瞼の母。
誤字報告ありがとうございます。
蒼き光は広がる。四方八方に。
「綺麗だわ。」とメアリアンさんが言い、
「うん。本当に。」とランド兄が同意する。
「まったく。身体が軽くなるわ。肩凝りも取れて。スカッと爽やか。○カ・コーラって感じ。」
「レイカさん、何言ってるかわからないけど。みなさん流石ですね。キューちゃんの光に動じない。」
ネモさんが薄荷色の目を煌めかせる。
そりゃあね。母の家なんかキューちゃんの結界が張ってありますからね。いつものことです。
「うう。すみません。お金は預かっただけです。ネコババじゃ無いんですよう。」
おや。院長先生が泣いている。
「パティさんの彼氏が死んだ後に残っていたお金、パティさんのでしょう?だから入院費を引いたら返すつもりでっ。ちゃんと金庫に!そんな水増し請求なんかするつもりは……あああー。」
あらまあ。院長先生の頭がつるっぱげに。
水増し請求するつもりだったんですねえ。
ネモさんが肩をすくめる。
「これくらいで済んで良かったじゃないですか。未遂だったからかな。」
……そうね。
そしてパティさんの病室へ。
「……。」
一同無言である。
多分今、彼女は罰を受けた。
髪の色が真っ白になっている。身体もシワシワだ。
キューちゃんは子供をいじめるものを許さない。
「私が霊視したのと同じですわね。」
眉間にシワをよせるメアリアンさん。
「レイカさん、声をかけてあげて下さい。」
えっ、私ですか?
「貴女に一番心を開いていたからですよ。」
「……もしもし?パティさん?起きて。私、レイカ。」
我ながら電話みたいな呼びかけだなぁ。と、苦笑する。
薄く目が開く。
「……ああ、レイカさん。さっき、格好よかった。」
「うん?」
「ウフフ、さっきシンディに向かって『死ねや、ドクズ。』って言ってくれたでしょ。
ふふ、スッとした。」
ランド兄とメアリアンさんが目を合わせる。
「夢の話?」
……ああ、これは。昔のことを夢に見てたんだ。
私が取り憑かれたように王妃様の鉄扇でシンディを打ち据えた時の。
偽物のルビーの指輪をパティさんに渡したあの時のシンディを。
(続 グランディ王国物語の「曇りガラスの向こうは。風の街かもね。」に詳しいよ。143話です。)
「そう、それから。シロヘビをシンディに噛み付かせてくれて。」
おや。と言う顔をするネモさんだ。
「そしてミノタウルスまで呼んで。アイツを締め上げて……くれましたね。ふふ。アンディ様まで怯えてた。愉快、愉快。」
「はは、そうだったわね。」
「……貴女は神がかってたわ。」
実際、あのときはシンディを恨む女性達の念に取り憑かれてたな。足元から怒りのオーラがたちのぼってた。
「レイカさん。」
ガシッ。
私の手を掴むパティさん。
「……ああ、私の息子はどうなるのでしょうか。」
そしてハラハラと涙を流す。
「ここにいるよ。」
「ランド……さん?」
パティさんの目に光が灯る。
そうか。この人は、昔ランド兄さんが好きだったんだ。
「僕が引き取るよ。僕ら夫婦には子供がいないんだ。いいかい?」
横になったままのパティさんの目から涙が滴り落ちる。
「……ありがとう……ございます。アンディ様のところに行かないのなら、嬉しいです。」
……アンちゃん、とことん嫌われてるなあ!
「ガルディ……」
パティさんが手を伸ばす。ランド兄さんが彼女の隣にガルディくんを寝せる。
「何でか起きないんだ。神獣様のチカラだと思うけどさ、」
そして兄は彼の服をめくる。
「でも、今の光のおかげで傷が治ったよ、ホラ。」
パティさんの目が見開かれる。
「……良かった。」
そうか。この人は知っていたのだな。それで粛正を受けたのだ。気が重くなる。
「彼と付き合うようになってから、シンディの事が、シンディに似ているガルディが忌まわしくなりました。」
「……それで置いて出て行ったの?」
「はい。だけど、結界に弾かれて、彼が消えました。
そして私も青い光に包まれたとき、彼への執着、シンディへの怒りそんなものも消えました。」
「その男は洗脳に長けていたんだよ。他にも情婦が何人もいてね。君はその1人で金蔓だっただけだよ。」
ネモさんにしては辛辣だ。怒っている。
「今、ネモ様の身体の周りに赤い炎の揺らぎが見えますわ。土地神の意思です。」
メアリアンさんがポツリと言う。
――そうか。もうパティさんはダメなのか。
更に重い石を飲み込んだ気持ちになるよ。
「…じゃ、この書類にサインを。出来るかな。
ランドさん、彼女を起こしてあげてくれ。」
ネモさんが胸から書類を出す。
「私も手伝うわ、兄さん。」
「……ふふふ、貴女たち兄妹は温かいのね。」
パティさんの身体は軽かった。
「親権を放棄するのは構いません。ただ、名前を変えてあげて下さい。」
「えっ。」
ネモさんの目が煌めく。
「シンディの血族だと言う名前を捨てさせたいんだね。うん、いいんじゃないか。
私だってエレン・レッドの名前はとっくに捨てた。」
そしてガルディ君の背中をポンポンと撫でる。
「やはり目を覚さない。キューちゃんの意思か。キミの痩せ衰えた姿を見せたくないようだ。
元気で溌剌としたお母さんの面影だけを残してあげたいんだね。」
ぐすん。
泣いてるのは、ランド兄さんだ。
「わかったよ、ガンドとかガルドは?我がモルドールの男子はだいたい名前の最後までにドがつくんだ!それでどう?」
ネモさんが微笑む。
「はは、ランドさんらしい。それで良いかも。」
「ねえ、メアリアンさんもそう思う?」
「ランドさん。それも良いですけと、ミルドル君みたいに、ガルドルというのも良いかもですよ。」
なるほどねえ。
「……では、ガルドルで。巫女姫様の選んで下さった名前が良いですわ。」
薄く微笑んでパティさんは書類にサインをした。
「では手続きをしておくよ。お大事に。」
ネモさんに促されて病室を出た。最後までガルドルくんは目を覚さなかった。
私が生きている彼女を見たのはこれが最後となった。
二日程更新をお休みします。皆様。良い夏休みを。
追記
エッセイのカテゴリーの
「関西・大阪万博行ってきた。三泊四日で。」
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