幸せってなんだっけ。なんだっけ。トランポリンやネコ缶のことかしら。
次の日、早朝。
シンゴ君とセピア君と、ディックさんはマナカ国に旅だった。
シンゴ君は私と母に、
「ラーラを、くれぐれもお願いします。お義母さん、お義祖母さん。」
頭を深く下げる。その目は赤い。うむ。妊婦を置いていくのは心配なんだな。
「シンゴ。シャキッとせい!」
バシン!アンちゃんが喝を入れる。
「はい、アンディ様。」
「ほら、ツッチーは付いてるな?神獣の加護の指輪は持ってるな?」
「はい!」
そしてセピア君に向き直って、
「コレを持っていけ。龍太郎のウロコだ。昨日頼んだら快くくれたぞ。」
「…これは見事な!ありがとうございます。」
大感激のセピア君だ。袋にいれて首から下げる。
もちろん、アンちゃんに頼まれて、頼んだのは我が母である。
「ねえ、お願いがあるんだけど。ほーらホラホラ。背中掻いてあげるから。ほっぺたもグリグリしてあげる。なんかね、マナカ国に行くお仕事が大変そうなんだって。それでね……」
母は龍太郎君を、両手で掻きながらのおねだりだ。
「ウン、イイヨ。アアン!キクキクゥ!」
あっさりしたモノである。
驚きのあまり顎を外しそうになっているアアシュラ様が見えた。
うん、幻を見たとでも思っていてください。
みんなが出て行った後。
「まああ。ラーラさん、ね、おめでたなの?」
母が満面の笑みで聞く。
「ハイ、そうみたいなんです。まだ悪阻も無いですけど。」
メアリアンさんが来た。
「ふふふ。光が見えましたのよ。多分男の子。あまり悪阻がない体質かもしれませんね。来年の六月くらいに産まれるかしら。」
「あら。ウチのランやアスカと同じ六月産まれね。」
「そうねえ。四歳違いになるカシラ。」
アンちゃんが腕組みをする。
「シンゴはランちゃんや、アスカちゃんの護衛にするって言ってました。」
ラーラさんが眉尻を下げる。
「気が早いワね。アイツならそう言いそうだけど、子供本人にまかせることよね。」
アンちゃんはランやアスカをあやしながら言う。
「キミたちは大きくなったら何になりたいのかな?」
アンちゃんの問いに、
「うーんとね、レストランやる。あのね、美味しい物いっぱい作るの!」
「あたちも。」
即答である。
「そうかあ。じゃア良い場所を見つけておかないとな。 」
うわあい。速攻物件を押さえそうだよ。
「そうだ、これからお父さんとトランポリンに乗って遊ぼうか?」
「うん。」「あそぶ。」
ポーン、ポーン、クルックルッ。
しかし遊びの範疇を超えている、華麗なトランポリンでのジャンプを繰り出す親娘。
「キャハハ。」「そーれい。」
凄い。やはりダンサーとかさあ。そっちが良いんじゃ?
たまにはこういうほのぼのした日もいいなあ。
最近、濃くて重い出来事が多かったからね。
「ランもアスカも可愛いわね。」
母もニコニコである。
「レイカさん。缶詰が届きましたよ。」
ショコラさんが声をかけてきた。
「あ、キャットフードの試作品かあ。」
なるほど。缶切りで開けなくっちゃ。
ん?そうだ。今度、パッ缶?簡単に開けるタイプをエリーフラワー様に打診してみるか。
「おお、喜んでる。」
猫好きのアンちゃんが目を細めている。
猫ちゃん達の食いつきがいいぞ。
「ハイドさんがとても、尽力してくださったらしいのよ。サンドが言ってたわ。」
母が言う。
「塩分控えめにして、白身魚と一緒に野菜スープで煮て、ゼラチンで閉じてくれたみたい。」
「ふうん、人間も食えそうですね。」
アンちゃんも感心している。
「龍の字にお礼として送るか。」
やめてえ。尊き神獣様ですよ。
「もう。ちゃんとしたカニ缶をウチから送らせます。
クルミも追加でね。」
母が呆れている。
「うん、早速、ネコカフェのオヤツとして売り出すわ。最初は半額キャンペーンにしてね。」
私の言葉にみんな頷くのだった。
そこそこお高いですしね。
そして次の日から。
マナカ国の洒落にならない話が届き始めるのだった。
あーあ。
「ポン酢醤油」のコマーシャルですね。
さんちゃんの。




