少しずつ運命が手繰り寄せられてくる。
カレーヌ様の式から一週間後。九月十九日。
王妃様からの呼び出しだ。
「メアリアンさんに見てほしいことがあるらしいんだ。」
アンちゃんに促されて用意をする私達。
「いつものホテルの部屋で良いんですね?」
メアリアンさんの質問に、
「ああ。それからランド義兄さんもレイカちゃんもね。チカラを貸してあげて。」
自分も身支度をしながら答えるアンちゃん。
「魂下ろしなの?」
リード様もくるかな?私と兄貴のチカラだけで足りるかな。
「うーん、いや、多分、違うと思う。」
奥歯にものが挟まった言い方をするアンちゃんだ。
「ある男が生きてるか、見て欲しいんだ。亡くなってたらきっと、彼女にまとわりついてると思うんだよ。」
「なるほど、わかりました。参りましょう。」
メアリアンさんは顔を上げて、パンパン!と軽く頬を叩いて気合いを入れた。
ホテルには王妃様とアキ姫さまがいた。
「お呼びにより参りました。」
アンちゃんにならって頭を下げる。
「もう!固苦しいのはナシ!ナシ!今日はね、アキ姫さまを見て欲しいのよ。」
「レイカさん、お久しぶりです。先日はご馳走様でした!美味しかったし楽しかったですわ。」
アキ姫さまの笑顔はいい。
気持ちがほっこりする。
「いいえ、また来て下さいな。いつでも。」
「嬉しい!また梅ヶ枝餅が食べたいんです。あの味が忘れられなくて。」
豊かな栗色の縦ロールの髪を揺らして、アキ姫さまは腕を胸の前で組んだ。
そのまま軽く頭を下げて来られる。
可愛いなあ。
そのままソファーに座り、お茶をいただく。
リラックスしたところで王妃様が口火を切られた。
「ねえ、レイカ。その時アキ姫さまが幼馴染の男の子のことを話したのを覚えているわよね?」
「ええ、レプトンさんに感じが似ているとか。」
キョトンとする私。
「その子というか、アキ姫さまと同じ年だからもう、
生きていれば二十歳は越えているの。
ねえ、メアリアン。その男性が付いてないか見てあげて?」
王妃様の言葉にアキ姫さまも頷く。
「お願いします。ディックが、ディック・ルーデンベルクが存命かどうか知りたいんですの。」
ああ…そう言う事なのか。
「魂下ろしは…しなくて良いのですね?
今日はリード様がいらっしゃらないから、難しいかも知れませんが。」
「ええ、それは大丈夫。」
おや。王妃様が断言なさる。
「もし必要ならリードを呼びつけるわ。すぐに来るわよ。」
そうですねえ。ははうえー!大好きですからね。
逆にこの場にいないのが驚きでございますが。
「――はい―、では。」
メアリアンさんが目を細める。そして手を打つ。
パン!
「……その方は、金髪で水色の瞳ですか?」
「え、ええ!?そう。まさか?」
「メアリアン、アキ姫さまの所にいると言うのかえ?!」
「……いいえ。その方はいません。だけど…似た姿の男性が、語りかけてきます。」
「え?」
「マナカ国の…騎士の格好をした人が。息子を頼む、と。」
「…えっ。」
驚く王妃様。
「息子って?まさか?ルーデンベルクのおじさま?」
目を見開いて口を押さえるアキ姫さま。
「ルーデンベルク伯爵が憑いていて、訴えているのですね?」
アンちゃんの顔も強張る。
「はい。彼は、ルーデンベルク氏はマナカ王と学生時代、仲が良かったそうですね。
そして騎士となって王の護衛となった。
上からも、下からも信頼厚い騎士だったそうです。
そして、ディックさんと貴女が同じ歳だったから、婚約話が持ち上がった。」
「ええ。私は次女。ディックは三男。お互いに跡も継がない気楽な立場だったから。許嫁だったのです。
口約束でしたけども。」
なるほど。
「それで、ディックさんも騎士となった。貴女の護衛騎士ね。」
「はい。」
「そして、婚約を正式にしようとしたら妹君、ジョセフィン姫の横やりが入った。」
「ええ、占い師様。その通りです。ディックは美男でしたから。」
「…妹君は、ディックさんと婚約しようとして父王にねだったが、流石にルーデンベルク氏の手前、王もうんと言わなかった。」
王妃様の顔が強張る。
「それでそなたを亡き者にしようと?」
「刺客を送って来ました。」
アキ姫さまの表情も硬い。
「そのうち、ディックとその父、ルーデンベルク氏が行方不明になりました。」
えええっ。
ランド兄と顔を合わせる。
アンちゃんの方を見ると無表情だ。
「ルーデンベルク氏は言っています。王太子に呼ばれて行ったら、ワナだったと。毒姫…貴女の妹君の事をこう言ってます…の手のものに殺されたと。」
「ええっ。行方不明になったとしか。」
あまりの衝撃に立ち上がるアキ姫さま。
「…まさか、兄上が噛んでいたの?いくら可愛がっているとは言え。」
「そして、ディック様は父上を探した。
その時毒姫から貴方の父を監禁している、会わせて欲しければ自分と付き合えと。」
「殺しておいてのう。ふざけた話じゃ。」
王妃様も怒る。
「霊となったルーデンベルク氏には伝える術がなく、見ているだけだった。
どうしても自分を拒むディックを、毒姫が手にかけるのを。
手下に切って捨てろ!と命令するのを。」
そこでフラリ、とするメアリアンさん。
「大丈夫?」
私とランド兄とでささえる。
「ええ、手を握っていてください。二人とも。
……ふう、落ち着きました。」
ソファに座らせて二人で包みこむ。
「やはりリードが必要であったかの。すまない。」
「そ、それで、ディックは?」
半泣きになったアキ姫さまが尋ねる。
「その、ルーデンベルク氏が言うには、切られて、簀巻きにされて走る馬車から投げ捨てられた。
だけど、通りかかった馬車に直ぐに拾われて、助けられた、と。」
「ああ!」
アキ姫さまが軽く悲鳴をあげる。
「彼は生きてるんですよね?ここに居ないのですから。」
「私はそう思いますわ。」
メアリアンさんは頷く。
「ルーデンベルク氏はこう言ってる。ディックさんはかなり深手を追った。頭に傷もおった。それで記憶を無くしたと。」
「なんて事!」
「ここから先は私が説明しますよ。王妃様、宜しいですか。」
アンちゃん?
「ええ、アンディ。」
「とりあえず事実を述べます。
一年ちょっと前、マナカ国のダイシ商会のダンから連絡がありました。余命短い細君の為に龍太郎君のウロコを分けてくれないかと。
普通は聞き入れませんが、あまり長い付き合いだったので、ウチにあるウロコのカケラを譲ろうかと思いました。」
そういえばそんなことがあった。アンちゃんがウチにあった龍太郎君のカケラを削ろうとしてた。
(以前ハイド君に使った奴ね)
そしたら母が見かけて、
「お仕事でいるの?怪我したらいけないものね。ねえ、新しいのが良いんじゃない?」
と言って、
ミッドランド邸に電話して龍太郎君を呼んだのよね。
すぐ飛んできた、フットワークの軽いドラゴン。
「オッカサン!オヤスイ御用ダヨ!ハイ!」
って身体をゆすって落としたのよ。
凄いなあって思ったわ。
「ま、残念ながら延命しか出来ませんでしたが。その時に相談されたんです。
実は先日、大怪我をした青年を拾ったと。頭から顔にかけての刀傷で、片目は潰れてるし、記憶も無くしてる。しかし何カ国も話せたりする。
とりあえず雇って重宝してはいるが、
もしかしたら間者ではないだろうか?と。」
それって?まさか。
「それでセピアを送り込みました。もちろんダンの許可を得てですよ。
セピアはジンジャーと名前を変えて、色々探りましたが、やはり記憶喪失に間違い無いらしい。
しかも無意識な身のこなしで多分元、騎士だろう、と。」
「おお、そんな。神様……」
アキ姫さまの目から涙が溢れる。
「それでね、先日記憶が戻ったらしいです。
自分はディックと言う騎士だと。
こちらも半信半疑でしたが、メアリアンさんの霊視で確信しました。」
アンちゃんは淡々と告げた。
スピンオフの「ロージイの話。〜ずっとあなたが好きでした、だけど、卒業式の日ならお別れですか。」とリンクしています。
是非あちらも読んでくださいね。




