけじゃない。」
リーリエさんが顔を上げてネモさんを見る。
ネモさんの目は薄荷色に煌めいていて、
気のせいか周りに赤いオーラが揺らめいている気もするよ。
「そうだろ?幸せはパンケーキやピザじゃない。
他人が取らなかったからってキミの物になる訳じゃないんだから。」
「……。」
ネモさんの言葉はリーリエさんの心の底に刺さったようだ。
その通りだ。だけれども、他人の幸せを妬む人間は多いんだ。自分だけが不幸と思って、他人の幸せが許せない人が。
「そうだよね、ランド君。」
「え、はい。当たり前じゃないですか。そんなの。」
ランド兄はポカンとしている。
「ハハハ。やはりキミは善良なんだね。」
「人が良いとは言われますけども。ネモ様に褒められるとテレますねえ。」
ああ、兄は本当に善い人だ。
「それであの、パティさんはここでしばらく療養するのですか?」
セピア君が顔色を悪くして聞く。
「うん、まあ。もう、彼女は長く無いだろうね。」
「えっ、そこまでですか。」
リーリエさんも驚く。
「さっきこの病院をキューちゃんの光が覆った。気がついたかい?」
「いいえ。」
「そうか。それでキューちゃんが彼女に罰を下したのさ。子供を蔑ろにするものを彼は許さない。」
「そんな。」
「リーリエさん、もう彼女には会えないと思うよ。最後にレイカさんやランドさんに会えて嬉しかったと思う。」
ネモさんはしばらく俯いていたが顔をあげて、
「そうだ、セピアくん。」
「はい。」
「ここの院長がね、必要以上にパティさんのお金を使い込まないように今度様子を見にきてクギを刺してくれるかな?
少しでも多く、ご両親のお金はガルドル君に渡してあげたい。」
「はっ。」
そしてネモさんは口調をがらりと変えて明るく言った。
「では、リード様の所に行きましょう。何しろシンディの子をモルドール一族に入れるし、メアリアンさんの養子になるんだ。
リード様にも話を通さなくては。うん、親権放棄の書類もある。
さあ、善は急げです。キューちゃん。運んでくれるかい?」
本当にネモさんは切り替えと仕事が早い。
みんなでブルーウォーターに帰って来た。
マルモのおきて。子役の2人も大きくなりましたね。




