もう一度めぐり会えたのは良い。そして、馬鹿言ってんじゃないわ。
私達は新種のコスモスをかかえて、キューちゃんに送ってもらった。
母の家に帰ってきたら、そこにアンちゃんが来ていた。
「やあ。みんなお帰り。おっ。ランにアスカ、その花冠似合うじゃないか。」
「パパ!」「おとさん!」
駆け寄っていく娘たち。
キュー。
「ああ、キューちゃんが連れていってくれたのか。ありがとう。」
「そうなの。セピア君の故郷に行ったの。」
「えっ。」
母の言葉に驚くアンちゃん。
「ねえ、ビデージ、マギー。何か甘いものない?キューちゃんにお供えするの。」
「ホッホッホ。奥様。先程マギーがエクレアを作りましたでございますよ。上は生クリーム、下はカスタードクリームという二層になっていて、フタにはチョコをかけた凝った作りです。」
「まあ。美味しそう。」
お盆に盛られて持ってこられたそれを、
パクパクと食べていくキューちゃん。
おや、二個残したぞ?
「あらあら。ランとアスカの分だけ残してくれたのね。」
結構、気配りの人?である。
キュー。
目を細めて消えていった。
「ふふふ、本当に子供好きなんだから。」
「皆さんにはクッキーもありますよ。」
そこでお茶をすることにした。
「ちょっと、仕事の話をしようか?」
アンちゃんが人払いをして忍び達を集める。
母や娘達は別室だ。
(私もはけようとしたけど皆んなから引き留められた。ストッパーらしい。いつもアンちゃんが暴れるとは限らないのにな。)
「まず今日の事を報告してくれ、セピア、ハンゾー、ショコラ。」
「はっ。私とハンゾーは、コスモスの手入れをしていて。」
「レイカさんのお母様から、セピアの故郷に花を手向けないかと誘われて。神獣様を呼び出してくださって、連れて行ってもらいました。」
「ご自分の故郷も焼け野原になったからと、いたくセピアに同情されて。」
「そうか、お義母さんにはお礼を言わなくっちゃな。」
「ところで、アンディ様。今日はあのディックさんをアキ姫さまに会わせたんでしょう?」
ハンゾー君が真面目な顔で聞く。
「ああセピア。昨日おまえが連れて来てくれたもんな。」
「ええ。」
「あれから少し服装を整えさせてさ、髪も切らせていい感じに仕上げた訳よ。
風呂にも入れて一夜あけてのご対面だ。
ネモさんのホテルにある会議室でな。
うん、まあ、確かにレプトンさん系統のお顔だわな。」
「俺も朝チラリと見て驚きました。」
ハンゾー君が言う。
「エリーフラワー様がチカラをいれてメイクしてくださったからな。男振りがあがったよ。」
「俺も対面シーンに立ち会いたかったですよ。」
口を尖らせるセピア君。
「まあなア、おまえは最初ディック氏に手刀とかやっちゃったろ?警戒されたんじゃねえか?」
くくっと笑うアンちゃん。からかってるな、これは。
「そんな、あんなに世話したのに!」
「はは、良いじゃねえか。リード様や王妃様がお出ましになったんだ。」
「あー、それじゃ。アンディ様でなければ立ち会えませんね。」
セピア君はため息をついた。
「ま、そこにはな。アキ姫さま、ディック氏の御両人の他にリード様、王妃様、ネモ様、エリーフラワー様。ついでに護衛としてエドワードが来てるだろ。」
「そうそうたるメンバーでしたね。」
「ああ。」
アンちゃんはコーヒーを飲みながら続ける。
「まずエドワードがディック氏を連れて来たのよ。すると要人の揃い踏みだ。皆さん自己紹介されたら、彼、固まってしまってね。
リード様なんかあのパワーで押してくるからね。
楽にしたまえってね。外国の王妃様や王子様の前で楽に出来るかい。」
目に浮かぶわー。
「雰囲気を変えたのはアキ姫さまだ。
いきなり走り寄ってね、『ディック!』と言って抱きついたのさ。」
うわあ。大胆。
「奴さんも、驚いてね。『アキ姫さまですか?本当に?ああ、ご無事で、よくぞご無事で。あの毒姫から逃れて、よくぞ生き抜いてこられた!』と抱きしめ返したのよ。」
まああ。
「へえ、あのディックの野郎。クールぶってたのにやっぱりやる時はやるんですねえ。」
セピア君が鼻を鳴らす。
「王妃様がお喜びになってねえ。」
恋バナお好きだもんなあ。手を叩いてお喜びになる姿が目に浮かびます。
「アキ姫さまはディックの顔の傷を撫でられてね、『こんなに、こんな目に。辛かったでしょう』と、おいおい泣きだされてな。」
「アレでも大分治ったんですけどね。」
合いの手を入れるセピア君だ。
「エドワードなんかも、もらい泣きだ。『良かったでごわす!』しか言わないの。」
ほほお。ほっこりするわ。
「それからは情報の擦り合わせだよ。ルーデンベルク氏の死を知って流石に愕然としてたけどな。
特に井戸に投げ込まれてそのままって言うのがね。」
「キツイ話ですよね。」
「それでディック氏が、『護衛のジンジャーじゃなくてセピアさんか。彼に掴みかかろうとして、返り打ちにあって、頭を打って思いだしたのです。』って言うからさ。
おまえ来てたら気まずかったんじゃねえか?感謝されたかも知れねえけどな。」
「うわあ、そうですか。」
頭を掻くセピア君。
「そしてネモさんが、『今マナカ国は揉めているんだ。
王太子のミイル氏を廃嫡して長女のマキ姫さまを、次の王にしようとしている。』と言うわけ。」
「あー、初代女王におなりになる、と。」
「まあなア。マキ姫さまは今の王、アアシュラ様の夫に良く似ていてね。
王の血を引いていることは、間違いないからネエ。
実は王も引退することに前向きなんだと!」
ええっ。
「つまりだな。新しい妻と奥に引っ込んで宜しくやりたいんだって。余生を楽しく。」
それって。なーんかいやーな、予感。
胃が重い。
昨日食べた焼き肉の脂が、胃持たれを起こした時のような。
または、横浜家系ラーメンを麺固め海苔増しで注文して、おろしニンニクや生姜もたんまり入れて。
食べてるときはしあわせだったんだけど胃が疲れて。もう、若くないよなあと、思った五十五の春を想い出すような。
(ちょっと例えが長かったか。)
「毒姫をなア、自分の妻にしたいんだと。
あの王はさ、毒姫が自分の娘じゃねえってわかってたのさ。
だから可愛がって甘やかした。やらかしても見て見ぬふりをした。
悪評が流れても止めなかった。そうすれば縁談も来ねえからな!けっ!」
「それじゃあ、王太子と同じじゃないですか。」
セピア君も唖然とする。
「そう、それでこれから父と息子の仁義なき戦いが始まるんだろうな。
どっちにしろあの毒姫は兄と思っていたものか、父と思っていたものかに、囲われるのさ。」
げえ。気色ワリイ。
「アアシュラ様は王の気持ちには気が付いていた。
だから夫婦仲も悪くてな。
仕事もロクにしないのに側妃の所に通っていたと思えば、その娘も目当てだろ。
だから、ヴィヴィアンナ様に熱をあげるんだろうな。」
そうか。ヴィヴィアンナ様はそう言う点では裏切らないからだ。
理想の王子様そのもの。
「実際今でもアアシュラ様が女王みたいなもんだ。
マキ姫さまが次の王になってもスムーズに行くだろうよ。」
「でもその前に、愛憎劇がありそうですよね。」
ショコラさんもため息をついた。




